共語化
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共語化またはコレクシフィケーション[1](英語: colexification)とは、意味論や言語類型論などの言語学の分野において、一つの言語の中において、複数の異なる意味概念が同じ語形を共有する現象を言う[2]。すなわち、一つの単語が複数の意味を表すことである。例えば、日本語では「人々」と「村」、英語ではpeopleとvillageとそれぞれ異なる単語で〈人々〉と〈村〉という二つの概念を表しているのに対し、スペイン語ではpuebloと一つの語で両方の意味を担っている。
「共語化(co-lexify)」に対立する概念は「異語化(dis-lexify)」であり、これは2つの意味を異なる語彙形式で表すことを指す。[3] たとえばロシア語は〈腕〉〈手〉を同じ語рукаで表すが、スペイン語ではbrazo「腕」とmano「手」のように、これら2つの意味を異なる語で表す。
| 言語 | 語形 | 意味1 | 意味2 | 意味3 |
|---|---|---|---|---|
| バスク語 | herri | 「村」 | 「人々」 | 「国」 |
| スペイン語 | pueblo | 「村」 | 「人々」 | |
| カタルーニャ語 | sentir | 「感じる」 | 「聞く」 | |
| フランス語 | femme | 「女性」 | 「妻」 | |
| fille | 「少女」 | 「娘」 | ||
| grand | 「大きい」 | 「(身長が)高い」 | 「(年齢が)大人になった」 | |
| 英語 | uncle | 「母方の叔父」 | 「父方の叔父」 | 「おばの夫」 |
| draw | 「引く、引っぱる」 | 「線で描く」 | ||
| オーストラリア・クレオール語 | gilim | 「打つ」 | 「殺す」 | |
| 中国語 | 天 tiān | 「空」 | 「天」 | 「日」 |
| 日本語 | 木 ki | 「木」 (英: tree) | 「材木」(英: wood) | |
| モタ語 | pane- | 「腕」 | 「手」 | 「翼」 |
| フィンランド語 | palvella | 「サービスする」 | 「働いている」 | 「貢献する」 |
| murros | 「転記」 | 「裂け目」 | ||
| saavuttaa | 「追い付く」 | 「到着する」 | 「成し遂げる」 | |
| イタリア語 | ciao | 「こんにちは」 | 「さようなら」 | |
| ベトナム語 | chào | 「こんにちは」 | 「さようなら」 | |
| LSF | 「こんにちは」 | 「ありがとう」 | ||
| (sign) | 「(人が)親切な」 | 「(物事が)簡単な」 |
言語類型論
言語によって共語する概念としない概念の分布が異なるため、例えば、日本語では、音を知覚する音を〈聞く〉、声に耳を傾ける〈聴く〉、人に質問する〈訊く〉、薬などの効果がある〈効く〉の4つの概念が同様に「きく」という音形によって表されているため、これらの概念の共語化と言える。しかし、韓国語では日本語同様〈聞く〉(聴く)〈効く〉を「듣다」(トゥッタ)として共語するが、日本語と異なって〈訊く〉は「묻다」(ムッタ)という別の語形によって表され、前者の「듣다」が〈訊く〉を表すこともなければ、後者が〈聞く〉(聴く)〈効く〉を表すこともない。アイヌ語や英語、中国語などの例も合わせて表にまとめると以下の通りである。
| 概念 | 〈聞く〉 | 〈聴く〉 | 〈効く〉 | 〈訊く〉 |
|---|---|---|---|---|
| 日本語 | きく | |||
| 韓国語 | 듣다 | 묻다 | ||
| アイヌ語 | nu | (ko)pisi | ||
| 中国語 | 聽 | 有效 | 問 | |
| 漢文 | 聞 | 效 | 聞 | |
| 英語 | hear | listen | be effective | ask |
共語化は、曖昧性、多義性、同音異義性をあえて区別せず、中立的な記述用語として考案された。言語間でよく見られる共語化もあれば(青と緑の区別など)、特定の言語・文化圏に特徴的なものもある(パプア諸語やオーストラリア諸語で〈木〉と〈火〉の共語[4]、漢蔵語族において〈雷〉と〈龍〉の共語[5]など)。
歴史
この用語は言語学者のアレクサンドル・フランソワによって、2008年の論文「Semantic maps and the typology of colexification」において初めて提唱された。この論文では、〈まっすぐ〉〈呼ぶ〉〈呼吸する〉といった意味領域での例を用いて共語化が示されている。特に「呼吸する」の語義網は複数の言語において「呼吸」「生命」「魂」「精神」「幽霊」などの意味が一体化していることが示され、例えばサンスクリットआत्मन् (ātmán)、古典ギリシア語ψυχή、πνεῦμα、ラテン語 animus, spīritus、アラビア語 روح (rūḥ)などが挙げられている。フランソワはこの例をもとに、語彙的意味マップの構築手法を提案した。
その後、多くの研究が共語化の概念を取り上げ、さまざまな意味領域や言語族に適用している。[6]また、共語化はCLiCS(“Database of Cross-Linguistic Colexifications”)と呼ばれる専用のデータベースでも扱われている。[7] このデータベースは世界の2400を超える言語変種の資料に基づき、特定の共語化事例の類型論的頻度を調べたり、[8] 意味ネットワーク[9]を可視化したりすることが可能である。