北条裕子 (小説家)
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単行本
- 『美しい顔』(講談社、2019年4月)
複数の作品との類似点に関する指摘およびその後の騒動
2018年、小説『美しい顔』で講談社の第61回群像新人文学賞を受賞[4]。この作品は第159回芥川龍之介賞の候補にも選ばれたが[5]、主要な参考文献を明記しておらず[6]、他の作家の先行作品と類似している箇所が複数あることが指摘され[7][8]、謝罪文と参考文献が『群像』2018年8月号に掲載されることとなった[9][10]。新潮社は「単に参考文献として記載して解決する問題ではない。北条氏、講談社には、類似箇所の修正を含め、引き続き誠意ある対応を求めている」とした[6]。また新曜社も類似部分が10数カ所あったことを明らかにした[8]。
しかし講談社は7月3日、「作品の根幹に関わるものではなく、著作権法に関わる盗用や剽窃などには一切あたりません」とする声明文を発表し、同作の全文をホームページ上で無料公開することを決めた[11](7月13日までの期間限定)。またインターネット上で盗用や剽窃といった意見が相次いでいることについて、「多くの関係者の名誉が著しく傷つけられたことに対し、強い憤りを持つとともに、厳重に抗議いたします」とし、新潮社が「単に参考文献として記載して解決する問題ではない」と抗議した件についても、「小説という表現形態そのものを否定するかのようなコメントを併記して発表されたことに、著者は大きな衝撃と深い悲しみを覚え、編集部は強い憤りを抱いております」と反論した[11]。
批評家の佐々木敦は、後述のとおり本作を絶賛していたが、7月3日、講談社の声明に対して「一読し、群像編集部と講談社が新しい才能を守る決断をしたことに心から感動しました。僕は完全に同意見です。読みもせず誹謗中傷してる連中は恥を知りなさい」とツイートした[12]。
類似表現、内容の指摘された作品は次の通り[10]。
- 石井光太著『遺体: 震災、津波の果てに』(新潮社)
- 池上正樹著『ふたたび、ここから 東日本大震災・石巻の人たちの50日間』(ポプラ社)
- 丹羽美之、藤田真文共編『メディアが震えた テレビ・ラジオと東日本大震災』(東京大学出版会)
- 金菱清編『3.11 慟哭の記録―71人が体感した大津波・原発・巨大地震』(新曜社)
- 森健編『つなみ 被災地のこども80人の作文集』(文芸春秋社)
その後、7月6日に講談社は詳しい経緯を発表した[13]。
- 4月10日:群像新人文学賞の最終選考会で「美しい顔」が当選作に決定。前年10月に応募を締め切り、2003篇の応募があった。
- 4月12日:作者の北条裕子が来社し、編集部で初めて面会。『群像』での掲載に向け校正用のゲラ刷りを渡し、「参考にされた本などの資料があれば教えてください」と伝える。なお、面会までの連絡のやり取りから、北条が妊娠中で4月末の出産予定日を控えていることがわかった。
- 4月20日:編集部員が校正済みのゲラ刷りを受け取りに行った際、石井光太著の『遺体』など参考文献を提示されたが、「美しい顔」の表現との関係について整理して思い出すための時間が必要と編集部員が認識し、出産を目前に控えた北条に対し3日後の校了までに詳細をつめることは困難と判断。適切な対応ができず23日の校了を迎えた。
- 5月9日:群像新人文学賞の贈呈式が開催され、前月末の出産を経た北条が出席。編集部が参考文献について改めて確認し、北条は「現地を直接見ていない自分が、震災直後の被災地の様子を小説として書く上で、客観的な事実に反することのないように、自分が読んで感銘を受けた文献を手がかりにした」と答える。
- 5月10日:編集部の調査で『遺体』について5点の類似箇所を確認。『3.11 慟哭の記録』についても類似箇所を確認。類似箇所のうち、より同一に近い記述を含む『遺体』の著者の石井光太に連絡し、面会の希望を伝える。
- 5月14日:石井と面会しお詫び。以後、新潮社と協議。
- 6月25日:『3.11 慟哭の記録』の版元の新曜社から群像編集長宛ての手紙の形で、類似箇所の指摘を受ける。同書は編集部が類似箇所があることを認識していながらも編者の金菱清に対する連絡が遅れ、結果として先方から指摘を受ける形となり、編集部は直ちに金菱と新曜社にお詫び。以後、協議中。
- 6月29日:読売新聞の記事を皮切りにマスコミ各社の報道が始まり、主要参考文献5冊のうち『遺体』と『3.11 慟哭の記録』以外の3冊の版元にお詫びの連絡。
同日、新潮社もコメントを発表した[14]。7月3日の講談社の声明文について「弊社に怒りの矛先を向けた内容。弊社はただただ驚くとともに困惑するばかりでした」と指摘し、「講談社には、版元として冷静な対応を望みます」と要望した[15]。そのうえで「参考文献として作品巻末などに記したとしても、それを参考にした結果の表現は、元のノンフィクション作品に類似した類(たぐい)のものではなく、それぞれの作家の独自の表現でなされるのがあるべき姿ではないでしょうか」とコメントしている[16]。
新潮社からは以下の5つの要望が挙げられた[17]。
- 『群像』誌面で回復措置を行うこと。
- 参考文献を掲載するだけでなく、特に酷似している箇所を修正すること。
- 石井光太の『遺体』のための取材に応じた被災者への対応を考えること。
- 北条自身が書面などで説明を行うこと。
- 講談社が今回の件について社としての見解をまとめること。
7月9日、北条は講談社を通じて文書で謝罪した[18]。