オーラルセックス
口や舌を使って性器を愛撫する行為
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概要
1960年代の性革命以降、とくに欧米諸国ではオーラルセックスに対する忌避感が大きく減少したとされる[3]。さまざまな性行動調査によって異性愛者・同性愛者を問わず広く実践されていることが示されており、現在アメリカでは15〜49歳の男女の8割超が異性とのオーラルセックス経験をもつという報告がある[3]。
日本ではオーラルセックスに特化した大規模調査はまだ行われていないが、感染症関連の調査では、2000年時点で回答者の約60%が過去1年間にフェラチオまたはクンニリングスを経験しているとされている[4]。
またオーラルセックスが一般化したことから口腔を介した性感染症の拡大にも関心が高まり(⇒後述「感染症などのリスク」)、アメリカのCDC(米国疾病対策センター)ではオーラルセックスの体験率を基本指標の一つに加えるようになっている[3]。
歴史

オーラルセックスは古くから世界の様々な文化圏で知られており、口と性器の接触、男性の精液摂取、口を用いた性愛技法などの形で広く記録が残っている[5][6]。
古代エジプトでは、口と生殖能力との結び付きが宗教的象徴として重要な意味を持ち、とくに女性から男性に対するオーラル・セックスが宗教的儀式として行われていたらしい[7]。神話や宗教文書には口を介した生命創造や再生を示唆する記述が見られ、口腔性交に関連するとみられる表現も残る[7]。これらは単なる性的快楽ではなく、生命創造・再生・豊穣といった宗教観念の中で理解されていたと考えられている[7]。
古代ギリシアおよび古代ローマでもオーラルセックスは広く知られた性行為で、とりわけ男性同士の性行為における実践が、陶器画・壁画や、マルティアリスやカトゥッルスらによる文学作品・風刺詩などに多く描かれている[8]。
オーラルセックスについて現在残るもっとも古い体系的な文献は古代インドの性愛論『カーマ・スートラ』とされる[9]。これは性愛を人間生活の重要な要素とみなし、性的快楽とその技法について体系的な整理を試みる書物だが、ここでオーラルセックスは「アウパリシュタカ(口淫)」と呼ばれ、宮廷で暮らす宦官(去勢された男性の役人)が男女の官僚・貴族らに対して行っているとされている[10]。
そして同書は男性の性器(リンガム)を「手に持ち、唇で含んで口の中で舌を動かす」「唇を閉じてリンガムの先端にキスをする」などと詳細な技法を解説する。ただし同書は古代インドにおいてもそうしたオーラルセックスへの人々の態度は一様ではなく、地方によってはこれを獣の振る舞いだとして忌避する者も多いと述べている[10][9]。

中世ヨーロッパでは、カトリック教会の影響のもとで性行為は主として生殖との関係から評価されたため、生殖を伴わない性行為はしばしば否定的に扱われ、オーラルセックスも基本的に「不自然な行為」のひとつとみなされたと考えられている[11]。しかしその一方で、宗教文書、懺悔規定書、裁判記録などには継続的に言及が見らるため、実際には社会の中で存在し続けていたことがうかがえる[12][13]。
オーラルセックスを一種のタブーとみなす傾向は19世紀のヨーロッパおよび北アメリカで加速し、ヴィクトリア朝イギリスなどでは、オーラルセックスはしばしば逸脱的または病理的・変態的行為として扱われ、自慰や女性の性欲などとともに一般社会からは封印し遠ざけるべきものとみなされた[14]。
しかし1960年代から1970年代にかけて性革命が世界的に拡大すると、欧米諸国でもオーラルセックスは一般的な性行動の一つとして広く受容されるようになり、現在に至っている[1][2]。
日本

日本におけるオーラルセックスの実践については直接的な史料が限られているが、古くは『源氏物語』にそれを示唆する行為の描写があることや、江戸時代の春画でも繰り返し描かれてきたことなどから、社会の中で広く認知されてきた性行為だと考えられている[15][16]。
明治期以降は、とくにヴィクトリア朝の道徳観念の影響を受けて、オーラルセックスは一般社会では強く忌避すべきものとみなされるようになった[17]。そのため艶本などをのぞいて公にはほとんど言及されなくなるが、ドイツの性科学が限定的に輸入され、大正時代には「フエラチオ」「カンニリングス」などの言葉が文献に現れている[17]。
この状況が大きく転換するのは、やはり欧米の性風俗の大きな変化を受けた1960年代以降である。大ベストセラーとなった謝国権『性生活の知恵』(1960)は結婚した男女の夫婦生活の手引きをめざして執筆され、避妊方法や詳細な体位の解説と並んで、オーラルセックスを「性器接吻」と呼んで夫婦間の重要な性行為手段とみなしている[18]。
謝は「性器接吻」が「決して無意味に嫌悪したりすべきものではない」「非常に深い精神的愛情があって初めて行われるもの」「女性の多くは…それだけで充分オルガスムを経験することができる」「性生活の適切な薬味として、重要な意義を持っている」などと説き、夫婦間で行う場合の体位についても詳しい解説を行っている[18]。1960年代には性知識の解説と普及をうたう同種の書物が流行し、『性生活の指導』(1962)や『正しい性生活の知恵』(1963)などがオーラルセックスを無害であり奨励されるべきものとしている[19]。

1970年代以降この傾向はさらに加速し、女性誌『婦人生活』は未婚の男女間での「オーラルセックスの楽しみ」を取り上げて「フェラチオは女性もたのしめる」と述べている[20]。
1980年代にはアメリカの様々な女性の性体験を詳細に紹介する『モア・リポート』『コスモ・リポート』などの報告書が相次いで翻訳され、そこでオーラルセックスが一般的に実践されていることが紹介されるようになった[21]。以後は一般の文芸作品にもオーラルセックス描写が登場し[22]、80年代以降に普及したアダルトビデオでも盛んにオーラルセックス場面が描かれるようになったことなどから、社会的な受容のありかたも大きく変化している[22]。
方法
上述のような社会意識の変化を受けて、1990年代から日本でも謝国権などの著作よりもさらに詳細にオーラルセックスの手法が解説されるようになった。1992年の『愛の作法』では、女性読者を対象に男性器への刺激方法をくわしく説明し、男性器は非常に傷つきやすいため「手や指・歯で強すぎる刺激を与えないこと」「太股や乳首など性器以外の部分も刺激すること」などと記している[23]。
2000年代以降は、各国で性感染症の調査が進んだことと性的同意への理解が広がったことを背景に[24]、セックスセラピーや一般向けの性科学書では、男女ともに性的感受性にきわめて大きな個人差があることが強調されるようになった[25][26]。そのため固定した方法よりも、性的コミュニケーションの中にオーラルセックスを位置づけ、身体を清潔に保ったうえで、相手の反応を見ながら強さや速度を調整することや、刺激パターンを安定させ相手をリラックスさせることを重視する解説が行われるようになっている[27]。
感染症などのリスク
アメリカのCDC(米国疾病予防管理センター)は多くの報告書で、性感染症は性器・直腸の接触だけでなく、口・咽頭でも感染すると明記している[28]。
オーラルセックスによって口腔咽頭に感染、または発症する性感染症には、梅毒、HSV(単純ヘルペスウイルス)咽頭炎、HIV(ヒト免疫不全ウイルス)感染症(エイズ)などが報告されている[29]。
特にフェラチオは性器と咽喉が感染経路となって、行う側から男性器へ、また男性器から行う側への双方にウイルスが伝播する可能性が報告されている。とりわけ問題視されているのは梅毒で、CDCがシカゴで行った調査では、梅毒症例の13.7%がオーラルセックスに起因すると推定されている[30][31]。
HSVでは、口唇ヘルペスから性器ヘルペスへの伝播が問題となる。CDCは口唇ヘルペスがオーラルセックスで性器へ感染し、性器ヘルペスの原因になりうると説明している。WHO(世界保健機関)も、HSV-1は主に口周囲の病変・唾液・皮膚表面との接触で伝播し、頻度は低いものの口腔=性器接触で性器ヘルペスを起こしうるとしている[32]。
これらの研究を踏まえて、近年、日本でもオーラルセックスに代表される性行動の多様化と性意識の変化などによる性感染症の拡大が問題視されるようになり、厚生労働省を中心に、オーラルセックスを含む性行為全般でのコンドーム着用をうながす啓発活動が進められている[33]。
一方で感染効率は病原体ごとに大きく異なり、淋菌・梅毒・HSV・HPVでは実質的な感染経路として扱う必要があるが、HIVについては膣性交・肛門性交よりかなり低いとされ、クラミジアについても、感染リスクがありはするものの公衆衛生上の問題はさほど大きくないと考えられている[29][34]。
そのほか
- 2006年に、米マルム大学の学部の研究は、HPV(ヒトパピローマウイルス)に感染している人に対して無防備なオーラルセックスを行うことが口腔癌の危険性を増す可能性が高いことを明らかしている。調査では、がん患者におけるヒトパピローマウイルスに感染した者の率は36%で、健康な人々における感染者率1%と比較して明らかに高い確率でHPVを持っていることされている[35]。
- 複数の研究により、オーラルセックスおよび精液の嚥下が妊娠高血圧腎症(子癇前症)の発症リスク低下と関連している可能性が示唆されている。2000年にオランダの研究者らが発表した研究では、精液を嚥下する口腔性交を行っていた女性は、子癇前症の発症率が有意に低かったことが報告された。この仮説は、精液中に含まれる可溶性HLA(sHLA)抗原への経口曝露が、女性の免疫系を胎児の父系抗原に適応させ、妊娠中の免疫学的拒絶反応を軽減する可能性があるという理論に基づいている[36]。
- 2019年のライデン大学の研究では、オーラルセックスの頻度が低い女性は反復流産のリスクが高い可能性があることが示された[37]。