国民医療費
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国民医療費(こくみんいりょうひ、英語: Estimates of National Medical Care Expenditure)は、当該年度内に日本の医療機関等で行われた、保険診療の対象となり得る傷病の治療に要した費用を厚生労働省が推計したものである[1]。医療保険制度、公費負担医療制度、後期高齢者医療制度などによる給付額と、患者の一部負担額および全額自費で支払われた費用の推計額を合算して作成される[2]。
国民医療費は、国民に必要な医療を確保するための基礎資料であり、医療保険制度および医療経済に関する指標として用いられる[1]。政府統計の総合窓口(e-Stat)では、厚生労働省保険局調査課が担当する年度次の加工統計に分類され、政府統計コードは00450032である[3]。
2023年度の国民医療費は48兆915億円で、人口一人当たりでは38万6,700円、国内総生産(GDP)に対する比率は8.08%であった[4]。
厚生労働省は、国民医療費を中央社会保険医療協議会における診療報酬改定の検討資料や、生涯医療費を推計する際の資料として利用している[5]。
統計表では、制度区分、財源、診療種類、年齢階級、性別、傷病分類および都道府県別の結果が公表されている[3]。
範囲
国民医療費の対象は、保険診療の対象となり得る傷病の治療費である。公的医療保険などの給付分だけでなく、それに伴う患者の一部負担および保険診療の対象となり得る治療について全額を自費で支払った費用も含む[2]。
| 国民医療費に含まれるもの | 国民医療費に含まれないもの |
|---|---|
| 医科および歯科の診療費[2] | 正常な妊娠、分娩および産褥に要する費用[2] |
| 医師の処方箋に基づく薬局調剤医療費[2] | 健康診断、検診および予防接種など、健康の維持・増進を目的とする費用[2] |
| 入院時食事・生活医療費[2] | 美容整形など、傷病の治療を目的としない費用[2] |
| 医療保険による訪問看護医療費[2] | 介護保険による訪問看護費や施設サービス費[2] |
| 医療保険の給付対象となる柔道整復師、はり師などによる治療費[2] | 医師の指示によらないマッサージなど、医療保険の適用外となる施術費[2] |
| 医療保険の給付対象となる移送費、補装具などの費用[2] | 固定した身体障害のために必要となる義眼、義肢、眼鏡などのうち、傷病の治療費に当たらない費用[2] |
| 評価療養・選定療養に伴う保険診療部分である保険外併用療養費[2] | 先進医療などの評価療養、差額室料や歯科材料差額などの選定療養のうち、保険診療の対象外となる部分[2] |
| 保険診療の対象となり得る傷病について、患者が全額を自費で支払った治療費の推計額[2] | 一般用医薬品の購入費、医療機関へ通うための交通費など[2] |
2000年4月に介護保険制度が施行された際、それまで国民医療費に含まれていた費用のうち、介護保険へ移行したものは2000年度以降の国民医療費から除外された[1]。
推計方法
国民医療費は、制度区分別には次の費用を合算して推計する[2]。
- 国または地方公共団体が負担する公費負担医療給付分
- 医療保険制度および労働者災害補償保険制度などによる医療保険等給付分
- 後期高齢者医療制度による後期高齢者医療給付分
- 上記の給付に伴う患者の一部負担額の推計値
- 保険診療の対象となり得る傷病について全額を自費で支払った費用や、自動車損害賠償責任保険による支払額の推計値
公費負担医療給付分、医療保険等給付分および後期高齢者医療給付分には、原則として当該年度内の診療について確定した支払額が使用され、高額療養費も含まれる[2]。
制度区分別の推計額を基礎として、財源別、診療種類別、年齢階級別、性別、傷病分類別および都道府県別の国民医療費が、各種統計や行政記録による構成割合を用いて推計される[2]。人口一人当たり国民医療費は、国勢調査または総務省統計局の人口推計による総人口を用いて算出される[2]。
統計の沿革
国民医療費の推計結果は1954年度から公表されている[1]。
| 年度・年月 | 変更内容 |
|---|---|
| 1954年度 | 「国民総医療費」として推計を開始[1] |
| 1957年2月 | 厚生統計協議会医事統計専門部会が推計方法を決定[1] |
| 1962年度 | 診療種類別ならびに結核・精神・その他の傷病別推計を追加[1] |
| 1972年度 | 国民総医療費から買薬費、あんま施術料などを除外し、名称を「国民医療費」へ変更[1] |
| 1977年度 | 年齢階級別および傷病大分類別の一般診療医療費を追加[1] |
| 1981年度 | 財源別国民医療費を追加[1] |
| 1987年度 | 3年ごとの都道府県別国民医療費の推計を開始[1] |
| 2000年度 | 介護保険へ移行した費用を国民医療費の対象から除外[1] |
| 2008年度 | 性別国民医療費を追加[1] |
| 2010年度 | 従来の一般診療医療費を「医科診療医療費」と「療養費等」に分けて表章[1] |
| 2015年度 | 都道府県別国民医療費を毎年度推計する方式へ変更[1] |
推計範囲や表章方法は時期によって変更されているため、長期的な数値を比較する際には、制度変更による影響に注意を要する[1]。
年次推移
主な年度の国民医療費、人口一人当たり国民医療費およびGDPに対する比率は次のとおりである[4]。
| 年度 | 国民医療費 | 人口一人当たり | GDP比 |
|---|---|---|---|
| 1965年度 | 1兆1,224億円 | 1万1,400円 | 3.32% |
| 1975年度 | 6兆4,779億円 | 5万7,900円 | 4.25% |
| 1985年度 | 16兆159億円 | 13万2,300円 | 4.85% |
| 1995年度 | 26兆9,577億円 | 21万4,700円 | 5.13% |
| 2000年度 | 30兆1,418億円 | 23万7,500円 | 5.61% |
| 2010年度 | 37兆4,202億円 | 29万2,200円 | 7.41% |
| 2015年度 | 42兆3,644億円 | 33万3,300円 | 7.83% |
| 2019年度 | 44兆3,895億円 | 35万1,800円 | 7.97% |
| 2020年度 | 42兆9,665億円 | 34万600円 | 7.97% |
| 2021年度 | 45兆359億円 | 35万8,800円 | 8.12% |
| 2022年度 | 46兆6,967億円 | 37万3,700円 | 8.23% |
| 2023年度 | 48兆915億円 | 38万6,700円 | 8.08% |
2023年度は前年度と比べて1兆3,948億円、3.0%増加し、人口一人当たりでは1万3,000円、3.5%増加した[4]。
2023年度の構成
制度区分別
制度区分別国民医療費は、費用がどの給付制度または患者負担によって支払われたかに基づく分類である[2]。
| 制度区分 | 金額 | 構成割合 |
|---|---|---|
| 公費負担医療給付分 | 3兆4,594億円 | 7.2% |
| 医療保険等給付分 | 21兆5,147億円 | 44.7% |
| 後期高齢者医療給付分 | 17兆2,072億円 | 35.8% |
| 患者等負担分 | 5兆9,101億円 | 12.3% |
| 総数 | 48兆915億円 | 100.0% |
患者等負担分には、患者の一部負担と全額自費による支払額に加え、自動車損害賠償責任保険による支払額が含まれる[4]。
財源別
財源別国民医療費は、各制度の給付額を、最終的に費用を負担する主体へ割り当てた分類である[2]。このため、国民医療費は国や地方公共団体の公費だけを示すものではなく、保険料、患者負担および原因者負担も含む。
| 財源 | 金額 | 構成割合 |
|---|---|---|
| 公費 | 18兆331億円 | 37.5% |
| ┗ 国庫 | 11兆9,252億円 | 24.8% |
| ┗ 地方公共団体 | 6兆1,079億円 | 12.7% |
| 保険料 | 24兆1,383億円 | 50.2% |
| ┗ 事業主 | 10兆5,613億円 | 22.0% |
| ┗ 被保険者 | 13兆5,770億円 | 28.2% |
| その他 | 5兆9,201億円 | 12.3% |
| ┗ 患者負担 | 5兆6,865億円 | 11.8% |
| 総数 | 48兆915億円 | 100.0% |
「その他」には患者負担のほか、公害健康被害補償制度、健康被害救済制度および自動車損害賠償責任保険による原因者負担が含まれる[4]。
診療種類別
| 診療種類 | 金額 | 構成割合 |
|---|---|---|
| 医科診療医療費 | 34兆5,498億円 | 71.8% |
| ┗ 入院医療費 | 17兆8,580億円 | 37.1% |
| ┗ 入院外医療費 | 16兆6,918億円 | 34.7% |
| 歯科診療医療費 | 3兆2,945億円 | 6.9% |
| 薬局調剤医療費 | 8兆4,563億円 | 17.6% |
| 入院時食事・生活医療費 | 7,437億円 | 1.5% |
| 訪問看護医療費 | 5,727億円 | 1.2% |
| 療養費等 | 4,744億円 | 1.0% |
| 総数 | 48兆915億円 | 100.0% |
訪問看護医療費は前年度から23.6%増加し、薬局調剤医療費は5.8%増加した[4]。
年齢階級別
| 年齢階級 | 国民医療費 | 構成割合 | 人口一人当たり |
|---|---|---|---|
| 0~14歳 | 2兆7,688億円 | 5.8% | 19万5,400円 |
| 15~44歳 | 5兆8,422億円 | 12.1% | 14万8,300円 |
| 45~64歳 | 10兆5,998億円 | 22.0% | 30万6,800円 |
| 65歳以上 | 28兆8,806億円 | 60.1% | 79万7,200円 |
| ┗ 70歳以上 | 24兆9,902億円 | 52.0% | 86万4,900円 |
| ┗ 75歳以上 | 19兆1,503億円 | 39.8% | 95万3,800円 |
| 総数 | 48兆915億円 | 100.0% | 38万6,700円 |
65歳未満の人口一人当たり国民医療費は21万8,000円であり、65歳以上は79万7,200円であった[4]。
傷病分類別
主傷病に基づく医科診療医療費をICD-10の傷病分類別にみると、2023年度の上位5分類は次のとおりである[4]。
| 傷病分類 | 医科診療医療費 | 構成割合 |
|---|---|---|
| 循環器系の疾患 | 6兆2,834億円 | 18.2% |
| 新生物〈腫瘍〉 | 5兆1,994億円 | 15.0% |
| 筋骨格系および結合組織の疾患 | 2兆7,581億円 | 8.0% |
| 損傷、中毒およびその他の外因の影響 | 2兆6,977億円 | 7.8% |
| 呼吸器系の疾患 | 2兆5,979億円 | 7.5% |
65歳未満では新生物〈腫瘍〉が1兆7,168億円で最も多く、65歳以上では循環器系の疾患が4兆9,935億円で最も多かった[4]。
都道府県別
都道府県別国民医療費は、患者の住所地に基づいて推計される[6]。
2023年度の人口一人当たり国民医療費は、高知県が49万6,300円で最も高く、次いで鹿児島県が46万9,800円、徳島県と長崎県がそれぞれ46万7,100円であった。最も低かったのは埼玉県の34万2,500円で、次いで千葉県が34万7,200円、滋賀県が35万1,300円であった[4]。
他の医療費統計との違い
概算医療費
厚生労働省が毎月公表する「医療費の動向」における概算医療費は、医療機関から提出されたレセプトを基に、医療保険および公費負担医療の医療費を迅速に集計した速報値である[7]。
概算医療費には、労働者災害補償保険による医療費や全額自費による治療費などが含まれず、国民医療費の約98%に相当する[7]。国民医療費は対象範囲が広く、確定額や各種推計を用いるため、概算医療費より公表時期が遅い。
OECDの保健医療支出
経済協力開発機構(OECD)が国際比較に用いる保健医療支出は、国民医療費より対象範囲が広い。国民医療費に加え、介護費用の一部、民間医療保険からの給付、正常な妊娠・分娩、予防・健康増進などの費用を含む[8]。このため、国民医療費のGDP比を、諸外国の保健医療支出のGDP比とそのまま比較することはできない[8]。