天安門 (小説)
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主人公の米国人は外交官の父を持ち1955年から1960年までの5歳から10歳になるまでの5年間を台湾で暮らした。これは著者のリービの来歴と完全に一致する。そしてリービは実際に1993年に北京を訪問した。本作はその体験が反映されている。
しかし主人公は一人称ではなく三人称の「かれ」(漢字の「彼」ではなく平仮名)で語られる。昔の台湾での生活も北京での体験も「かれ」と表記して自分から距離を離して描く。感情を抑えた冷静で落ち着いた文章である。私小説の要素は強いが典型的な私小説とは確実に差異がある。
日本語の文章の中に頻繁に英語や中国語の会話や文章が混じる。更に中国語や英語の単語をそのまま日本語の文の中に入れたり漢語に英語の振り仮名を付けたりして日英と日中が複雑に入り混じる。台湾で中国語と英語に囲まれて育った著者の幼年期の言語体験が色濃く表現される。
物語
米国人の主人公が飛行機で北京へ向かう。台湾で幼年期を暮らした彼は中国へ行くのはこれが初めてである。父は外交官で家には中国国民党の政治家や軍人が訪れた。母国の米国の記憶が殆ど無い彼には台湾が世界の全てであり中国は遠い異世界であった。
9歳の時に毛沢東の名前を初めて聞く。毛は彼の夢に不気味な怪物となって表れた。休日に父と中国出身の女性外交官と彼の三人でドライブに出かけた。父と女性が二人で話している隙に彼は目的無しに一人で走った。立ち止まり遠い向こうにまだ見ぬ中国と毛沢東の存在を感じた。やがて両親が離婚し母に引き取られた彼は米国へ渡った。父は例の女性と再婚した。

北京に到着した翌日に彼は毛主席紀念堂へ向かった。毛沢東の遺体を観覧するために無数の見物客と共に入る。毛の座像があった。彼は無意識に毛の名前を小さい声で呼んだ。遂に遺体と対面する。後ろの人が自分を押すのも構わず彼は遺体に向かって毛の名前を悲しそうに何度も絶叫した。彼は警護兵に捕まえられて外へ追い出された。