帝京大学医学部裏口入学事件
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手渡しによる寄付金納付
2002年、教育、医療機関である学校法人帝京大学が、7年間だけで150億円の入学前寄附金(裏口入学金)を集め、そのうちの65億円を帝京グループの公益財団法人等に所得隠ししていたことが国税局の調査で明らかになった[1]。それらの資金は帝京大学医学部等に入学希望の学生の親から、入金者が判明できないように現金や小切手の手渡しで授受された上で[2][3][4]、かつ有価証券などの購入にあてられ資産運用されることで資金洗浄と資金増資とが同時に行われていた。
受験生側から寄付金を取り次ぐ仲介者は冲永荘一総長・理事長の親族、同大医学部教授、政治家など少なくとも15人以上に上っていたと報道された。医学部入学のための学力に不安のある病院や開業医の跡取り息子、娘を持つ親が仲介者に接触を求めるケースが多かったという。仲介者は入試前、受験生の親に用意できる寄付金の金額や資産状況、受験生の偏差値などを尋ね、親からの回答を帝京大学の事務局に報告、入試が終わった直後に事務局職員が仲介者や親に「○千万円用意してほしい」などと電話で金額を指定していたという[5]。
また帝京大学グループの系列高校でも、医学部に限らず帝京大学を受験して合格点に足りなかった学生に対して、不足点数に比例した「寄付金」を支払うことで入学許可を出す制度が長年続いていたというグループ傘下の高校教員からの証言もあった[6][7]。
仲介者の一人は「寄付金額を指定された数日後、大学に現金を持っていった」という。大学幹部の部屋で事務的に受験票などと一緒に封筒に入った現金を大学幹部に手渡しした。またある受験生の親の場合、合格発表前に大学内で事務局幹部に会い、現金5千万円を手渡したという。その数か月後、親の元には帝京大と山梨県にある関連財団の名前で半額ずつ領収書が送られてきた。こうした事前寄付金の簿外運用は、当時の東京三菱銀行板橋支店(「帝京支店」とも言われる)が一手に引き受け、同支店では帝京大担当の副支店長を置き、同大事務局が事前寄付金を受け取る度に集金に出向いていたという[8]。しかし同銀行が結果的に帝京大の巨額所得隠しに加担したことについて新聞社が尋ねると、同銀行広報室は「個別取引については答えられない」と返答したという[9]。
1970年代後半に帝京大医学部入試にからむあっせんをしていた都内の男性は、入試前に父母とともに冲永総長に会い、「預かり金が総長に渡されるのを見ていた」と証言した。この男性は、医科大や医学部入学希望の生徒を集め、栃木県内の医師に紹介、この医師の仲介で生徒の親が大学に入試前から数千万円の金を預けていたと言いこう証言した。
通常、お金を払うという親が何人かになると、医師が総長に連絡して、何月何日に何人行くと決める。夏ごろが多い。医師がまず総長の部屋に入り、私は親御さんを一人ずつ『○○先生です。よろしくお願いします』と総長の部屋に連れて行った。
お金の受け渡しも見た。親御さんが『お預けします』とお金を渡すと総長が『じゃあお預かりします』と。大金なのに秘書らしき女性がパッ、パッと事務的にしまっていた — しんぶん赤旗2002年7月23日「帝京大入試前寄付金 ”預り金”渡るの見た 沖永総長の関与 仲介者が証言」
これは銀行振り込みではなく、現金の手渡しで帝京大側が裏口入学金を受け取っていた証言である。帝京大側は冲永総長の裏口入学金への関与を一貫して否定しているが、他方ではこのように冲永総長自身が裏口入学金を受け取った現場を見たという証言があり、両者の主張は真逆になっている。そしてこうした現金による手渡しは、入金元を不明にする手段でもあった。
また、70年代後半だという上記の証言に従えば、帝京大学は2002年を遡ること20年以上前から裏口入学を行っていたことになる。この70年代後半という証言は、脚注の週刊新潮記事「帝京大「疑惑」2つの告発現役教師が明かす「裏口用リスト」の存在」において、証言した「帝京グループの系列高校のある現役教師」が、系列高校側で裏口入学の手伝いをしていたのが「私自身が経験したのは担任を持たされていた(2002年を遡ること)十五年ほど前の話です」と語っている事実とも辻褄が合う。
受験生の父母に入学の口利きをした事実を新聞社に証言した都内の団体代表(当時44)によると、その団体代表は2002年より十数年前に先輩から引き継ぐ形で帝京大学医学部の教授を紹介され、その教授を窓口にして毎年数人を仲介していたという。その代表が父母からの依頼を受けると、教授の研究室などで教授と父母、代表の三者で面談。教授が「ご推薦しましょう」と了解すると、その後教授から代表に電話で金額の提示があり、1人当たりの口利き料は6000万円から1億円だった。合格発表から数か月後、帝京大学の関連財団名で親元に領収書が届いたという。この代表は新聞社に対して、「帝京大は、合格発表前の金集めを一切行っていないと、ウソばかり言うので証言した」などと話したという[10]。
このように国税局の調査で判明した140億円が2002年を遡ること7年間分の調査に限られたのは悪意の脱税の時効が7年であるからにすぎず、帝京大学とその財団は20年以上の間に140億円を大きく超える裏口入学金を受領していた可能性が高い。
2002年時点では「(愛媛県の帝京育英)財団には毎年、医学部受験生の父母数十人から、合否発表前に集めた20億円前後が入っていた」や[11]、「父母からの事前寄付金は年間約約二十億円」とも報道され[12]、また「文部科学省が入手した資料」として「1998年から2001年にかけて、帝京大グループには年間21億円から25億円以上の寄付金収入があった」とされる[13]。上記の証言と重ねれば、これが20年以上続けられてきたことになる。
実際、帝京グループの13もの非課税公益財団法人や帝京大学などに配分、貯蓄されたこの資金を含むことで、帝京大学を除く財団法人の登記簿上の総資産だけでも合計約400億円に上った[14]。
寄付金の流れ
「帝京大学に100億円単位の裏金がある。医学部に関連したものだ」という情報が国税当局に寄せられたのは2000年のことだった。だがそれ以前から帝京大医学部では合格発表前に資金集めが行われているという情報があり、また国税当局もある医学部系予備校への税務調査を行った際、帝京大への資金があることをつかんでいた。この予備校は帝京大などへの入学を希望する父母から資金を集めてプールしていたという。こうした情報から国税当局は、2001年末より帝京大学本体や関連財団への税務調査に一斉着手した[15]。
帝京大学の税務調査が始まった当初、担当者は冲永家関係者が代表者などに名を連ねる財団に、入学希望者の親から集めた金が移されているのではないかと推測して銀行口座などを徹底的に調べた。その結果、不透明な金が流れる帝京大学関連の公益法人などは、数にして50にも上り、調査担当者は驚いたという。
親から集められた年間約20億円の金は、まず一旦愛媛県の帝京育英財団に入るのだが、それは「愛媛県」の財団が持つ東京三菱銀行「板橋支店」の口座に入った。財団の所在地は愛媛県なのだが、口座は東京ということになる。そして半年ほど運用される。この「運用」が中間の手続きとして行われるのである。
その後半分の10億円は帝京大学に入る。財団に入っている残り10億円はその後、上記の50の別法人の中を回されたが、最終的な金の行き先は税務調査でも解明できなかったという。法人間を回った金の行き先として、下記の13法人の243億円の内部留保は確認されているが、どこの金がどこの法人に入ったかまでは特定できなかったという。この、帝京育英財団に入った金を、他の公益法人などに振り分けていたのも同銀行板橋支店の幹部であり、その幹部が法人間の資金の移動などについて帝京大学側に知恵を与えていたという[16]。
こうした故意に複雑化され、不透明化された金の流れの中で、帝京大学に入ったものは学校法人への寄付金ということで課税対象から外されたが、帝京育英財団に入った分については仮装、隠蔽を伴う悪質な所得隠しと国税当局側から判断された。実際、父母から見ても、帝京大学へ寄付したはずなのに、財団名義のものも加えられて数か月後に領収書が送られてきていたのである[17][18]。
帝京大学グループ公益財団法人の巨額内部留保
それらの貯蓄先の財団は公益財団法人が主であったが、これら13の財団は総資産約400億円のうち、内部留保の合計だけでも約243億円に上った。これは税法上の恩恵を受ける公益法人が利潤の追求に走るのを防ぐために、国が「それ以下が望ましい」と定めていた年間事業費と管理費の合計の3割という公益財団法人の内部留保の上限額を大幅に超えるものであった。
実際この超過率が高い財団で上限額の1629倍の内部留保があり、13の財団の合計でも上限額の92倍の内部留保があった。
| 財団名 | 内部留保(万円) | 国の基準額(万円) | 倍率 | |
|---|---|---|---|---|
| 帝京育英財団 | 愛媛県 | 738253 | 453 | 1629 |
| 帝京育英会 | 山梨県 | 323127 | 601 | 536 |
| 旭オールドエイジセンター (旭コミュニティ振興財団) | 千葉県 | 765024 | 2621 | 291 |
| 冲永文化振興財団 | 東京都 | 26568 | 125 | 211 |
| 生涯学習振興財団 | 福岡県 | 33202 | 449 | 73 |
| 労働問題リサーチセンター | 東京都 | 80387 | 1545 | 52 |
| 冲永荘兵衛記念図書館 | 愛媛県 | 200 | 5 | 37 |
| 日本産業リサーチセンター | 東京都 | 14152 | 398 | 35 |
| 帝京山梨教育福祉振興会 | 山梨県 | 417799 | 16867 | 24 |
| 帝京広島健康福祉振興会 | 広島県 | 4573 | 224 | 20 |
| 山梨伝統産業振興会 | 山梨県 | 6278 | 433 | 14 |
| 帝京鳥取健康福祉振興会 | 鳥取県 | 2826 | 222 | 12 |
| 山梨文化財研究所 | 山梨県 | 21385 | 2439 | 8 |
| 合計 | 2433784 | 26387 | 92 | |
たとえば1629倍の愛媛県大洲市の「帝京育英財団」では2001年3月の財務諸表では内部留保が73億8253万円、内訳は預金37億7千万円、約80銘柄の有価証券24億5000万円相当、金地金6千万円相当などだった。一方で学生ら59人への奨学金事業費と職員給与など管理費の合計は1500万円程度にすぎなかった。国の定める内部留保上限額は約450万円となる。愛媛県からは「公益法人の運営として不適切」と改善を指導されていた。 同様に山梨県甲府市の「帝京育英会」は536倍で32億3127万円の内部留保、24億4000万円相当の有価証券や3億2000万円相当の金地金などを保有。291倍の千葉県旭市の「旭オールドエイジセンター(2021年現在「旭コミュニティ振興財団」)」は76億5034万円の内部留保、31億円相当の有価証券と1億3000万円相当の金地金などを保有していた。これらの財団もそれぞれ山梨県、千葉県から改善を指導されていた[19]。
またこれらの財団ほぼすべてで冲永荘一総長とその親族が財団理事長などの役員に就いており、公益法人を隠れ蓑にした税逃れの蓄財目的が強く疑われる財団運営、資産構成であることが明らかになった。2021年現在も各財団の理事長、役員は冲永一族が名を連ねている。
このようにそれらの財団法人は、資産の運用利息の部分だけを育英財団事業などの公益事業に用いることで、表向きには慈善事業の目的を掲げながら、財団の資金の本体は実質的には冲永一族の資産になるという、何重もの巧妙な資金洗浄により、裏口入学金を非課税のまま私有化する仕組みが露見した[20]。
帝京大学本部が財団内部留保金を一括管理
実際、これらの財団は登記上の事務所が置かれている場所では有価証券などの帳簿管理がなされておらず、帝京大学に帳簿類は預けられたままであり、所管する各県から改善を指示されていた。
2002年1月の愛媛県の立ち入り検査では「帝京育英財団」事務所には株運用などの帳簿や伝票類が一切なく、後日株運用について帝京大学の側から愛媛県に電話で回答があった。山梨県の「帝京育英会」も事務所に帳簿類がなく、応対した職員は「経理は東京(の大学本部)でやっている」と話した。千葉県の「旭オールドエイジセンター」の幹部は「大学の本部が運用している。(財団は)運用益を少しずつ受け取っている」と語った。また同センターの事務職員は「ここでは経理はやってないんです。何十億円もうちの財団が持っているなんて知りませんでしたし、そんなに多くはないと思います。カラオケは昨年新しい、いい機械を入れましたけれど」と語った。
上記13の財団法人には入っていないが、64億円以上の資産があることになっており、特別養護老人ホームを営む社会福祉法人寿栄会(東京板橋区 2021年現在冲永寛子理事長)[21]の事務職員は「収入減で、職員の給与を下げないようにやりくりが大変なんです。施設の改修もしたいのですがままなりません。帝京大のほうで、出してくれればいいんですが」と語った[22]。
こうして、これら財団の巨額の内部留保金本体の資産管理と財団名義の有価証券などの資産運用は帝京大学本部が一括して行っており、財団が置かれている事務所では自らの資産本体にも資産運用にも関与していないことが明らかになった[23]。そしてこの帝京大学本部による多法人の一括資産管理、運用の体制が改善されたという報道は、2002年以後2021年現在まで確認されていない[要出典]。
マネーロンダリングの手法
こうした一連の裏口入学金の処理方法は典型的なマネーロンダリング(資金洗浄)の三つの過程である「預入」「分別」「統合」の3段階を経ていると言える[24]。まず裏口入学金を現金の手渡しで受け取ることによって入金元がわからない形で銀行口座に入れ(預入)、次にそのお金を帝京育英財団を経て、判明した限りで13もの財団法人、疑わしいものも含めれば50もの法人と帝京大学とに分け(分割)、さらにそれらの法人の育英事業や福祉事業の資金と一緒にすることできれいな資金に見せかけ(統合)、かつすべての法人のお金を帝京大学板橋本部で一括管理しそこで自由に操作できるようにするという過程である。
またこれら一連の過程が、裏口入学を行った大学だけではなく、取引銀行とのつながりの中で遂行されたと報道されたことも、本件の大きな特徴である。
冲永荘一総長の関与否定
こうして裏口入学金の入金先として上記の非課税の学校法人や公益財団法人が用いられていたため、裁判では刑事上の脱税有罪とはならなかったが、文科省は省令違反として帝京大学へ経常費補助金の停止を行い、認可申請中だった医療技術学部は申請が取り下げられ、冲永総長は退任した。尚、上記の公益財団法人等は2021年現在も存続し、冲永佳史総長(荘一の次男)とその関係者を役員として管理、運営されている。また、2021年現在まで帝京大学はこれらの合格決定前の裏口入学金とそれにまつわるさまざまな事件について、公式には責任を認めておらず謝罪もしていない。さらに当時の冲永荘一総長によるそれらの事件への関与も認めてはいない。
文部科学省は2002年6月27日、冲永荘一総長ら大学トップを同省に呼び事情を聞いた。しかし同省によると大学側は入学前の寄付金授受などについて、「(総長ら当時の)幹部は全く関わっておらず、事前寄付金の事実も知らなかった。2002年3月に死亡した前事務局長の責任と判断でやっていたと思う。」などと説明、寄付金の授受も該当する受験生が学内で合格判定を受けた後のことで、入試にも不正はなかったと主張した。それに対して同省は「事務局長一人が関与していたという主張は不自然」と指摘、正式な調査報告書の提出を求めた[25]。
この寄付金への大学トップの関与はなく、しかも合格決定以前に寄付金を受領する裏口入学行為自体が存在しなかったという大学側による文部科学省への説明は、2002年7月14日の参議院厚生労働委員会における、「帝京大学特別調査委員会事務局長」からの答弁などでも繰り返された。またこの「特別調査委員会事務局長」は、帝京大学の内部から選ばれた人物だった。それでもこの帝京大学側からの説明や答弁は、その後現在に到るまで大学トップの裏口入学への関与を否定し、事件そのものの存在をも公式には認めない帝京大学の見解の根拠となった[26][27]。