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応益負担

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応益負担(おうえきふたん)とは、租税、社会保険料または公共サービスの利用料について、所得や資産などの負担能力ではなく、公共部門から受ける便益や利用したサービスの量に応じて負担を求める考え方である[1][2]。財政学の租税負担論では、国家が提供する便益に応じて納税すべきだとする応益原則(英語: benefit principle)または利益説として論じられ、個人の負担能力に応じて負担を求める応能負担または応能原則と対比される[1]。

社会保障や福祉サービスでは、利用したサービスの費用または量に一定の割合を乗じて利用者負担を算定する方式が応益負担と呼ばれることが多い[3]。ただし、実際の制度では、利用量に応じた定率負担に、所得に応じた月額上限、減免または公費負担を組み合わせることが多く、応益負担と応能負担は必ずしも相互に排他的ではない[4]。

概念

応益原則との関係

応益原則は、政府が供給する公共財・公共サービスから大きな便益を受ける者ほど、その供給費用を多く負担すべきだとする租税負担上の原則である[1]。これに対し、応能原則は、公共サービスから受ける個別の便益ではなく、所得、資産または消費などによって示される担税力に応じて負担を配分する考え方である[1]。

応益原則は、負担額を所得にかかわらず一定とすることや、比例税率を採用することと必ずしも同義ではない[5]。林正義は、所得の高い者ほど公共財に対する支払意思額が大きい場合には、応益原則に基づく負担であっても高所得者の負担額が増え、一定の条件では負担率が累進的になることもあり得ると説明している[5]。

利用者負担との関係

公共サービスの費用を利用者へ負担させることは一般に受益者負担と呼ばれるが、受益者負担が直ちに応益負担を意味するわけではない[2]。行政サービスの利用者から費用の全部または一部を徴収する場合でも、その額を利用量に応じて決定すれば応益負担となり、所得や資産に応じて決定すれば応能負担となる[2]。

京極髙宣は、社会サービスの利用者負担について、サービスの生産費用の全額を示す市場価格ではなく、公費で賄われる費用の一部を利用者に求める料金として位置付けている[6]。このため、利用者が一定額を支払っていても、それだけでサービスの費用全体が私的負担によって賄われていることにはならない[6]。

理論的根拠

応益負担は、同じ程度の便益を受ける者には同程度の負担を求めるという水平的公平の考え方と結び付けられる[1]。行政サービスに私的な便益が含まれる場合、その受益者が費用の一部を負担することで、受益者以外の納税者へ費用を全面的に転嫁することを避けられるとの主張がある[2]。

社会サービスの利用者負担について、京極は、財源の確保、需要の調整、過剰な給付の防止、利用者としての発言権の拡大および公的サービスの普及を促す効果が想定されていると整理した[6]。厚生労働省も、障害福祉サービスへの応益的な負担を提案した際、既存利用者と新規利用者の公平を確保し、必要なサービス量を安定的に供給するため、利用者、国および地方公共団体が費用を分担する必要があると説明した[3]。

一方、応益負担による需要抑制が、不要または優先度の低いサービスの利用だけを選択的に減少させるとは限らない[7]。岡部耕典は、所得の低い利用者ほど負担増による利用抑制が強く生じる可能性があり、必要なサービスの利用まで減少させる場合には、歳入の確保や給付の適正化という目的を達成できないことがあると論じた[7]。

租税

租税における応益原則には、国家による生命・財産の保護から受ける便益に応じて納税するという古典的な利益説と、各人の公共財に対する支払意思額に応じて費用を分担するという近代的な利益説がある[1]。後者は、クヌート・ヴィクセルおよびエリック・リンダールによる公共財の供給と負担に関する議論と結び付けられ、各人の負担割合と希望する公共財の供給量が一致する状態はリンダール均衡(英語版)と呼ばれる[1]。

日本では、地方公共団体が住民や企業へ行政サービスを供給することから、地方税について応益原則が重視されることがある[8]。法人事業税の外形標準課税についても、法人が地方公共団体の行政サービスから便益を受けることを前提に、事業活動の規模に応じて負担を分担する制度として説明されている[9]。

ただし、防衛、警察、公衆衛生などの公共財は、個人ごとの利用量や便益を直接測定することが困難である[10]。所得再分配や社会保険についても、給付を実際に受けた者だけでなく、将来の生活上の危険に対する保障を得る国民全体が事前の便益を受けると捉えることができるため、何を便益として負担へ反映させるかによって応益原則の適用結果は異なる[11]。

社会保険

社会保険では、保険料の賦課とサービス利用時の自己負担について、異なる負担原則が採用される場合がある[12]。三原岳によれば、日本の被用者医療保険の保険料は所得に応じた応能負担を基本とする一方、市町村国民健康保険などの地域保険では、所得に応じた部分と加入者数などに応じた応益的な部分が組み合わされてきた[12]。

介護保険では、制度創設時に、所得に応じた費用徴収に代えて、利用したサービスの一定割合または一定額を負担する方式が採用された[13]。利用者負担額をサービス量に連動させることで、利用者間の負担を統一し、制度の財源を確保することが制度導入時の理由として示された[13]。

障害福祉サービス

2005年に成立した障害者自立支援法は、従来の所得に着目した応能負担から、サービス量と所得の双方に着目し、サービス費用の原則1割を負担する方式へ利用者負担を改めた[14]。同制度では、利用量に応じた定率負担だけでなく、所得に応じた月額負担上限と低所得者への軽減措置も設けられたため、純粋な応益負担ではなく、応益負担と応能負担を組み合わせた制度であった[4]。

応益的な定率負担の導入に対しては、障害が重く多くのサービスを必要とする者ほど負担が増加することや、低所得者が必要なサービスの利用を抑制することへの批判が生じた[15]。政府は段階的に負担軽減策を拡充し、2010年4月には市町村民税非課税世帯の障害福祉サービスおよび補装具の利用者負担を無料とした[16]。

2010年に成立した改正法は、障害福祉サービスの利用者負担を、利用者の家計の負担能力に応じたものとすることを原則として法律上明記した[17]。2012年4月以降の制度では、サービス費用の1割を上限としながら、所得に応じた月額負担上限を適用する応能負担が基本とされている[18]。

制度設計上の論点

便益の把握

応益負担を実施するには、誰がどの程度の便益を受けたかを判定し、その便益と負担額を対応させる必要がある[1]。道路、消防、治安および公衆衛生のように、不特定多数が間接的な便益を受けるサービスでは、個人別の便益を正確に測定することが難しい[10]。

サービスの利用量を便益の大きさの代理とする方法もあるが、利用量が多いことが、利用者の選好の強さではなく、疾病、障害または要介護状態による必要性の高さを反映している場合がある[19]。この場合、利用量に比例した負担は、必要な支援が多い者ほど高い負担を負う結果となる[19]。

負担能力との調整

応益負担は、同じサービスを利用した者に同程度の負担を求める水平的公平を重視する一方、同じ金額であっても所得の低い者ほど家計への影響が大きくなるという問題を持つ[7]。このため、現実の制度では、所得に応じた負担上限、定額の減免、一定所得以下の負担免除、高額利用者への給付などを組み合わせることがある[20]。

林は、応益原則と応能原則を単純な二者択一として扱うべきではなく、公共財に対する評価が所得とともに増加する場合や、社会保障を将来の危険に備える保険として捉える場合には、両原則が同じ負担構造を支持することもあり得ると指摘している[5][11]。

サービス利用への影響

利用者負担は、サービスの需要を抑制し、限られた財源を優先度の高い用途へ配分する手段となり得る[6]。一方、負担増によって抑制される利用が不要な利用であるか、必要な利用であるかは、サービスの種類、利用者の所得および需要の価格弾力性によって異なる[21]。

梶晴美が訪問介護サービス利用者を対象として行った調査では、経済的な負担能力が低い世帯や要介護度が高い利用者ほど、必要量に対するサービスの充足度が低く、自己負担額の抑制がサービス不足の主な要因の一つとなっていた[22]。したがって、応益負担の制度設計では、財源確保や過剰利用の抑制だけでなく、必要なサービスへのアクセスを維持するための上限および減免措置が論点となる[7]。

関連項目

脚注

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