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ランダウアーの原理

情報の論理的に非可逆な計算(削除)が、環境(熱浴)での相応する熱力学的エントロピー上昇を起こす数学・物理学・工学の原理 From Wikipedia, the free encyclopedia

ランダウアーの原理(ランダウアーのげんり、: Landauer's principle)とは、情報が論理的に不可逆に削除されると熱が散逸することを示す情報理論熱力学、情報熱力学、量子情報科学の原理[1][2]。(情報理論は数学工学[3]、量子情報科学は数学と物理学情報科学に該当する[4]。)端的にはこの原理は「情報は物理的である」として説明されており、永久機関としてのマクスウェルの悪魔(熱力学第二法則に反するパラドックス)を解消する決め手となった[1]。1961年にロルフ・ランダウアーによって示され[1]、2012年以降に実験で実証された[5][6]

概要

米国物理学協会の『フィジックス・トゥデイ』によればこの原理は、「それ[情報]は物理学の法則、特に熱力学の法則に従わねばならない」と示している[7]。『ネイチャー』の2021年の解説記事においてランダウアーの原理は「古典的および量子的な領域で実験的に実証済みであり、今日では‘information is physical’[情報は物理的である]という考えは自明に見える」とされている[1]

この原理があるため理想的条件下で、ある一つの(システム)において論理的不可逆に削除される情報量が1ビットである場合でさえ、最小でもの熱散逸(熱力学的コスト)が生じる[2][1]。それはの熱力学的エントロピー熱浴(系の外)で増えることと等しい[2][1]。1961年以降、情報熱力学や量子情報科学ではこの原理が前提とされて、熱散逸を限界まで減らしつつ計算する方法が研究されるようになった[1]

また情報熱力学などの分野では「情報処理デバイス」という概念は、人工的なコンピュータのみならず生物にも当てはまり、細胞コンピュータネットワークや分子生物学レベルの定量的記述が発展していくと考えられている[8]。なお統計力学、熱力学、情報理論のエントロピーを統一的に処理する場合はBGSエントロピー(ボルツマン-ギブズ-シャノンエントロピー)という概念が使われている[9][10]

情報の消去など論理的に非可逆な計算は熱力学的にも非可逆であり、環境での相応する熱力学的エントロピーの上昇を必要とすることを主張する原理である。1961年にIBMロルフ・ランダウアーによって始めに議論された。

定量的には、情報処理過程において1ビット(=1シャノン)の情報を失うとき、環境での熱力学的エントロピーの上昇も最低でも1ビットとなる。通常の物理的単位で表すならこれは k ln 2 であり、よって環境に放出される熱は最低でも kT ln 2 となる(ただし、kボルツマン定数T絶対温度)。この限界値は、ランダウアーの限界 (Landauer's limit) もしくはフォン・ノイマン=ランダウアーの限界と呼ばれる。

ランダウアーの原理は熱力学第二法則の理論的帰結として理解できる。計算の論理状態の数が計算が進むにつれて減少するならば、熱力学第二法則よりエントロピーを減少させないように、各論理的状態に対応する物理的状態の数がそれを補償するだけ増加しなければならない。システムの論理状態のみを取り出すことができる観測者にとっては、これは熱力学的エントロピーが増大したことを意味する。

この限界は情報処理過程が論理的に非可逆な場合のみに存在するものである。情報の消去がない可逆計算ならば、原理的に熱力学的にも可逆なものにすることができ、こうした限界は存在しない。換言すれば、用いられる基本的な計算過程を元の状態から結果の状態への関数として表したとき、すべて単射(1対1)となるようなものならば、エントロピーの増加量に理論的な下限は存在しない。通常の論理和や論理積はこの条件を満たさないが、単射とするための「ゴミ」を忘れずにとっておくような過程ならばこれは実現できる。

ランダウアーの限界はもちろん現在の通常のコンピュータにとっては問題にならないほど小さな値である。しかし、熱力学第二法則に反するように見えるために多くの論議を巻き起こしたマクスウェルの悪魔の問題をチャールズ・ベネットが議論した際に、悪魔の記憶の消去によるエントロピーの増加を表すものとして決定的な役割を果たした。

関連項目

脚注

参考文献

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