戦争の研究
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国際法学者のライトは、ロカルノ条約締結でヨーロッパの安定が見えた1925年の翌年、1926年に戦争の研究に着手した[1]。教授として勤務したシカゴ大学で多数の協力者を得て、過去の歴史学、軍事研究、そして自らの国際法の知見をふまえて整理集成した。その成果が『戦争の研究』である。刊行は第二次世界大戦が全面化してから、1942年1月になった。
戦争に関する著作は古くからあるが、それらはみな究極的には戦争に勝つための方法を述べるものであった。欧米で大きな影響力を持ったクラウゼヴィッツ『戦争論』は、国家の政治目的のための手段として戦争があると論じており、指導者・指揮官の目的に即していればよいという考えである[2]。巧拙を論じても被害には目を向けない。ライトは、常に歴史的・社会的条件を考慮しつつ、戦争とそれ以下の争い(内戦・反乱や、戦争に至らない対立など)、戦争する組織・単位、外交・国際法との関係、兵士や経済の動員、世論の影響などをとりあげ、最後に平和の条件を論じた。戦争の原因に目を向けたもので、そのような角度からのものとして、最初の戦争研究である[3]。ライトの動機には、第一次世界大戦の惨禍を繰り返さないようにという願いがあり、第2版ではそれが第二次世界大戦に、そして核戦争も念頭に置かれた。勝てばよいという段階でなくなった時代背景のもとに生まれた研究である。
ライトの研究のもう一つの価値は、過去の戦争の情報を大量に収集し、事実の裏付けによって論じたところにある。ライトによれば、1480年から1964年までに284件の戦争があったという[4]。この頃さまざまな分野で現れた、統計を取り入れて新境地を開拓した研究の一つでもある。
初版刊行は第二次世界大戦中のことだが、初版はこの戦争を反映していない。1964年に第2版があり、第二次世界大戦と核兵器、冷戦の知見をとりこみ、その他多くを書き改めた。両方とも2冊本。後に、大量の注と補遺を削って1冊にまとめたものが、Midway Reprintとして1983年に出版された。いずれもシカゴ大学出版の発行である。日本語訳はない。
本書は第二次世界大戦後、アメリカの「多くの大学の国際関係論や平和学関連のシラバスで必ず読むべき本として」あげられた[5]。平和主義の思想を述べる部分はないが、戦争の原因を探求するという姿勢により、科学的平和研究の先駆けとも言われる[6]。
脚注
参考文献
- Quincy Wright A Study of War, Chicago University Press, Midway Reprint (1984) of Second Edition (1964). First Edition 1942. (Abridged by Louise Leopnard Wright).
- 多賀英俊『平和学入門』第1巻、勁草書房、2020年。
- 寺島俊穂『戦争をなくすための平和学』、法律文化社、2015年。
- アナトール・ラパポート『現代の戦争と平和の理論』、岩波書店(岩波新書)、1969年。