死後の恋
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ロシア革命直後のウラジオストク。スウェツランスカヤ(ウラジオの銀座通り)の大通りをさまよう奇妙な風体の男。唐突に、誰ともなく通行人をつかまえては、『私の運命を決定(きめ)てください』と、ただならぬ言葉を皮切りに、数奇な体験を語り始める。彼が例えていわく「死後の恋」。それは美貌の少年兵との、奇妙な物語だった。
語り手はワーシカ・コルニコフと名乗り、実はまだ24歳なのだと語る。彼はモスコー生まれの貴族の一人息子だったが、ペトログラードの革命のために家族と家産を失い、自暴自棄になって白軍に身を投じ、セミヨノフ将軍の配下に加わったのだという。
大正7年(1918年)8月初旬、コルニコフは烏首里(ウスリ)という村に移動してきたが、そこでリヤトニコフという、貴族出身らしい17、8歳の少年兵士と知り合い、仲良くなった。間もなくセミヨノフ軍は、この村に白軍が移動してきたことをニコリスクの日本軍に知らせるため、連絡斥候を出すことにした。連絡斥候に加わることになったリヤトニコフは、語り手に、ひそかに隠し持っていた宝石を見せる。それは彼の両親から渡されたものだという。だが前日の夜、彼は、自分の両親と兄弟が過激派に銃殺された、という噂を聞いて絶望した、というのだ。
前日にニコラス廃帝とその一族が過激派軍に銃殺された、という噂を聞いていた語り手は、リヤトニコフの正体に思い当たる。しかし、ニコラス廃帝の皇子は、廃帝と一緒に殺害されたとされる皇太子アレキセイ殿下以外にいないはずである。それではリヤトニコフは、ロマノフ王家に極めて近い貴族の息子なのだろうか。
語り手は、リヤトニコフがなぜ自分に宝石を見せたのかわからなかったが、宝石のことが気にかかり、自分も斥候に参加することを申し出る。
だが、隊はニコリスクを目前にして、クライフスキーから南へ約8露里(2里)の地点で、森の中で赤軍の機関銃攻撃を受け壊滅。一人だけ生き残った語り手は、宝石のことがあきらめきれずにリヤトニコフを探し回るうちに、仲間たちが裸にされて一人ずつ木に括りつけられ、暴行を受けた上で殺害されているのを発見する。その中にはリヤトニコフの遺体もあった。その姿を見た語り手は叫び声をあげる。リヤトニコフは女性だったのだ。彼女の肉体は「強制的の結婚」によって蹂躙され、彼女の持っていた宝石は、空砲に籠められて下腹部に撃ち込まれていた。
語り手は、リヤトニコフが自分に恋しており、自分と結婚したいという思いから宝石を見せた、ということにようやく気づく。そして、死してなお、語り手に宝石を渡そうとして語り手を森に招き寄せたのだ、と確信する。
語り手は血と煤にまみれた宝石を持って浦塩の町をさまよい歩き、リヤトニコフの「死後の恋」の物語を語るのだが、誰にも信じてもらえない。最後に聞き手の日本軍人からも拒絶された語り手は、「アナスタシヤ内親王殿下……」とつぶやく。
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