悪魔祈祷書
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ある地方都市の古本屋に雨宿りがてら立ち寄った大学の「先生」[2]に、店主が語る独白体形式の小説。
夏休みに、××医専の学生が、先祖代々伝わってきたという聖書を持ち込んできた。古本屋は1冊3円で買い取ったが、中身を調べてみると活字本ではなく、1626年に英国で作られた筆写本であり、しかもその内容は聖書ではなく、デュッコ・シュレーカーの BOOK OF DEVIL PRAYER (外道祈祷書)[3]という奇書であった。世界にたった1冊しかないと噂され、かつて100年ばかり前にロスチャイルドの次男か三男が10万ポンドの懸賞付きで探し求めた、という逸話を持つという代物である。
黒い革表紙には HOLY・BIBLE という金文字の刻印があり、頑丈な生皮のケースに収められていた。そのケースには MICHAEL・SHIRO と読める朱墨の文字が記されていたので、おそらく天草一揆の頃に日本に渡って来て、ミカエル四郎と名乗る日本人が秘蔵していたのではないか、と古本屋は推測する。あるいは天草四郎かもしれない[4]。
一見したところ見出しは本物の聖書と同じで、『創世記』の冒頭の4、5行くらいまでは本物の聖書と同じなのだが、その後は、聖職者でありながら聖書の内容に疑いを抱いて医薬化学の研究に転向し、ついには「悪魔道のキリスト」と自称するに至ったシュレーカーが、自分の信仰する悪魔の道を世界中に宣伝する、という内容になっていた。旧約の部分は人類悪の発達史というべき内容で、エジプトの王様、ペルシャ王ダリオス、
古本屋はこの本をケースに入れて棚に並べ、興味を持った客に1000円くらいで売りつけようと思っていたが、3月ほど前に中身だけが万引されてしまっていた。
話がここまで進んだところで、古本屋は、「先生」の顔色が悪くなっていることに気づく。「先生」は、その本を万引したのは自分であることを自白して、代金の手付金として、もらったばかりの月給300円を手渡す。「先生」は普通の聖書だと思っており、中身を確かめていなかったのだが、今年の春から妻にピアノを教えに通ってきている若いピアニストが、珍しがって借りて行った。ところが、それから一週間ばかりたって妻が妊娠3か月で流産し、さらに息子が数日前に急に食中毒で死んでしまった。自分も最近、胃の具合が悪い。これは、あのピアニストが、『外道祈祷書』に記された毒物を使ったのに違いない、という。
あわてた古本屋は、いままでの話は全て口から出まかせの、根の葉もない作り話であった、と告白する。問題の本はやはり普通の聖書である。もっとも、1680年の筆写本なので珍本であることは間違いなく、300円くらいの価値はある。実は古本屋は、「先生」の万引には最初から気づいており、そのうちに代金を請求しようと思っていたのである。
脚注
外部リンク
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