烏谷昌幸
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研究/主張の内容
2022年に『シンボル化の政治学ー政治コミュニケーション研究の構成主義的展開』(新曜社)を刊行。社会の中で生まれる人々の欲望、感情と強く結びついたシンボルが、政治の領域に取り込まれて利用されていく「シンボル化」のプロセスを研究することの重要性を主張した[2]。
その後、シンボル化の政治の現代的事例として陰謀論政治に注目し発言するようになる。そのきっかけは、2021年1月6日にアメリカで連邦議会議事堂が襲撃された事件であったという。この襲撃は、バイデン大統領が当選した2020年のアメリカ大統領選で大規模な不正が実施された(「選挙が盗まれた」)という「不正選挙陰謀論」を信じた人々によって引き起こされたものであった。
【陰謀論の日常化】
当初はトランプの陰謀論にのみ関心を持ち、日本の陰謀論にはほとんど関心は無かったという。しかし、2024年頃から日本でもSNSの中で広まった陰謀論が政治に影響を与えるケースが散見されるようになってきたことを受けて、関心を持つようになっていったとのこと。そして、日本でも「陰謀論の日常化」(24時間途切れることなく陰謀論が生産され続ける状態のこと)が進み始め、「陰謀論の快楽」に目覚める人が増加し始めたという。こうした事情を踏まえて、今後陰謀論が重要な研究課題になると論じている[3]。
2025年に出版された『となりの陰謀論』(講談社現代新書[4])では、「陰謀論の日常化」の背景にあるのがインターネット、特にソーシャルメディアの普及であることが指摘されている。それ以前は大きな事件が発生し、マス・メディアで事件についての「通説」が生まれた後で、「マスコミの語らない真実」として陰謀論が語られることが一般的だった。しかし、ソーシャルメディアの登場によって事件を待つ必要がなくなった。誰もが24時間途切れることなく陰謀論の新作を制作し続けるようになったというのだ。いつの時代にも存在したはずの陰謀論が、今日の深刻な社会的、政治的な問題となっているのにはこうした「陰謀論の日常化」という事情があるのではないかということだ[5]。
【陰謀論を生み出す剥奪感】
烏谷は、当初アメリカのような陰謀論政治が日本で生まれるとは思っていなかったようだ。しかし、2025年7月の参院選で参政党が大躍進を遂げた後に、その見立てが甘かったと訂正している。そもそも、陰謀論はなぜ生まれるのか。この問いについて彼は、「何か大切なものが奪われる(た)という感覚(=剥奪感)」を強調している。アメリカでは白人の人口が減少して優越的地位を失うことが明白であることから、多くの白人は祖国にいるのに見知らぬ土地に取り残されているような感覚、快適で幸福な環境が奪われているという剥奪感を抱いているという。陰謀論を生み出すのは、まさにこのような剥奪感であるというのだ[6]。
【シンプルな認知を求める人々の欲望】
『となりの陰謀論』では、陰謀論を生み出す要因としてもう一点、シンプルな世界認知を求める人々の欲望についても言及がある。人間は剥奪感に囚われると、その原因を説明するシンプルな答えに飛びつきたくなる。「黒幕はあいつだ」という単純明快な説明は、人々を混沌とした認知状況から救い出し、安心感を与える。複雑な現実に翻弄されて立ち尽くすよりも、「敵」の顔をハッキリさせて、「仲間と協力」して正義の戦いに立ち上がるという「使命感」で心を満たす方が誰にとってもはるかに容易だし、魅惑的だ。「黒幕」の存在を強調することで、「あなたは悪くない」というメッセージを人々が受け取ることもできる。
こうして陰謀論は人々を元気にする。人々の使命感や心理的安定の支えとして機能し始めた陰謀論を取り上げることは極めて困難である。このように、多くの人が陰謀論に引き寄せられる原因がある以上、その根本原因となるものを手当てしなければ、陰謀論は収まるどころか更に広がっていくことが指摘されている[7]。
【ドナルド・トランプについて】
烏谷は、ドナルド・トランプのことを陰謀論を悪用する政治家であると様々なところで指摘している[8]。例えば、真鍋厚の著作『令和ひとりカルト最前線』の書評をする中でトランプのことに言及している。
真鍋の著作は、大災害や核戦争など人類の生存を脅かす環境下で「人は如何に生き残ることが可能か?」を問うていた「サバイバリズム」の思想が、今日、過酷な競争社会の中で肥大化した「生存至上主義」として暴走し始めていることを論じるものだ。烏谷は真鍋の著作の意義を高く評価しながら、「生き残るためならば、何をやってもいい」という生存至上主義が、人々の足枷ともなり得る規範やモラル(マイノリティへの配慮や寛容性)を敢然と捨て去ることをむしろ美徳とするような風潮を生み出し、トランプのような「サイコパス」にも見える人物への人気を生み出しているのではないかと述べている[9]。
脚注
- ↑ “烏谷昌幸(カラスダニマサユキ)”. 慶應義塾研究者情報データベース. 慶應義塾大学 (2026年2月18日). 2026年2月18日閲覧。
- ↑ 『『シンボル化の政治学ー政治コミュニケーション研究の構成主義的展開』』新曜社、2022年10月4日。https://www.shin-yo-sha.co.jp/book/b611412.html。
- ↑ “烏谷 昌幸:陰謀論とSNS|特集|三田評論ONLINE”. 三田評論. 2026年1月16日閲覧。
- ↑ 『『となりの陰謀論』』講談社、2025年6月19日。https://www.kodansha.co.jp/book/products/0000415665。
- ↑ “「陰謀論の拡大」に大きな影響を与えたインターネットの「知られざる罪」”. 現代新書 | 講談社 (2025年6月26日). 2026年1月16日閲覧。
- ↑ “参政党の躍進は「日本の宿命」である…陰謀論政治の研究者がみた「反ワク政党」とトランプ支持者たちの共通点 「日本人ファースト」というスローガンの背後にあるもの”. PRESIDENT Online(プレジデントオンライン) (2025年7月18日). 2026年1月16日閲覧。
- ↑ “陰謀論を侮ってはならないこれだけの理由(烏谷昌幸慶應義塾大学法学部教授) -マル激”. VIDEO NEWS ニュース専門ネット局 ビデオニュース・ドットコム. 2026年1月16日閲覧。
- ↑ 「陰謀論を利用する政治家」『毎日新聞』2025年10月15日、https://mainichi.jp/premier/politics/articles/20251014/pol/00m/010/006000c。
- ↑ 昌幸, 烏谷 (2025年11月24日). “「凶悪殺人犯」よりも「成功者」になる人が多い…近年のビジネス書が“サイコパスになること”を推奨し始めている危険性”. 文春オンライン. 2026年1月16日閲覧。