『犯罪と刑罰』の初版は1764年7月にトスカーナのリヴォルノで匿名で出版された。これは、当時のミラノでは出版に関して聖職者の発言権が強大で、啓蒙思想の著作を公刊することが困難だったためである([1])。同年秋にフィレンツェで第二版が出版され、翌1765年3月に再びリヴォルノから第三版が出版された。これは初版を増補改訂した他、刊行後に行われた批判に対する反論を含んでいる。
この第三版に基づき、フランスの思想家アンドレ・モルレが1965年末に仏訳を出版した。この仏訳は、モルレの判断で作品全体の構成を組み替えたものだった。
この時点でベッカリーアは第三版の増補改訂に着手しており、増補改訂版(第五版)は、リヴォルノから1966年3月に出版された(第四版の存在は確認されていない)。第五版の増補等は「モルレ版とは異なる、ベッカリーア独自の内容と構成の最終到達点を示していると考えられる」([2])。
しかし、その後、ヨーロッパで広く流布したのはモルレ版及び各国語へのその重訳であり、『犯罪と刑罰』からベッカリーアの思想を読み取る際の重要な注意点となっている。