Wikiwand AI

盲人国

From Wikipedia, the free encyclopedia

盲人国』(もうじんこく、原題:The Country of the Blind)は1904年に発表されたH・G・ウェルズ短編小説。1911年に本作を表題作とする短編集で初出版された。ウエルズの短編小説の代表作の1つであり、盲人を題材した文学作品としても著名である。1939年に結末の変更も伴う改訂版が出版されている。

原題 "The Country of the Blind"
言語 英語
概要 "盲人国", 著者 ...
"盲人国"
1904年の雑誌掲載時のクロード・アリン・シェパーソン英語版による挿絵。
著者 H・G・ウェルズ
原題 "The Country of the Blind"
イギリス
言語 英語
ジャンル 短編小説
収録 ストランド・マガジン
媒体形態 雑誌掲載
出版日 1904年4月
テンプレートを表示
閉じる

作中に登場する「盲人の国では隻眼の者が王になる」(In the Country of the Blind, the One-Eyed Man is King)という格言はデジデリウス・エラスムスの『格言選集英語版』に収録されている古いラテン語に由来し、英語圏で広く通用している言葉である。

プロット

南米エクアドルアンデス山脈にある未踏峰・パラスコトペトル(Parascotopetl)[注釈 1]に挑戦中の登山家ヌニェスは途中で滑落し、雪氷の絶壁で隔絶された山の反対側へと迷い込む。そこで彼は全方位を切り立った崖で囲まれて隔絶された谷間の集落を発見する。この集落はかつてスペインの侵略から逃れてきた者たちによって作られたものであり、風土病によって幼少時に必ず視力を失うために今では住民全員が盲人であった。これを知ったヌニェスは「盲人の国では隻眼の者が王になる」という格言を思い出し、彼らの指導者になろうと野心を抱く。

ところが国の者たちは視覚以外の五感が研ぎ澄まされて晴眼者とほぼ変わらない上に、視覚という概念自体が失われていた。このため、ヌニェスが目が見える優位を説明しても理解してもらえない。それどころか彼らはヌニェスを無能や白痴と評する。苛立ちながらも、帰る方法もないため、ヌニェスは渋々、彼らの生活様式に合わせて暮らし始める。

ヌニェスはヤコブという村人の下で働くが、やがてその末娘メディナ・サローテに惹かれる。メディナは目鼻立ちがはっきりしたかなりの美人であるが盲人達には人気がなかった。2人はすぐに恋に落ち、ヌニェスは彼女の信頼を得るも、視覚の説明は冗談だと思われ、信じてもらえない。やがてヌニェスは結婚を申し込むが、メディナの家族や村の長老たちは彼が「視覚」という架空の概念に取り憑かれている異常者とみなしているためにこれを認めない。村の医者は、ヌニェスは目の部分に異常があり、脳に絶え間ない刺激が与えられているため常に錯乱状態にあると診察し、眼球の摘出手術を提案する。当初は渋るヌニェスであったがメディナへの愛のために手術を受けることを決める。

手術の日まで美しいメディナの姿や風景を目に焼き付けるヌニェスは、手術前夜に崖の斜面に登ることができそうな亀裂を発見する。メディナを想い一瞬逡巡するも元の世界に帰ることを決心し、ヌニェスはまだ村人全員が寝静まっている未明の中を装備も食料もないまま山に向かう。以下、結末については初版と改訂版で異なるため、併記する。

初版(1904年)
ヌニェスは全身が切り傷や痣だらけになりながらも一昼夜を掛けて崖を登りきる。谷から脱出に成功したことに安堵したところで終わり、その後の具体的な顛末は不明である。
改訂版(1939年)
ヌニェスは脱出の途中で大規模な山斜面の崩落が起こりかけていることを発見し、急いで集落へと戻り、危機を伝える。しかし、視覚をヌニェスの戯言だと考えている住民たちは警告を信じないどころか、彼を嘲笑する。崩落が発生して土砂が集落を襲う中、ヌニェスがメディナを集落から連れ出すところで物語は終わる。

翻案作品

本作は多くの翻案作品が制作されており、しばしば異なる結末が展開される。

Escape』(脱出)
1947年の感謝祭にウィリアム・コンラッド主演で制作されたラジオドラマ。結末はヌニェスが単独で谷から脱出を果たすというものだが、その際に雪面の照り返しを長時間浴びたために失明するという改変がなされている。同作は1948年にポール・フリーズ主演でリメイクされ、CBSのラジオシリーズ『Suspense』で1954年、1957年、1959年に再放送された。
Search for Eden』(エデンの探索)
1979年に『CBSラジオ・ミステリー・シアター (CBS Radio Mystery Theater)』内で放送されたラジオドラマ。主人公らの名前が改変されており、ヌニェスはカルロス、メディナはエヴァであった。
The Door in the Wall』(壁の扉)
BBCラジオ 4 Extraで放送されたラジオドラマ。ウエルズの他の2つの作品と統合された作品であり、最後に語り手が主人公だったという結末を迎える[1]
『The Richest Man in Bogota』(ボゴタで最も裕福な男)
アメリカNBCのテレビドラマシリーズ『The DuPont Show of the Week』の1話として1962年に放送されたテレビドラマ。谷の水が失明の原因とし、最後にはヌニェスも失明する[2]
『Страна Слепых』(Land of Blind)
ロシアのソユーズムリトフィルムが1995年に製作した19分間のサイレントアニメーション作品[3]
『盲人国』 (Mángrén Guó)
マンダリン・コンパニオン・シリーズとして出版された中国語版。舞台は貴州省に変更されている。また失明の原因が伝染病という結末に変更されている[4]
『盲人國物語』
本作の翻案として1943年に択南社から出版された舟木重彦による長編小説。主人公は日本人に置き換えられており、テーマも大きく改変されている。あとがきにおいて舟木は、ウェルズの風刺小説は私の考えとは違うとして執筆したとしている。

盲人の国では隻眼の者が王になる

本作のキーワードとなっている「盲人の国では隻眼の者が王になる」(In the Country of the Blind, the One-Eyed Man is King)は、優れた者がいない場所では、わずかでも知識や能力がある者が権力や地位を得ることを意味する格言である(同じ意味の諺として 「鳥なき里の蝙蝠」がある)。

この格言はデジデリウス・エラスムスがラテン語の格言を紹介した『格言選集英語版』(1500年)に由来する。まずエラスムスはラテン語の「Inter caecos regnat strabus」(盲人の間では斜視の者が支配する)を紹介し、次にギリシャ語の格言をラテン語に訳したものとして「In regione caecorum rex est luscus」(盲人の国では隻眼の者が王になる)を紹介する[5]。 英語圏での最初の使用例はそれから約150年後の1640年にジョージ・ハーバートが自著『The Jacula Prudentum, or Outlandish Proverbs, Sentences, &c.』で使用した例である。この書籍では「In the kingdom of blind men, the one-eyed is king」と記され、以降、様々な変種が英語の言語や文学で見られるようになる[6]。 この英語の格言はスペイン語の「En la tierra de los ciegos es el tuerto rey.」に由来すると考えられている[7]。 このスペイン語の格言は古く、1602年には同種で「Entre los ciegos el tuerto es Rey」(盲人の間では隻眼の男が王である)というフレーズも見られる[8]。 また、1611年以降は「Para que uno sea grande en un Reyno pequeño, poco es meneterpues: en la tierra de los ciegos el tuerto es Rey」(小国において偉大になるために必要なことはほぼない。なぜなら盲人の国では隻眼の者が王になるからだ)というバージョンも見られる[9]。 さらに遡るとこのスペイン語の格言はポルトガル語の「Em casa do cego, o torto é rei」(盲人の家では私が王である)に由来する[10]

日本語訳

さらに見る 出版年, タイトル ...
出版年 タイトル 書籍名 出版社 文庫名 訳者 ISBNコード 備考
1924年 盲人国 盲人国その他 新潮社 海外文学新選 石井真峰
1924年 盲人の國 モロオ博士の島 アルス アルス・ポピュラアー・ライブラリー 木村信次
1957年 盲人の国 ダイヤモンドをつくる男・盲人の国 英宝社 英米名作ライブラリー 飯島隆窪田鎮夫共訳
1970年 盲人の国 ウエルズSF傑作集. 2 東京創元社 創元推理文庫 阿部知二
1976年 盲人国 世界文学全集. 84 講談社 世界文学全集 瀬尾裕
1981年 盲人の国 ザ・ベスト・オブ・H・G・ウエルズ サンリオ サンリオSF文庫 浜野輝編訳 児童書
1991年 盲人国 タイム・マシン : 他九篇 岩波書店 岩波文庫 橋本槇矩 ISBN 4-00-322761-1
1992年 盲人の国 ウエルズSF傑作集. 2 東京創元社 創元推理文庫 阿部知二 ISBN 4-488-60706-3 1970年版の改版
閉じる

脚注

外部リンク

Related Articles

Timelines

Top Qs

Fact Checks