神経炎症
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神経炎症(neuroinflammation)とは多発性硬化症をはじめとする免疫性の慢性炎症と神経変性疾患などでみられるグリア細胞の活性化によるグリア炎症を示す。狭義には神経変性疾患のグリア炎症のみを示す。
神経変性疾患で共通にみられる病理所見として病変部位に活性化されたミクログリアやアストロサイトの集積がみられ、さらには種々のT細胞やB細胞の浸潤がみられる[1]。パーキンソン病やアルツハイマー病などで変性神経細胞の周囲にはTNF-αやIL-1Bやインターフェロンγ陽性のミクログリアが認められており、グリア細胞由来の炎症性サイトカインが神経変性の本態に関与している可能性が示唆されている。これらグリア細胞の活性化は発症以前や発症早期から認められており、神経変性の結果というより積極的に本態に関わっている可能性がある[2][3]。
脳内に直接リポ多糖を注入してグリア細胞を活性化すると、周囲の神経細胞が死滅すること、α-シヌクレイン凝集体やAβがミクログリアを活性化し、炎症性サイトカインを誘導し、神経細胞を傷害することから神経変性疾患におけるグリア細胞の集簇を瘢痕形成としての静的なグリオーシスとしてとらえるのではなく、より活発な神経炎症としてとらえる見方がある。
パーキンソン病の神経炎症
神経炎症は神経変性疾患に共通する特徴である[4]。 かつては、神経炎症は神経変性に対する反応とみなされていた。しかし疾患の引き金や疾患を促進させるなど重要な役割を担い、治療対象として考えられるようになった[5][6]。 神経炎症は疾患ごとに違いがある部分もあるが共通経路もあると考えられている。特にミクログリアの活性化、アストロサイト増生やIL-1β、IL-6、TNF-αなどのサイトカインの異常は共通経路として考えられている[7]。 神経変性疾患は感染症などの全身性炎症で進行が加速することが知られている[8]。炎症性シグナル伝達を介して、脳内のミクログリアやアストロサイトの活性化を促進する神経炎症の結果と考えられている。これは共通経路と考えられる[9]。
アルツハイマー病の神経炎症と同様にパーキンソン病の神経炎症はよく研究されている。パーキンソン病においても神経炎症がパーキンソン病発症を促進すると考えられている[10]。事実、免疫治療がパーキンソン病のリスクを低下させる報告がある[11]。パーキンソン病に全身性感染症で運動機能の低下が起こる理由は薬剤の影響、脳内ドパミン代謝変化、線条体におけるドパミン伝達の変化、神経炎症の関与が考えられている[12]。パーキンソン病の神経炎症の病理所見としては中脳黒質の活性化したミクログリアの集積[13]、アストロサイトの反応性変化、およびT細胞の浸潤[14]が知られている[15][16][17]。パーキンソン病の神経炎症はHLAなど遺伝的素因、ミトコンドリア異常や環境要因(感染症)などが関わる多因子性の炎症であるがαシヌクレイン凝集体やTLRを介してミクログリアを活性化させることも重要な経路と考えられている[18]。またαシヌクレイン由来のペプチドが抗原として提示され、T細胞応答を誘導するという報告もある[19]。しかしパーキンソン病において神経炎症を標的とする治療は有効性を示していない[20][21][22]。興味深いことに偶発的レビー小体病の中脳黒質では神経細胞死やシヌクレイン障害がないのにもかかわらずCD8陽性T細胞の浸潤していることが明らかになった[23]。中脳黒質へのCD8陽性T細胞の浸潤はαシヌクレイン蓄積前と蓄積後の二相性を示すためαシヌクレインが神経炎症を誘発する可能性は否定できない。しかしαシヌクレイン蓄積前のCD8陽性T細胞の浸潤はαシヌクレインに依存しない可能性がある。
レビー小体型認知症の神経炎症
レビー小体型認知症は認知症を伴うパーキンソン病の病理学的な差が検討されている[24]。レビー小体型認知症は認知症を伴うパーキンソン病と比べるとアミロイド沈着が目立つという特徴がある[25][26]。大脳皮質のアミロイド沈着が同部位のαシヌクレインの沈着に関与する[27]。レビー小体型認知症においてアミロイド沈着はアルツハイマー病に類似するがタウ沈着はアルツハイマー病とは異なる分布をとることが知られている[28][29]。レビー小体型認知症の神経炎症はパーキンソン病の神経炎症と異なるといわれている。レビー小体型認知症の神経炎症は早期に炎症が強く、進行とともに減弱する傾向がある[30][31]。パーキンソン病は慢性的かつ持続的な炎症が特徴である[32]。レビー小体型認知症はパーキンソン病よりアルツハイマー関連病理であるアミロイドβ沈着やタウ沈着が高度であることがレビー小体型認知症とパーキンソン病で神経炎症が異なる理由かもしれない[33][34]。実際にアミロイドβとタウはαシヌクレインと共在すると神経炎症を亢進させる基礎研究の報告がある[35][36][37][38]
進行性核上性麻痺の神経炎症
進行性核上性麻痺のタウは神経炎症を促進する。異常リン酸化や凝集したタウが脳内で蓄積すると、ミクログリアの活性化やIL-1βなど炎症性サイトカインの産出が誘導される。その結果、神経炎症の増強がおこる[39][40]。TLRとMyD88を介した経路が重要と考えられている。PETを用いた研究ではタウと神経炎症は脳内で共局在し、両者の程度は臨床重症度とも相関する[41][42]。病理形態学では中脳黒質に対する炎症細胞浸潤が特徴と考えられている。パーキンソン病ではミクログリアの浸潤が顕著であるが進行性核上性麻痺ではT細胞の浸潤が目立つ[43]。