形質人類学あるいは解剖学においては、顎骨又は歯槽部が前突している状態を突顎と呼ぶ。歯科医療における場合と違い、形質であって異常や病的なものではない。
霊長目では、現生人類を除くすべてに見られる。顔面性突顎とも言い、眼窩より下方の上顎骨体部及び下顎骨体部全体が突出した状態である。脳頭骨に比して顔面頭骨が大きいために起こるが、それは咀嚼器官すなわち歯とそれを支える顎骨が発達している一方、大脳が未発達で脳頭骨が小さい事に他ならない。人類においても、アウストラロピテクス類から、ホモ属の諸人類にまで普通に存在する形質である。現生人類(ホモ・サピエンス)では大脳が発達して大きくなり、逆に咀嚼器官は著しく縮小したため、相対的に顔面部は後退して顎性突顎は消失した。
現生人類になって顎性突顎は消失したが、歯槽部が前突する例はしばしば見られる。これを歯槽性突顎と言い、古人類や類人猿と違って、顔面あるいは顎骨自体の突出はなく、歯槽部だけが前突する。
但し、人種による差異が非常に大きく、黒色人種ではほぼすべての個体に見られ、人種形質の一つとされる。黄色人種では一部に弱い歯槽性突顎が有り[3]、特に「南蒙古人種」と呼ばれる、東南アジアに分布する一群[4] ではその傾向が強い。日本人の民族形成には南蒙古人種が大きく関与したと考えられ、日本人も歴史上では突顎の傾向が強く、出っ歯が多くみられたが、20世紀以降急速に消失の方向に向かっている事が明らかにされている[5]。白色人種では歯槽性突顎は皆無に近い。
アウストラロピテクスの頭骨のスケッチ。上下の顎骨全体が突出して顎性突顎を形成している。 |
現生人類の頭骨。上は黒人で、左下が黄人。共に歯槽性突顎が見られる。右下は白人で、突顎はない。 |
歯槽性突顎は、頭骨の類似性によって、人種差別に利用された。 |