細胞質分裂
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細胞質分裂(さいぼうしつぶんれつ、英: cytokinesis)は細胞分裂過程の一部であり、1つの真核細胞の細胞質が2つの娘細胞へ分割される過程である。細胞質分裂は、有糸分裂や減数分裂における核分裂過程の終盤の段階、もしくはその後に開始される。細胞質分裂が行われている間に、紡錘体によって分離された姉妹染色分体は各娘細胞の細胞質へ輸送される。この過程は染色体の本数やセットが世代を超えて維持されるよう保証しており、特殊なケースを除き、娘細胞は親細胞の機能的なコピーとなる。分裂終期段階と細胞質分裂が完了すると、各娘細胞は細胞周期の間期に移行する。
通常の細胞質分裂過程では対称的な分裂が行われるものの、特定の機能を目的としたさまざまなバリエーションも存在する。一例として動物の卵形成過程では減数分裂時の細胞質分裂は対称的ではなく、ほぼすべての細胞質や細胞小器官を受け取る卵と、これらをほとんど受け取らない極体が形成される。極体は大部分の生物種では機能を持たず死滅するが、一部の種ではさまざまな特別な機能を担っている[1]。また、肝臓や骨格筋などの組織では有糸分裂時に細胞質分裂が省略され、その結果として多核細胞(合胞体)が生じる。
植物の細胞質分裂は動物の細胞質分裂との差異がみられ、硬い細胞壁の存在がその一因となっている。動物では分裂中の娘細胞間には分裂溝が形成されるが、植物ではその代わりに細胞質に細胞板と呼ばれる分割構造が形成され、この構造が娘細胞間に形成される二重の細胞壁へと成長する。
細胞質分裂は原核生物の二分裂過程と大まかに類似性がみられるものの、原核生物と真核生物の細胞構造や機能的差異のため、その根底にある機構は異なっている。両者の差異の例としては、細菌の細胞には1つの環状の染色体が存在する(1本の染色体が閉じた環を形成している)が、真核生物の染色体は線状で、そして通常は複数存在していることが挙げられる。他にも、細菌の細胞分裂時には真核生物のような紡錘体は形成されない。また原核生物のDNA複製は染色体分離時に行われるが、真核生物では有糸分裂の開始前の間期に行われる。複製によって生じた姉妹染色分体は有糸分裂後期までは完全には分離せず、姉妹染色分体間の接着がなされた状態となっている。
後期紡錘体の再編成

動物細胞の細胞質分裂は、分裂後期の姉妹染色分体分離の開始直後に開始される[2]。この過程は、後期紡錘体の再編成、分裂面の決定、アクトミオシンリングの組み立てと収縮、そしてabscission(切断、分離)の段階に分けられる[3]。これらのイベントは分子的シグナル伝達経路によって緊密な時間的調整を受けており、形成されつつある各娘細胞へゲノムが正確に分配されるよう保証されている。
動物細胞の細胞質分裂は、微小管の安定化と紡錘体の再編成による中央紡錘体の形成によって開始される。中央紡錘体は、紡錘体の両極の間でキネトコア微小管以外の微小管が束となることで形成される。ヒト、キイロショウジョウバエ、線虫Caenorhabditis elegansを含む多くの生物種において、細胞質分裂が効率的に進行するためには中央紡錘体が必要であるが、この構造体が存在しないことで生じる表現型は種によって異なる。ショウジョウバエの特定の細胞種では分裂溝の形成ができなくなるのに対し、C. elegans胚やヒトの培養組織では分裂溝の形成と進行は観察されるものの、細胞質分裂が完了する前に退行が始まる。
紡錘体の再編成と中央紡錘体の形成は、分裂後期のCDK1活性の低下によって引き起こされる[3]。中期から後期への移行時のCDK1活性の低下によって、中央紡錘体の複数の構成要素の阻害的リン酸化部位の脱リン酸化が生じる。まず、CDK1による染色体パッセンジャー複合体(CPC)サブユニットのリン酸化が除去されることで、中期にセントロメア上に位置していたCPCは中央紡錘体形成部位へ移行する。CPCは中央紡錘体の構造的構成要素となるだけでなく、PRC1(微小管束の形成に必要)やMKLP1(キネシンモータータンパク質)など、他の構成要素のリン酸化調節にも関与している。CDK1によるリン酸化によって阻害されていたPRC1は、ホモ二量体を形成して微小管間の逆平行相互作用面に選択的に結合できるようになり、中央紡錘体の微小管の空間的組織化を促進する。MKLP1はRhoファミリーGTPアーゼ活性化タンパク質CYK-4(MgcRacGAP)とともに、セントラルスピンドリン複合体を形成する。セントラルスピンドリンは高次クラスターとして中央紡錘体に結合する。セントラルスピンドリンのクラスター形成は、CPC構成要素であるオーロラBキナーゼによるMKLP1のリン酸化によって促進される。まとめると、中期から後期への移行時に生じるCDK1活性の低下に伴って直接的にまたは間接的に生じる、中央紡錘体の複数の構成要素のリン酸化調節を介して、中央紡錘体の自己集合は開始される。中央紡錘体は、分裂溝の位置決定、分裂溝への膜小胞の送達、分裂の最終段階に必要な中央体構造の形成など、細胞質分裂において複数の機能を果たしている可能性がある[4]。
分裂面の決定
動物細胞の細胞質分裂における次の段階は、分裂面の決定と分裂溝の形成である。染色体の喪失を防ぐためには、分離された2つの染色体セットの間に分裂面を正確に配置することが必要不可欠である。一方で、動物細胞において紡錘体が分裂面を決定する機構は、細胞質分裂においておそらく最も長く続いている謎であり、盛んな議論がなされている。分裂溝を誘導する機構には3つの仮説が提唱されている[4]。
第一の仮説は、星状体による刺激である。この仮説では、紡錘体極から発した星状体微小管は分裂溝を誘導するシグナルを細胞皮質へ伝達し、そこで両極からのシグナルが何らかの形でリング状に収束するとされる。
第二の仮説では、中央紡錘体の赤道面から発する正の刺激によって分裂溝が誘導されるとされる。中央紡錘体は、赤道面の細胞皮質へ低分子量GTPアーゼRhoAの濃縮と活性化を促進することで、分裂面の決定に寄与している可能性がある。
第三の仮説は、星状体による収縮の緩和である。この仮説では、細胞皮質全体に活発なアクチン-ミオシンバンドルが分布しており、その収縮が紡錘体極近傍で阻害されることで、両極の中間点で最も収縮活性が高くなるような活性勾配が形成されるとされる。すなわち、星状体微小管は極に近接する皮質の収縮を緩和するような負のシグナルを生み出しているとされる。
C. elegans胚において遺伝的操作やレーザーを用いた操作を行った研究では、紡錘体から細胞皮質へは、中心紡錘体から発するシグナル、星状体に由来するシグナルの2種類の冗長的なシグナルが送られていることが示されており、分裂溝の位置決定には複数の機構が複合的に関与していることが示唆されている。特定のシグナルが優位であるかどうかは、細胞種や生物種によって異なる。シグナルの種類の多さやそれらの部分的冗長性は、システムを頑強にし、空間的正確性を高めるために必要なものである可能性がある[3]。
アクトミオシンリングの組み立てと収縮
細胞質分裂時の分裂溝では、アクトミオシンリング(収縮環)が分裂過程を駆動する。収縮時に細胞膜は内向きに成長し、最終的に親細胞は2つにくびり切られる。このリングの主な構成要素は繊維状タンパク質であるアクチンとモータータンパク質であるミオシンIIであり、細胞の赤道面の細胞皮質において組み立てられる。Rhoタンパク質ファミリー(哺乳類細胞ではRhoA)は、収縮環形成と実際の収縮の主要な調節因子である[4]。RhoAは主に2つのエフェクターを介して収縮環の組み立てを促進する。
第一に、RhoAはDiaphanous(Dia)関連フォルミンを活性化することで、非分岐型アクチンフィラメントの核形成を刺激する。新たなアクチンフィラメントの局所的形成は収縮環の形成に重要である[4]。このアクチンフィラメントの形成にはプロフィリンと呼ばれるタンパク質も必要であり、このタンパク質はアクチン単量体に結合してフィラメント末端への付加を補助する。
第二に、RhoAはROCKの活性化によってミオシンIIの活性化を促進する。ROCKはミオシン軽鎖をリン酸化することでミオシンIIを直接的に活性化するとともに、ミオシン軽鎖ホスファターゼの標的化サブユニットであるMYPTをリン酸化することでミオシン軽鎖の脱リン酸化を阻害する。
アクチンとミオシンII以外に、収縮環には足場タンパク質であるアニリンも含まれている。アニリンはアクチン、ミオシン、RhoA、CYK-4に結合し、それによって中央紡錘体からのシグナルを赤道面の細胞皮質へ関連づけている。また、アクトミオシンリングの細胞膜への連結にも寄与している。さらに、アニリンは熱ゆらぎを整流することで収縮力を生み出している[5]。他のタンパク質としては、セプチンも細胞質分裂装置の組織化の際に構造的足場として機能していると考えられている。
リングが組み立てられて収縮することでリングに付着した細胞膜は内向きに進入し、細胞質は2つの領域へ区画化される。ミオシンIIはATPの加水分解によって放出される自由エネルギーを利用してアクチンフィラメントを動かし、財布のひもを締めるような形で、細胞皮質に対して収縮力を及ぼす。細胞膜は架橋タンパク質を介して細胞皮質と密接に結合しているため、ともに狭窄されて分裂溝が形成される[6]。分裂溝の狭窄の際にエキソサイトーシスによって膜の供給が行われ、細胞の総表面積は増大する[7]。外圧や表面張力の低減(膜輸送による)によって、安定化力や収縮のために必要な力は低減される。継続的なATP加水分解によって分裂溝は内向きに進入を続け、この過程は光学顕微鏡でもはっきりと観察されるほど大規模なものである。
Abscission
分裂溝の進入は中央体構造(電子密度の高い、タンパク質性の物質から構成される)が形成されるまで継続し、アクトミオシンリングの直径は1–2 μmに達する。大部分の動物細胞種では、最大で数時間はcytokinetic bridgeと呼ばれるブリッジ構造によって娘細胞間が連結されたままであり、その後、細胞質分裂の最終段階であるabscissionと呼ばれるアクチン非依存的過程によって娘細胞は切り離される[3][8]。
Abscissionの過程では、中央体は物理的に2つに切断される。Abscissionは、ブリッジからの細胞骨格構造の除去、細胞皮質の狭窄、細胞膜の分裂を行いながら進行する。ブリッジは中央紡錘体由来の逆平行微小管の濃密な束によって満たされており、中央体におけるこうした微小管の重なりがabscissionのための装置の標的となっていると考えられている。
ブリッジ内の微小管束の解体を主に担うのは、微小管切断タンパク質スパスチンである。また、細胞皮質の狭窄を完了するためには、その細胞骨格構造の除去も必要である。細胞質分裂終盤におけるアクチンフィラメントの解体はPKCε–14-3-3複合体に依存しており、この複合体は分裂溝の進入後にRhoAを不活性化する。解体はGTPアーゼRab35、そしてそのエフェクターであるホスファチジルイノシトール-4,5-ビスリン酸 5-ホスファターゼOCRLによっても制御されている。Abscissionの最終段階はESCRT-IIIのリクルートと重合によって制御されている。ESCRT-IIIは細胞膜を物理的に狭窄し、隣接する2つの娘細胞の細胞膜を分離する[9]。細胞質分裂の最終段階が正常に完了するためには、CEP55も必要である[10][11]。細胞質分裂の完了後、細胞が間期に入ると微小管は再編成され、新たな細胞骨格の要素となる。
時期
細胞質分裂は、細胞分裂の後期に姉妹染色分体が分離された直後に開始されるよう、時間的に制御されている必要がある。これを可能にするため、細胞質分裂装置の多くの構成要素は細胞周期の特定の段階にのみ特定の機能を果たすよう、高度な調節を受けている[12][13]。
植物細胞
植物細胞には細胞壁が存在するため、細胞質分裂は動物細胞とは大きく異なるものとなる。植物細胞では、収縮環の形成ではなく、細胞の中央に細胞板が構築されることで細胞質分裂が行われる。細胞質分裂は、(1) 細胞板形成をガイドし補助する微小管列であるフラグモプラストの形成、(2) 分裂面への小胞の輸送と融合による小管小胞ネットワークの形成、(3) 小管の継続的な融合とカロースの沈着に伴う膜シート構造への変換、その後のセルロースや他の細胞壁構成要素の沈着、(4) 余分な膜やその他の細胞板由来の物質のリサイクリング、(5) 親細胞の細胞壁との融合、という段階を経て進行する[14][15]。
フラグモプラストは紡錘体の残余物から組み立てられ、フラグモプラストの中心部へ小胞を輸送するための軌道として機能する。こうした小胞には、新たな細胞境界の形成に必要な脂質、タンパク質、炭水化物が含まれている。電子線トモグラフィー研究によって、こうした小胞はゴルジ体が供給源となっていることが突き止められているが[16][17]、他の研究ではエンドサイトーシスされた物質も小胞に含まれていることが示唆されている[18][19]。
小胞は融合して小管ネットワークとなり、そして小管が互いに横方向に拡大して融合することで、開口部を持つ平面状のシートが形成される[17]。細胞板の成熟につれて、多くの膜物質はクラスリン介在型エンドサイトーシスによって除去される[16]。最終的に、細胞板の辺縁部は親細胞の細胞膜と(多くは非対称な形で[20])融合し、細胞質分裂が完了する。残った開口部には小胞体の小管が通過しており、これらは原形質連絡の前駆構造となっていると考えられている[17]。

新たな細胞壁の構築は、若い細胞板の小管の内腔で開始される。細胞壁のさまざまな構成要素が沈着する順序は主に免疫電顕法によって明らかにされている。最初に到着する構成要素はペクチン、ヘミセルロース、アラビノガラクタンプロテインであり、融合して細胞板を形成する小胞によって輸送されてくる[21]。次に付加される構成要素はカロースであり、カロースの重合は細胞板においてカロースシンターゼによって行われる。細胞板が成熟を続け、親細胞の細胞膜と融合すると、カロースは成熟した細胞壁の主な構成要素であるセルロースへ徐々に置き換えられてゆく[15]。細胞間層(ペクチンを含む糊状の層)は細胞板から発生し、隣接する細胞の細胞壁を結合する役割を果たす[22][23]。