終わりなし

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終わりなし』 (おわりなし、ポーランド語:Bez końca、英:No End) は、クシシュトフ・キェシロフスキ監督による1985年製作のポーランド映画

本作はヴォイチェフ・ヤルゼルスキ政権下で戒厳令が敷かれていた1982年のポーランドを舞台としている。政府に対する軽微な抵抗(政治的な落書きやストライキなど)が数年の懲役刑に処せられる時代であった[1]。戒厳令導入後のポーランド人の精神状態のリアルを描いている[2]

ストーリー

舞台は1982年、戒厳令下のポーランド。弁護士アンテク・ジロはすでに心臓発作により、若くして運転中に亡くなっている。彼の霊は死後も現世に留まり、時折観客に向かって語りかける(第四の壁を破る)。アンテクは妻のウルシュラ(通称ウラ)と息子ヤツェクを残していた。

一か月後、ウラのもとに、アンテクの最後の依頼人ダレク・スタフの妻ヨアンナから電話が入る。ダレクは「連帯」のストライキに参加したとして逮捕され、裁判にかけられていた。ヨアンナは夫の訴訟に関する書類を求めてくる。最初は拒むウラだったが、最終的にヨアンナに資料の閲覧を許す。その会話の中で、アンテクがかつて師事していた老弁護士ミェチスワフ・ラブラドールの名前が挙がる。

その日の午後、ウラは亡き夫の遺品を整理している中で、顔の部分が切り取られた自分のヌード写真を見つけてしまう。ウラはアンテクの友人であるトメクを訪ね、写真の経緯を確認する。さらにファイルの中から、ダレクが「連帯」の活動により逮捕された際、アンテクに弁護を依頼する手紙も見つかる。

その後、ラブラドールがダレクを拘置所に訪ね、裁判の方針を話し合う。ラブラドールは「政府批判ではなく改革を望む建設的な市民」としてダレクを擁護しようとするが、ダレクはあくまで体制の不正を訴えるべくハンガー・ストライキを始める決意を示す。

クリスマスの頃、ウラは学生時代にアンテクと親しかった女性マルタ・ドゥライと再会する。やがて、ウラはバーで出会った若いイギリス人の男から売春を持ちかけられ、一度は拒絶するものの、最終的に受け入れてしまう。

一方、ヨアンナの家では新たな労働組合結成の話題が交わされ、ダレクの同志たちも関与していることが明らかになる。夫の死と孤独に苦しむウラは催眠療法を試み、「アンテクを忘れる」暗示を受けるが、そこで夫の幽霊を幻視してしまう。帰宅後、悪夢を見て泣く息子ヤツェクを抱きしめ、静かに慰める。

ラブラドールは再びダレクの元を訪れ、仲間たちを証人として呼び、政治的に無害であると主張すれば減刑が可能だと説得する。しかしダレクはあくまで体制に抗議するため、獄中に留まる意志を曲げようとしない。ラブラドールは代理の若手弁護士を通じて説得を続け、最終的には彼にハンガー・ストライキをしないよう説得することに成功する。

その後、ウラは再び精神科医を訪れ、夫の墓前で蝋燭を灯す。息子を義母に預け、自宅へと戻る。

やがて開かれた公判で、裁判官はダレクの刑を執行猶予付きに切り替え、直ちに釈放すると宣告する。ラブラドールはその直後、弁護士としての引退を宣言する。

その夜、ウラは静かに自宅のガスオーブンをつけ、口にテープを貼って前に座る。そしてそのまま命を絶ち、幽霊となったアンテクと再会する。二人は黒い服を身にまとい、広い芝生の上を並んで歩いてゆく。

登場人物

ウルシュラ・ジロ
演:グラジナ・シャポウォフスカ英語版ポーランド語版
アンテクの妻であり、翻訳者。夫の死後、深い喪失感と孤独に苛まれる。彼女は夫の最後の依頼人であるダレクの裁判に関わることで、夫の遺志を継ごうとする。催眠療法を受けたり、偶然出会ったイギリス人男性と関係を持つなど、心の空白を埋めようと模索する。
アンテク・ジロ
演:イェジー・ラジヴィウォヴィチポーランド語版
ウルシュラの夫。若くして心臓発作により交通事故死した弁護士。死後も幽霊として登場し、第四の壁を破って観客に語りかけている。
ダレク・スタフ
演:ジャン=ピエール・ロリト
労働組合「連帯」の活動家で、アンテクの最後の依頼人。政治的活動により逮捕され、獄中でハンガーストライキを宣言する。
ミェチスワフ・ラブラドール
演:アレクサンデル・バルディニ
アンテクの元上司であり、経験豊富な弁護士。ウルシュラの依頼でダレクの弁護を引き受ける。ダレクの政治的信念を理解しつつも、現実的な解決策を模索し、彼の釈放を目指す。
ヨアンナ・スタフ
演:マリア・パクルニス
ダレクの妻で、夫の釈放を願いウルシュラに協力を求める。
ヤツェク・ジロ
演:クシシュトフ・クシェミンスキ
ウルシュラとアンテクの息子。幼いながらも両親の死と向き合い、母親の精神的支えとなる。
トメク
演:マレク・コンドラト
アンテクの友人で、ウルシュラが夫の遺品を整理する際に助言を与える。
マルタ・ドゥライ
演:マルゼナ・トリバワ
アンテクの学生時代の知人で、ウルシュラが過去を振り返る際に登場する。

製作

プリプロダクション

本作は、クシシュトフ・キェシロフスキ監督が弁護士で脚本家のクシシュトフ・ピエシェヴィッチと初めて共同で制作した作品である。ピエシェヴィッチは1982年2月、戒厳令下で独立自主管理労働組合「ポーランド独立連盟」の活動家を弁護した経験を持つ。2年後、彼の同僚であったイェジ・ヴォジニャクが癌で亡くなり、その死が脚本執筆におけるインスピレーションの源となった[3]

また、戒厳令後の連帯地下運動における絶望感を反映する、カロル・モジェレフスキによる『ティゴドニク・ポフシェフニ』誌上の言葉もピエシェヴィッチに強い印象を与えた。

「あの『連帯』はもう存在しない。同じような人々はいるが、あの精神は失われた。1981年12月13日の戒厳令以降、もはや『連帯』はポーランドには存在していない。」[3]

この発言に対しピエシェヴィッチは、「非常に深く考え抜かれ、豊かな経験に裏打ちされた、我々の映画的描写の真実性を証明するもの」と評している[3]。このようにして、キェシロフスキから脚本技法を学びながら、ピエシェヴィッチは自身の職業経験を映画に取り入れた[3]

弁護士ジィラ役には、キェシロフスキがアンジェイ・ワイダ監督作『鉄の男』(1981年)で主役を演じたイェジ・ラジヴィウォヴィチを起用した。ピエシェヴィッチによれば、『終わりなし』におけるラジヴィウォヴィチ演じる主人公の死は、「『鉄の男』の死」を象徴していたという[3]

とはいえ、作品はキリスト教的人間中心主義に基づいた希望のある結末を提示しようとしており、当初の脚本タイトルは『幸せな結末』だった。ピエシェヴィッチはこの作品を、キェシロフスキの映画主題がポーランド国内の問題からより普遍的な問題へと展開する出発点だったと回想している[3]

またキェシロフスキは後年、ピエシェヴィッチとの交流を通じて、自作における女性の描き方への意識が変わったことを語っている。

「昔の私は、女性を薄っぺらく、立体性のない存在として描いていたと批判された。『スタッフ』には女性が登場しないし、『静寂』や『アマチュア』『傷跡』などでは、女性は悪役だった。『偶然』では、女性は主人公の伴侶にすぎなかった。だからこそ、『女性の視点から女性について描く映画を作ろう』と思ったのかもしれない。」[4]

撮影

撮影は、長年キェシロフスキとタッグを組んできたヤツェク・ペトゥリツキが担当した[3]。当初、彼は本作に対して好意的だったが、編集段階でキェシロフスキと対立した。問題となったのは、主人公ウルシュラの息子が「連帯」のデモ隊に加わるシーンが削除されたことだった。ペトゥリツキはそのシーンの削除を、政権への妥協と見なし、これを許せずキェシロフスキとの関係を断った[4]

評価

脚注

外部リンク

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