脂質ラフト
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1950年代に電子顕微鏡を用いた研究によって上皮細胞と内皮細胞膜表面にある窪みを持った構造が発見され、この特徴的な構造からカベオラと名付けられた。カベオラは、指標分子であるカベオリンの発見により研究が進み、非イオン性界面活性剤存在下かつ低温で不溶性の膜ドメインであり、そのドメインにシグナル伝達に関わるタンパク質群が会合していることが見出された。その後の研究により、カベオリンを持たず、窪んだ形状を持たない膜構造が分離され、カベオラと同様にシグナル伝達に関与する分子の会合が発見された。現在はこのような細胞膜部位を総称して、脂質ラフト(ラフトはいかだの意)と呼んでいる。
このような構造上に、受容体などの機能性物質が集合することにより、シグナル伝達、物質輸送の窓口として機能する。すなわち、複数の分子がカスケードを形成する場合、それらの分子を一箇所に集めることにより、それらの分子が相互作用する確率を高め、一連の反応を速やかに行うことができる。
構造

脂質ラフトは、脂肪酸として飽和脂肪酸を含むスフィンゴ脂質あるいはスフィンゴ糖脂質を主成分としている。飽和脂肪酸は分子が直線状であるため立体障害が少なく、スフィンゴ脂質は互いの分子が密に会合している。一方、折れ曲がった分子である不飽和脂肪酸で構成される他の領域は比較的緩やかに会合している。このような性状により、脂質ラフトは他の領域と比較して流動性が比較的低くなっている。さらにコレステロールはスフィンゴ脂質と親和性が高く、スフィンゴ脂質の間に挟み込まれる形で存在し、膜構造の高度なパッキングを保持しつつ、ラフトに流動性を与えている。このような飽和脂肪鎖によって硬くパッキングされた構造は一分子追跡法、蛍光共鳴エネルギー移動(FRET)、原子間力顕微鏡や化学架橋による研究から支持されている。
細胞膜を構成する脂質二重膜は、流動モザイクモデルの提唱により、脂質が二次元の流体を形成し、膜タンパク質はモザイク状に埋め込まれる形で、この流体中を側方へ動き回り膜機能を発揮すると考えられてきた。しかし、脂質ラフトの発見により、現在では、膜構造は均一な脂質二重構造ではなく、性質の異なる膜ドメイン上に、膜タンパク質がある一定の局在をもって分布していると考えられている。
脂質ラフトは、安定な構造体ではなく、刺激に応じて集合状態を変化させる。そのため、脂質ラフトの大きさは一般に、100 nm以下で、約数個ないし数十個程度のタンパク質分子を含むとされるが、ラフト自身がその大きさや形を流動的に変えるため一定ではない。
脂質ラフトには、スフィンゴ脂質、コレステロールの他に、グリコシルホスファチジルイノシトール(GPI)アンカーやアシル化修飾(パルミトイル化、ミリストイル化など)を受けた分子、イノシトール、リン脂質、複合糖質などといった分子が集合している。