飽和脂肪酸
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化学構造
不飽和脂肪酸の場合、二重結合はシス型またはトランス型をとる。それに対し、飽和脂肪酸は二重結合あるいは三重結合を有せず、直線状の構造を持つ。
| 不飽和脂肪酸(一価) | 飽和脂肪酸 | |
|---|---|---|
| トランス(エライジン酸) | シス(オレイン酸) | 飽和(ステアリン酸) |
| エライジン酸は、トランス型の不飽和脂肪酸であり、植物性脂肪の部分的な水素添加やエライジン化によって生成される。融点43-45℃。 | オレイン酸は、シス型の不飽和脂肪酸であり、天然の植物性脂肪の一般的な成分である。融点16.3℃。 | ステアリン酸は動物性脂肪で見つかった飽和脂肪酸であり、完全に水素が付加した成分である。二重結合を持たないため、ステアリン酸はシスやトランスの形をとらない。融点69.6℃。 |
| これらの脂肪酸は、同一の化学式で二重結合の方向のみが異なる幾何異性体である。 | この脂肪酸は二重結合を含まず、前の2つの異性体ではない。 | |
飽和脂肪酸の例
脂肪酸の命名法はIUPAC生化学命名法[2] に定義されている。
| 数値表現 (Numerical symbol) |
示性式 CH3-(R)-CO2H |
組織名 | 慣用名 | 略号 | 融点(℃)[3] |
|---|---|---|---|---|---|
| 4:0 | -(CH2)2- | ブタン酸 | 酪酸(ブチル酸) | Bu | -7.9 |
| 5:0 | -(CH2)3- | ペンタン酸 | 吉草酸(バレリアン酸) | Pe | -34.5 |
| 6:0 | -(CH2)4- | ヘキサン酸 | カプロン酸 | Hx | -3 |
| 7:0 | -(CH2)5- | ヘプタン酸 | エナント酸(ヘプチル酸) | Hp | -7.5 |
| 8:0 | -(CH2)6- | オクタン酸 | カプリル酸 | Oc | 15-17 |
| 9:0 | -(CH2)7- | ノナン酸 | ペラルゴン酸 | Nn | 11-13 |
| 10:0 | -(CH2)8- | デカン酸 | カプリン酸 | Dec | 31 |
| 12:0 | -(CH2)10- | ドデカン酸 | ラウリン酸 | Lau | 44.2 |
| 14:0 | -(CH2)12- | テトラデカン酸 | ミリスチン酸 | Myr | 53.9 |
| 15:0 | -(CH2)13- | ペンタデカン酸 | ペンタデシル酸 | 51-53 | |
| 16:0 | -(CH2)14- | ヘキサデカン酸 | パルミチン酸 | Pam | 63.1 |
| 17:0 | -(CH2)15- | ヘプタデカン酸 | マルガリン酸 | 61 | |
| 18:0 | -(CH2)16- | オクタデカン酸 | ステアリン酸 | Ste | 69.6 |
| 20:0 | -(CH2)18- | イコサン酸 | アラキジン酸 | Ach | 75.6 |
| 21:0 | -(CH2)19- | ヘンイコサン酸 | ヘンイコシル酸 | ||
| 22:0 | -(CH2)20- | ドコサン酸 | ベヘン酸 | Beh | 81.5 |
| 24:0 | -(CH2)22- | テトラコサン酸 | リグノセリン酸 | Lig | 86.0 |
| 26:0 | -(CH2)24- | ヘキサコサン酸 | セロチン酸 | Crt | |
| 28:0 | -(CH2)26- | オクタコサン酸 | モンタン酸 | Mon | |
| 30:0 | -(CH2)28- | トリアコンタン酸 | メリシン酸 |
飽和脂肪酸の生成、変換
脂肪酸シンターゼによって、アセチルCoAとマロニルCoAから直鎖の飽和脂肪酸が作られる。順次アセチルCoAが追加合成されるので原則脂肪酸は偶数の炭素数となる。体内で余剰の糖質、タンパク質等が存在するとアセチルCoAを経て、飽和脂肪酸の合成が進む。脂肪酸合成が炭素数18(ステアリン酸)に達すると、ステアリン酸の中央に二重結合が生成されて体内で一価不飽和脂肪酸であるオレイン酸が生成される。例えば豚の体脂肪であるラードにはオレイン酸が豊富に含まれている。このオレイン酸から、植物では、二重結合が一個増えてリノール酸(ω-6脂肪酸)が生成され、ついで二重結合がもう一つ増えてα-リノレン酸(ω-3脂肪酸)が生成される。
動物の体内には、リノール酸もα-リノレン酸も作る酵素が存在しないので、これらの不飽和脂肪酸を必須脂肪酸として摂取しなければならない[4]。
食品中の飽和脂肪酸
飽和脂肪酸を多く含む食品の例
飽和脂肪酸を多く含む食品の例としては、以下が挙げられる。
- 油脂類:バター、ココナッツオイル、パーム油
- 加工肉:ベーコン、ソーセージ
- 焼き菓子・菓子類:パイ、クロワッサン、デニッシュ、ケーキ、ドーナツ、クッキー、ミルクチョコレート
- 乳製品:チェダーチーズなど脂肪分の多いチーズ、生クリーム、全脂牛乳、アイスクリーム
- 肉類:脂身の多い牛肉、ラム肉、豚バラ肉
- 調理済み食品:ピザ、フライドチキン、ハンバーガー
| 食品群 | 主な食品例 |
|---|---|
| 油脂類 | バター、ココナッツオイル、パーム油 |
| 加工肉 | ベーコン、ソーセージ |
| 菓子類 | パイ、クロワッサン、デニッシュ、ケーキ、ドーナツ、クッキー、ミルクチョコレート |
| 乳製品 | チェダーチーズなど脂肪分の多いチーズ、生クリーム、全脂牛乳、アイスクリーム |
| 肉類 | 脂身の多い牛肉、ラム肉、豚バラ肉 |
| 調理済み食品 | ピザ、フライドチキン、ハンバーガー |
ミリスチン酸とパルミチン酸の多い食品
ミリスチン酸およびパルミチン酸は、食品中に広く含まれる飽和脂肪酸であり、過剰摂取はLDLコレステロール濃度の上昇と関連することが報告されている。このため、多くの栄養ガイドラインでは、これらを含む飽和脂肪酸の摂取を控えることが推奨されている。
ミリスチン酸(C14:0)は、主に乳脂肪に多く含まれ、バター、チェダーチーズなど脂肪分の多いチーズ、生クリーム、全脂牛乳、アイスクリームのほか、ココナッツオイルにも比較的多く含まれる。
パルミチン酸(C16:0)は、乳脂肪にも含まれるが、パーム油や脂身の多い牛肉、豚バラ肉、ラム肉などの肉類、ベーコンやソーセージなどの加工肉に多く含まれる。また、これらを多く使用したハンバーガー、ピザ、フライドチキンなどの調理済み食品にも比較的多く含まれる。
| 食品群 | ミリスチン酸(C14:0) | パルミチン酸(C16:0) |
|---|---|---|
| 乳脂肪 | バター、チェダーチーズなど脂肪分の多いチーズ、生クリーム、全脂牛乳、アイスクリーム | バター、チェダーチーズなど脂肪分の多いチーズ、生クリーム、全脂牛乳、アイスクリーム |
| 肉類・加工肉 | ベーコン、ソーセージ | ベーコン、ソーセージ、脂身の多い牛肉、豚バラ肉、ラム肉 |
| 植物油脂 | ココナッツオイル | パーム油 |
| 調理済み食品 | - | ハンバーガー、ピザ、フライドチキン |
| 飽和脂肪酸 | LDLコレステロールへの影響 | 主な食品 |
|---|---|---|
| ミリスチン酸(C14:0) | LDLコレステロールを上昇させる作用が特に強いとされる。 | バター、チーズ、生クリーム、全脂乳製品 |
| パルミチン酸(C16:0) | LDLコレステロールを上昇させる作用が強いとされる。 | パーム油、脂身の多い牛肉、豚バラ肉、ラム肉、加工肉、乳製品 |
健康への影響
2016年の世界保健機関によるシステマティック・レビューは、飽和脂肪酸の多量摂取は心血管疾患のリスク上昇と関係があるため懸念があり、特に多価不飽和脂肪酸に置き換えることで血中脂質の状態を改善することが確認された[1]。
飽和脂肪酸の多い食事はインスリン抵抗性を生じさせ、糖尿病の罹患が増加する可能性が示唆されている。また、日本人において飽和脂肪酸摂取量が少ない人では脳出血罹患の増加が認められる。大腸がん及び膵臓がんの罹患との関連は認められていない。2010年の日本の食事摂取基準では、飽和脂肪酸について全カロリーの4.5%が摂取下限、7%が摂取上限であると考えられている[7][8]。
アメリカ心臓協会は、心臓病と闘うための健康的な食事と生活スタイルを勧告している(心臓病#食と生活の勧告参照)[9]。脂質関連項目を以下に抜粋する。
- 飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を含む食物を、一価不飽和脂肪酸と多価不飽和脂肪酸を含む食物に替える。
- 飽和脂肪酸の摂取を制限するために、肉は皮が取り除かれていて脂肪の少ないものを選ぶ。また、低脂肪の乳製品を選ぶ。
脳にも悪い影響を及ぼす。Annals of Neurologyに掲載された6,000人の女性を対象としたハーバード大学の研究によると、飽和脂肪をたくさん食べた人は、記憶力と思考力が大幅に低下した。研究者たちは、飽和脂肪の消費によって引き起こされる高レベルの炎症が脳の動脈に損傷を与え、認知機能障害を引き起こす可能性があると推論した[10]。
デンマークでは2011年10月1日から、脂肪税と砂糖税として、飽和脂肪酸が2.3%以上含まれる食品に対して、飽和脂肪酸1キログラムあたり16クローネを課税し、施行前には飽和脂肪酸の多い食品であるバターやピザ、肉、牛乳といった食品に買い込み需要が高まった。この世界初の「脂肪税と砂糖税」は翌年には廃止された。
厚生労働省の「日本人の食事摂取基準(2020年版)」策定検討会報告書によると、成人において、飽和脂肪酸の摂取量が増すと、血中の総コレステロール濃度、LDL コレステロール濃度が増すことが知られている。ただし、脂肪酸中の炭素数により影響は違い、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸(炭素数が12-16)では上昇が観られるが、ステアリン酸(炭素数が18)では顕著な変化は観られていない。飽和脂肪酸の摂取量と総死亡率、循環器疾患死亡率、冠動脈疾患死亡率、冠動脈疾患発症率、脳梗塞発症率、2型糖尿病発症率との関連を調べたコホート研究の結果を、メタアナリシス解析した結果、有意な関連は認められなかった。また、循環器疾患発症率との関係を調べた21のコホート研究及びメタアナリシス解析の結果でも有意な関連は認められていない。しかし、この中の7つの研究で血清総コレステロール濃度の過調整があり、正しく評価れていないとの指摘もある。一方で飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸に置き換えた場合の冠動脈疾患発症率や心筋梗塞発症率への影響を調べたコホート研究及びメタアナリシス解析では発症率の有意な減少がみられた[11][12]。
また、飽和脂肪酸の摂取量が1日10g未満の人は1日10g以上の人に比べて脳卒中による死亡数が2倍になるなどの研究が有り[13]。飽和脂肪酸の摂取量が脳出血及び脳梗塞の発症(又は死亡)率の低下と関係していると考えられる。しかしそれが、飽和脂肪酸が直接の作用した結果なのか、他の栄養素が介する作用なのか明確ではなくさらなる研究が求められている[11][14]。
個別の研究
日本の国立がん研究センターによる多目的コホート研究(JPHC Study)では、日本人男性約4万3000人を対象とした追跡調査において、乳製品の摂取量が多い群で前立腺癌の罹患リスクが高い関連が観察された。また、カルシウムおよび飽和脂肪酸の摂取量が多い群でも、前立腺癌リスクの上昇との関連が報告された。ただし、この研究は観察研究であり、因果関係を証明するものではない[15]。
同じく国立がん研究センターによる多目的コホート研究では、飽和脂肪酸の摂取量が多い群で心筋梗塞の発症リスクが高い一方、脳卒中、特に脳内出血およびラクナ梗塞の発症リスクは低い関連が報告された。ただし、この研究対象は日本人一般集団であり、循環器疾患既往者には直接適用できないとしている[16]。
2014年に『Annals of Internal Medicine』に掲載されたメタアナリシスでは、当時利用可能であった観察研究を統合した結果、飽和脂肪酸摂取量と冠動脈疾患との間に明確な関連は認められなかったと報告された。一方、この研究については解析方法やデータ処理に対する批判もあり、その後のガイドラインでは、飽和脂肪酸を多価不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸に置き換えることが推奨されている[17]。




