音楽選好の心理学
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性格と音楽選好
パーソナリティ
音楽の好みと性格の関係は、研究者たちにとって長年にわたって議論の的となってきたテーマである。その理由は、研究結果のばらつきや、性格が音楽の好みに歴史的に示してきた予測力の低さにある[6]。シェーファーとメーホルン(2017)が行ったメタ分析では、過去の研究をもとに、経験探求性やビッグファイブと呼ばれる5つの性格特性が音楽の好みを予測できるかどうかを検討した。その結果、彼らがレビューした30件の研究のうち、音楽ジャンルと性格特性の相関係数が0.1を超えるものは6件しかなかった。開放性が3つの音楽スタイルに対する好みと最も強い相関を持っていたが、この相関も比較的小さかった。相関係数の大半はほぼゼロに近かった[6]。
最近の研究では、自己申告データではなく、音楽ストリーミングサイトのデータを用いて、音楽ジャンルやユーザーの聴取習慣がビッグファイブと呼ばれる5つの性格特性を予測できることを示している[7]。2020年に行われた一つの研究では、Spotifyのユーザーのデータを分析し、ビッグファイブと呼ばれる5つの性格特性を異なるジャンルやムード、プレイリスト数や曲選択の多様性、聴取習慣の反復度などの派生指標にマッピングした。その結果、相関が高まったことが示された。開放性は環境音楽、レゲエ、フォークミュージックというジャンルと正の相関を持ち、誠実性はロックやファレル・ウィリアムスのハッピーなどの「精力的」な曲と負の相関を持っていた[7]。派生指標に関しては、情動安定性はリスナーのスキップ率と負の相関を持ち、開放性は曲発見率と正の相関を持っていた[7]。
音楽と性格の間に予測的な関係を確立しようとする際の一つの欠点は、研究者たちが過度に均質化された音楽ジャンルを利用する傾向にあることであり、音楽ジャンル内の多様性を考慮に入れていないことである可能性が高い[8]。ブリッソンとビアンキ(2021)が行った研究では、参加者に音楽嗜好目録を提供し、音楽ジャンルとサブジャンルの好みを評価してもらった。例えば、電子音楽はジャンルと見なされ、ハウス (音楽)は電子音楽のサブジャンルである。結果は、参加者のジャンルとサブジャンルの好みには高い程度のばらつきがあることを示した。より広いジャンルカテゴリー内の一つのジャンルやサブジャンルを好むことが、他の関連するジャンルやサブジャンルに対する評価を一貫して予測することに失敗することがよくあった。最終的に、ジャンルとサブジャンルの間には2つの一貫した関連性しか見つからず、研究における音楽ジャンルの信頼性に疑問を投げかけた[8]。しかし、性格が音楽嗜好に及ぼす影響に関するこの関係の調査は、これらのジャンルベースの方法論上の限界や過去の研究結果の不一致にもかかわらず、依然として進行中である。
ビッグファイブと呼ばれる性格特性と音楽の好みを測定するためのさまざまな質問紙が作成されている。性格と音楽の好みの相関関係を見つけようとする研究の大半は、両方の特性を測定するために質問紙を用いている[9][10][11][12][13][14][15][16]。他の研究では、質問紙を用いて性格特性を測定し、その後、参加者に好き嫌い、知覚される複雑さ、感じた感情などの尺度で音楽の抜粋を評価してもらった[9][17][18][19]。
一般的に、可塑性特性(開放性と外向性)は安定性特性(協調性、神経症傾向、誠実性)よりも音楽嗜好に影響を与える[20]が、それぞれの特性は議論する価値がある。性格特性は、音楽が人々に与える感情的な効果とも有意に相関していることが示されている。個人差は、音楽から引き出される感情的な強度や価値観を予測するのに役立つ[21]。
ビッグファイブ
心理学者の間では一般に、病的でない個人の差は5つの異なる次元で要約されるという考えが受け入れられている[22]。多くの研究では性格測定のためビッグファイブ(性格を、経験への開放性、協調性、外向性、神経症傾向、誠実性に5分類する)が用いられている。
ビッグファイブと音楽選好を測定するための様々な質問紙が作成されてきたが、性格と音楽選好の相関を見つけるための研究の大半で用いられた質問紙は、性格と音楽選好の両方を測定するようなものだった[23][24][25][22][26][27][28]。他には、被験者に性格特性を測定する質問紙に回答させてから、楽曲の抜粋に対して好み、知覚される複雑性、感情等を評価させるものもあった[29][30][31]。
一般に、可塑的な特性(経験への開放性と外向性)の方が、安定した特性(協調性、神経症傾向、誠実性)よりも音楽選好に影響しやすいが[32]、どちらの特性も検討されるべきである。性格特性は、音楽の感情への影響にも重大な相関がある。性格の個人差は、音楽が引き起こす感情の強度と誘発性の予測に役立つ[33]。
経験への開放性
全特性の中で、経験への開放性はジャンル選好に最も強い影響が見られる[23][34]。一般に、経験への開放性が高い人は、クラシックやジャズやエクレクティックといった複雑で奇抜な音楽や[35]、激しく反抗的な音楽を好む[36][27][23][37]。思索的で複雑なジャンルとはクラシック、ブルース、ジャズ、フォークといった音楽で、激しく反抗的な音楽とはロック、オルタナティヴ、ヘヴィメタルといった音楽である[27]。経験への開放性の一側面として審美眼があるため、開放性と複雑な音楽の選好に強い正の相関を認める研究者は多い[38]。経験への開放性が高い人は知性の自己評価も高い、すなわち経験への開放性の高さが知性の自覚の強さにつながり、このことも複雑な音楽、クラシックやジャズを好む傾向を説明できる[39]。
音楽が引き起こす感情に性格特性がどう影響するかというある研究によると、経験への開放性は、悲しげでゆったりした音楽に感情的に強く反応することを最も良く予測した。悲しげな音楽が表現する最も一般的な印象は、ノスタルジア、安らぎ、不思議であり、経験への開放性はこれら全てと正の相関があった[40]。悲しげな音楽からは美しい経験が得られると考えられている[31] 。また、開放的な人は多様なスタイルの音楽を好んだが、現代の人気なスタイルは好まず、開放性にも限界があることが示された[41]。しかし、以上のように言えるのもある程度までであり、別の研究では音楽を聴いて鳥肌が立つことについて調査されている。この研究によると経験への開放性がジャンル選好を最も良く予測する一方、経験への開放性では音楽による鳥肌の予測はできない。唯一鳥肌が立つのを予測できるのは、音楽を聴く頻度と、生活の中で音楽をどれだけ重要と捉えているかである[42]。
別の研究では、経験への開放性と音楽を聴く頻度の関連と、それが音楽選好にどう影響するかが調査された。クラシック音楽の抜粋を聴かせると、開放性が高い人は繰り返し聴くことですぐ好きでなくなる傾向があり、逆に開放性が低い人は繰り返し聴くことでより好きになる傾向があった。このことから、経験への開放性が高い人にとって音楽の目新しさが重要だということが分かる[43]。
性格検査の前と後にクラシック音楽を聴く実験で、歌詞を見る条件と見ない条件に分けられた。結果、歌詞の有無によらずいくつかの性格特性に変化があり、最も顕著に上昇したのは経験への開放性だった[44]。性格が音楽選好に影響するのではなく、クラシック音楽が性格の自己評価を変化させ、自身をより開放的と評価するようになった。
経験への開放性は音楽の知的、認知的利用とも正の相関があり、これは開放的な人が楽曲の複雑な構成を分析しようとすることを意味する[25][22][28][45]。さらに、開放性が高いほど美しい主題の多い作品を好む[46][26]。
外向性
外向性もジャンル選好と音楽利用を予測しやすい。活発な外向性は、ハッピーでアップビートな伝統的音楽や、ラップ、ヒップホップ、ソウル、エレクトロニカ、ダンスといったエネルギッシュでリズミカルな音楽を好むことに繋がる[25][27]。さらに、外向的な人は沢山の音楽を聴き、生活にBGMを多く取り入れる傾向がある[38]。BGMの歌詞の有無によって、内向的な人と外向的な人のどちらがより気が散りやすいかという研究では、外向的な人の方がBGMを多く聴く分それを無視することに長けていると想定されていたが、結果はそうならなかった。音楽を聴いている量によらず、歌詞のある楽曲の影響を受け、気が散った[47]。外向的な人はテンポの速い元気な音楽、美しい主題の多さ、ボーカルも好んだ[28][26][37]。また、ランニング中、友人と過ごす時、勉強中といった、別の活動をしながらBGMを聴くことをより好んだ[45][22][25]。外向的な人はアイロンがけのような日常の退屈に対抗するために音楽を用いる傾向がある[22]。トルコにおける研究によると、外向的な人はダンスや動作を促進するジャンルであるロック、ポップ、ラップを好む。
他にも、音楽教師や音楽療法士は音楽を好み勉強しているのだからより外向的ではないかとする研究が行われた。その結果、音楽教師はそうでない人より明らかに外向的であった。音楽療法士も、教師よりは低得点であったもののやはり外向的であった[48]。この差の原因は、教えることを仕事にできるかはより外向性に依存するからだと考えられる。
協調性
協調性のある人は、アップビートな伝統的音楽を好む[27]。また、聴いたことがない楽曲に対し強い情動反応を示す[29]。協調性は、あらゆる種類の音楽により経験される感情の強度を、肯定的感情であっても否定的感情であっても、上手く予測する。協調性で高得点の人は、あらゆる種類の音楽に対してより強い情動反応を示す傾向がある[49]。
神経症傾向
神経症傾向が強いほど、ロックやヘヴィメタルといった激しく反抗的な音楽を好みにくく、逆にカントリー、サウンドトラック、ポップといったアップビートな伝統的音楽を好む[27]。また、神経症傾向は音楽の感情的な利用と正の相関がある[25][24]。神経症傾向で高得点の人は、感情調節のための音楽利用を報告しやすく、特に否定的感情について強い情動反応を経験しやすかった[25][22]。
誠実性
誠実性は、ロックやヘヴィメタルといった激しく反抗的な音楽と負の相関がある[27]。過去の研究から誠実性と感情調節に関係があることが分かっているが、その関係はマレーシアでは見られず、多文化に適用できるものではない[22]。