頸動脈狭窄症
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吹田研究では面積狭窄率25〜50%の頸動脈狭窄症の患者の頻度は男性で6.5%、女性で3.0%であった。面積狭窄率で50%を超える頸動脈狭窄症の頻度は男性で7.9%であり女性で1.3%であった。
原因
- アテローム硬化
頸動脈狭窄症の原因のほとんどはアテローム硬化である。粥状硬化により動脈壁の内側に線維性肥厚、脂質沈着、線維性硬化巣、アテローム、さらに石灰沈着、潰瘍、血栓などの複合病変(プラーク)が形成され内腔が狭小化することが原因と考えられる。総頸動脈遠位部から内頚動脈、外頚動脈の近位部がアテローム硬化性病変の好発部位である。症候の有無、狭窄の程度、部位、プラークの質的な評価で治療方針は決定される。脂質コアが大きい、線維性被膜の菲薄化、プラークの炎症細胞浸潤、血管新生、プラーク内出血など不安定プラークの評価を超音波、MRI、PETなどで行うことが多い。
- 脳動脈解離
脳動脈解離は若年者における脳卒中の原因として注目されている。日本では脳梗塞全体の1.2%、50歳以下では2.9〜3.8%を占めると報告されている。CTAやDSAで明らかなintimal flapやdouble lumenを認める場合、またはT1WIで壁在血腫と思われる高信号を認める場合に動脈解離と診断できる。
- 動脈解離の進展
胸部の大動脈解離が進展することで総頸動脈に狭窄や閉塞をきたす。過去の報告ではstanford A型の16%に虚血性脳血管障害が合併すると報告されておりそのほとんどが内頚動脈系(81.2%)であった。急性期脳梗塞例では発症時に失神を伴った例や明らかな塞栓源を指摘できない症例で注意が必要である
- 高安動脈炎
高安動脈炎は大動脈とその分岐に閉塞や狭窄をきたす肉芽腫性血管炎である。比較的若い女性に好発し、急性期に倦怠感、体重減少、発熱を認め、赤沈が亢進する。病理学的には中膜を中心とした結合織の増殖と弾性線維の破壊を認め、内膜と中膜の肥厚に伴う血管腔の狭小化、中膜の脆弱による内腔の拡張を認める疾患である。頸部超音波検査では典型的には内中膜複合体が全周性および対称性に肥厚するマカロニサインを確認することができる。
- 線維筋性異形成(FMD)
若年から中年の女性に多い慢性の全身性動脈疾患である。病理学的には動脈壁内の繊維組織と平滑筋の異常増殖が中心であり、腎動脈、頭蓋外および頭蓋内内頸動脈、椎骨動脈、腸骨動脈で起こることが報告されている。脳動脈に線維筋性異形成が認められた例では腎動脈などに病変がないか検査する必要がある。
- 放射線による頸動脈狭窄
放射線照射による頸動脈狭窄は悪性腫瘍に対して頭部や頸部に放射線を照射した後、数年で出現すると報告されている。放射線による内膜障害、外膜の線維化、外膜の栄養血管の障害による虚血性壊死が原因とされており、狭窄病変の病理学的変化はアテローム硬化とほぼ同様である。
- もやもや病
もやもや病は両側の内頸動脈遠位端に高度狭窄もしくは閉塞を認め、その側副血行として特徴的なもやもやした血管の発達を認める疾患である。
症候
頸動脈狭窄症の症状としては一過性脳虚血発作(TIA)が有名である。頸動脈狭窄により脳や眼の虚血症状が起こるが、その原因は支配領域の血流低下(血行力学的機序)と頚動脈狭窄部位プラークや血栓などからの塞栓症(動脈間塞栓症)がある。頭蓋外頸動脈の閉塞性病変では50~75%と高頻度にTIAが生じる。NASCETで50~70%を超えると虚血性脳血管障害や眼の虚血症状を発症する危険性が高くなる。動脈解離では解離局所の痛みや解離部位の血管拡張による圧迫が原因で脳神経麻痺が起こることもある。
- 頸動脈狭窄性病変に特徴的な症候
limb shakingとtransient hemichoreaは比較的頸動脈狭窄症に特異的な症状である。limb shakingは狭窄の対側上下肢の繰り返す、不随意的で、不規則な震える動きである。CEAで消失するため、皮質境界領域の血行力学的な機序が原因と考えられている。
- 眼動脈の虚血症状
一過性黒内障などが知られている。
- 頭蓋外頸動脈解離に伴う症状
解離部位の疼痛が有名である。
動脈硬化の分類と経過
AHA(america Heart Association)で動脈巣の分類がされている[1]。動脈硬化巣はある段階まで概ね一定の自然歴をとり、病変の進行に伴い安定化に向かうものと、不安定性が増強する例または時期があすと推定されている。すべての動脈硬化ではないが、一部の動脈硬化は不安定プラークに移行し、血流低下を招くか、塞栓源となることで脳梗塞の発症に至る。AHA分類typeⅠは適応反応適応反応による内膜肥厚に引き続き、少数の泡沫細胞(変性LDLコレステロールを含むマクロファージでありfoamy cellという)が散在性に認められる時期である。typeⅡになると泡沫細胞が集簇する。typeⅠもtypeⅡも早期病変と定義され、一般に症状を示すことはない。typeⅢはプレアテローマと呼ばれ、細胞外脂質の少量の沈着を認め、typeⅣでは顕著な脂質コアを認める。その後脂質コアを外膜側に押しやるように厚い線維性被膜が形成され安定化するとtypeⅤになる。プラークの破綻、プラーク内出血、潰瘍、血栓形成などを認めるのが不安定型といわれるtypeⅥである。typeⅣまでの進展は一方向性である。
動脈硬化の病理変化をAHA分類と比較する。動脈硬化はなんらかの慢性的ストレスによる内皮細胞機能障害から血漿成分の透過性亢進がおこることからはじまる。この過程では高血圧、糖尿病、高脂血症、喫煙などのリスクファクターが重要な役割を担うと考えられている。これにより中膜平滑筋の収縮型から分泌型への形質転換が誘導され、内膜への平滑筋細胞の収縮と増殖がおこる。これを適応反応という。血漿成分の透過性亢進はLDLコレステロール(LDL-C)の内皮内への侵入も引き起こし、周囲細胞により酸化LDL-Cへと変化した後、平滑筋増殖をさらに促進する。酸化LDL-Cは周囲細胞にとって毒性があり、これを除去するために近傍の内皮細胞は接着因子を提示して単球(マクロファージ)を内皮内に誘導する(typeⅠ)、マクロファージは酸化LDLを貪食し続け、脂肪斑を形成するようになる(typeⅡ)。大量のLDL-Cの侵入に対応できない場合、マクロファージの寿命とともに細胞が崩壊する(typeⅢ)。やがて大量の脂質と細胞の死骸を含むlipid-rich necrotic coreを形成するようになる(typeⅣ)。その後は安定型のtypeⅤまたは不安定型のtypeⅥへ移行する。
画像検査
頸動脈超音波検査
最も歴史の古いプラークイメージングである。低輝度エコーを呈するプラークの脳虚血発作発症率が高いことは大規模コホート研究から証明されている。高度狭窄とは70~99%狭窄であり、中等度狭窄では30~69%であり、軽度狭窄は30%未満とされている。脳梗塞の病型診断でTOAST分類で行う場合は50%以上の狭窄の有無が重要となる。狭窄度の測り方にいくつかの方法がある。
血管内超音波
冠動脈で用いる血管内超音波を頸部病変に応用する。
MRI
プラークを評価する代表的な撮像法としてはblack blood法、TOF(time of flight) MRA法、MPRAGE(magnetization prepared rapid gradient echo法)が知られている。conventional MRIのアテローム血栓性脳梗塞の画像でも病因の解析ができる。
プラーク解析
- black blood法
T1協調画像でlipid rich necrotic coreが高信号に、プラーク内出血が高信号から低信号を示す。撮像に時間がかかる。
プラーク性状 TOF T1WI プロトン密度強調画像 T2WI 脂質コア(出血なし) 等信号~軽度高信号 等信号~軽度高信号 等信号~軽度高信号 等信号~軽度高信号 脂質コア(新鮮出血) 高信号 高信号 低信号~等信号 低信号~等信号 脂質コア(出血あり) 高信号 高信号 高信号 高信号 線維性被膜 低信号 等信号~軽度高信号 等信号~軽度高信号 等信号~軽度高信号 石灰化 低信号 低信号 低信号 低信号 線維組織 等~低信号 等信号~軽度高信号 等信号~軽度高信号 等信号~軽度高信号 - TOF MRA法
プラーク内出血が高信号でありlipid rich necrotic coreは比較的高信号から等信号を示す。TOF MRAで高信号を示しているもの(high intensity signal HIS)はCASにおける周術期の塞栓合併症が有意に高かった。TOF法の弱点は乱流や流れの剥離が生じる部では信号強度が低下するため、狭窄病変を過大評価し、狭窄率を高めに見積もる。near pcclusionで完全閉塞のように見えたり、逆流があっても完全閉塞にみえる。
- MPRAGE法
3D fast gradient echo法の一つである。プラーク内出血が高信号でありlipid rich necrotic coreは軽度高信号から等信号を示す。
- USPIOを用いたMRI
プラークの炎症性変化に着目したイメージングである。
病変の解析
頸動脈狭窄症が脳虚血症状を引き起こす機序としてはその多くが頸動脈分枝部のプラークからの塞栓症(artery to artery embolism、動脈間塞栓症)とされている。しかし血行力学の機序の関与も知られている。この2つの機序は独立ではなく相互の影響している。低灌流の場合は血流による塞栓のwash outが障害され梗塞となるばあいがある。これをwashout theoryという[2]。
頸動脈狭窄症によるアテローム血栓性脳梗塞の病変には大きく6つのパターンが知られており、パターンごとにある程度の発症機序の推定が可能である。高度狭窄(70~99%狭窄)では50~69%狭窄と比較して血行力学の関与が疑われる梗塞パターンを取りやすいことが知られている[3]。日本における検討では50%以上の頸動脈狭窄を有する患者の半数近くにinternal watershed areaの病変が生じており、対側閉塞が加わるとinternal watershed area infarction、cortical watershed area infarctionを生じやすくなる。cortical small infarctionやterritorial infactionは75%以下狭窄では生じにくい。頸動脈狭窄による発症は大部分が塞栓性機序とされているが、潜在的にはさまざま血行力学的な因子の影響を受けている可能性がある。
- internal watershed area infarction
側脳室に近接した内側分水嶺領域の病変である。側脳室前角から半卵円中心にかけて点状斑状に多発する病変であり、皮質小梗塞の合併は少なく、rosary-like patternと呼ばれる。狭窄遠位の低灌流圧や側副血行路未発達な場合に生じやすく、血行力学的な因子の関与が大きいとされる。
- cortical watershed area infarction
楔状の皮質分水嶺領域の病変である。側脳室近傍ではinternal watershed areaと重なる部分もあるが、側脳室前角または後角から扇状に皮質まで広がり、病理学的にもmicro-embolismが証明されることが多い。micro-emboliは粉砕されやすく、50μm以下になると毛細血管のすり抜けが生じるため画像上把握ができなことが多い。主幹動脈の低灌流が加わるとwash outが生じにくくなり血行力学的な因子が相乗的に作用する。これをwashout theoryという。
- 穿通枝領域のラクナ梗塞
穿通枝の動脈硬化以外にBADや稀に塞栓性の関与が考えられる。
- cortical small infarction
1本または複数本の還流領域、主に皮質に10~15mmの小病変をしめす。おもにartery to artery embolism(動脈間塞栓症)によって生じるパターンである。
- territorial infaction
1本または複数本の灌流領域の大きな病変である。
- 複合型
上記5つの病型を複合することもある。
血流解析
- perfusion MRI
CT
CTAは石灰化や潰瘍病変の検出に優れるがプラーク性状については単純にHU値のみでは予測が困難である。perfusion CTによる血流評価もおこわなわれる。
FDG-PET
動脈硬化の進展には炎症反応が大きく寄与していることに注目し、FDG-PETを用いて炎症細胞の集積を評価しよりactiveなプラークを検出することが可能となった。
SPECT
SPECT検査はアテローム血栓性脳梗塞における血行力学的脳虚血の重症度を評価することができる。脳梗塞の再発率の高いサブグループを見出すことができる。脳血行再建術により血行力学的脳虚血の重症度の改善を証明できる。前述のサブグループにおける脳梗塞再発予防効果を検討できるとされている。特に重要なのがSTA-MCAバイパス術の適応を検討することである。1985年の国際共同研究[4]の結果ではSTA-MCAバイパスは脳梗塞の再発予防効果はないとされていた。しかし、その後血行力学的脳虚血の定量的重症度判定により血行再建術が有効なサブグループ、貧困灌流あるいはstageⅡが見出された。日本で行われたJET研究での定義をまとめる。JET研究ではDTARG法を最終発作から3週間以上経過してから用いている。脳循環予備能は(アセタゾラミド負荷時の脳血流/安静時脳血流-1)×100とし、作図では横軸を安静時脳血流、縦軸をアセタゾラミド負荷時血流(ml/100g/min)でプロットする。stage0は脳循環予備能が30%より大きい場合である。stageⅠは脳循環予備能が10~30%の範囲内または、脳循環予備能が10%以下かつ安静時脳血流が正常平均値の80%より大きい場合である。stageⅡは脳循環予備能が10%以下でありかつ安静時血流量が80%以下の場合である。最終発作から3週間以上経過した後のstageⅡが貧困灌流と考えられ、慢性期のSTA-MCAバイパスが脳循環予備能を改善し、血行力学的脳虚血の軽症化が認められ脳梗塞再発予防効果も明らかになっている。脳循環予備能<0%の場合は盗血現象が起こっていると考えられているが他の貧困灌流と予後に差はないとされている。統計解析はSEE解析がされる場合が多い。
また脳循環予備能の低下はCEAやCASの過灌流症候群のリスクファクターであることも判明しており[5]術後管理にも役立つ。