黒い海

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黒い海
作者 伊澤理江
日本の旗 日本
言語 日本語
ジャンル ノンフィクション
発表形態 ウェブ掲載
初出情報
初出 SlowNews 2021年2月-4月
刊本情報
収録 『黒い海』
出版元 講談社
出版年月日 2022年12月23日
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黒い海:船は突然、深海へ消えた』(くろいうみ ふねはとつぜん しんかいへきえた)は、ジャーナリスト伊澤理江ノンフィクション2008年6月に千葉県沖で沈没した巻き網漁船の沈没原因を取材した作品[1]2021年にウェブメディアで発表後、2022年講談社から出版。2023年講談社 本田靖春ノンフィクション賞はじめ4つの文学賞を受賞した[2]

2008年6月23日午後1時過ぎ、千葉県銚子沖で停泊していた巻き網漁船第58寿和丸が、突然沈没した。乗組員20人のうち、4人死亡、13人行方不明で、助かったのは3名であった。

寿和丸を所有する福島県いわき市の酢屋商店社長野崎哲らは、事故原因を調べるための潜水調査を求める署名活動を行い、14万筆を超える署名を2009年1月に国土交通省などに提出した。しかし船が沈んだのは水深5,800メートルの深海であり、調査は実施されなかった。

2011年3月に起きた東日本大震災により、いわき市の漁業者らは大きく被災し、福島県漁連の会長を務める野崎[3]は、震災復興にも中心となって取り組むことになった。翌4月に運輸安全委員会が公表した寿和丸沈没の原因は、大波による転覆、というものであった。

2019年秋、野崎と出会った著者は、沈没事故について初めて知る。そして発表された事故原因が、助かった3人の証言と大きく食い違うことから、沈没の原因を取材していく。事故当時のマスコミ報道を丹念に調べ、3人の生存者や遺族に話を聞き、横浜地方海難審判理事所運輸安全委員会、日本環境災害情報センターなど、関係者や専門家に手紙を送り、インタビューを重ねていく。そして潜水艦が衝突した可能性に行き当たるが、機密情報の壁にぶつかったところで本書は終了する。

発表・出版

初出は2021年の2月から4月にかけてウェブサイト『SlowNews』で、『沈没』というタイトルで連載された[2][4]

単行本としては、2022年12月23日に講談社より『黒い海 : 船は突然、深海へ消えた』として刊行された[2]ISBN 978-4-06-530495-2

2025年11月に文庫化され、『黒い海 : 船は突然、深海へ消えた』が講談社文庫 (い165-1)として出版され、電子版も同時に出された[5]ISBN 978-4-06-540920-6 。文庫版あとがきには、単行本刊行後に判明したことがらが追記され、ジャーナリスト清水潔による解説が付されている[6]

評価

朝日新聞論説委員の行方史郎は、2023年3月4日の朝日新聞で、「「守秘義務」と「記憶にない」という立ちはだかる二つの壁をどう乗り越えていくのかが本書の醍醐味である。権力を持つ側にとって都合の悪いことが公式な記録から排除され、「正しい歴史」として伝わる。著者が抱く危機感を私も別の取材で感じたことがある。であればこそ、丹念に証言を集めた本書には普遍的な意義と価値がある。読後感が意外にも晴れやかなのは著者自身がまだ希望を捨てていないからかもしれない」と評している[7]

2023年3月4日の毎日新聞栗原俊雄は、「会っても口が重かった人たちが少しずつ心を開いていったのは、取材者の熱意ゆえだろう」「綿密な取材を積み重ね、「新しい事実」に迫っていく過程はスリリング」と書いている[8]

2023年9月17日のSlowNewsは、9月14日に行われた第45回講談社 本田靖春ノンフィクション賞の授賞式の様子を伝え、著者及び関係者の発言を掲載している。その中で講談社の野間省伸社長は「ノンフィクションでありながら、良質のミステリー小説を読んでいるような気持ちにさせられた」と語っている。また選考委員の原武史は講評で、「最終的にアメリカの潜水艦の衝突というのが蓋然性としては一番高いだろうという結論に至ったそのプロセスは、学術作品にも通じるもので、もし伊澤さんが政治学者になっていたらおそらく超一流の政治学者になったのではないか」と述べた[4]

2023年12月9日の毎日新聞で経済学者の成田悠輔は、「煽りを抑えた短文の筆致は古典推理小説のようだ」「忘却の海から事実を救済する地道すぎる調査が、喪われた、そして遺された人々の不条理に光を当てる。対象が地味だからこそ意義を持つ調査報道の真髄がそこにある」と評し、調査報道が難しくなっている時代に出たこの本の意義を指摘している[9]

2025年11月刊の文庫版解説でジャーナリストの清水潔は、著者について「関連する資料を探しては読み込み、生存者や関係者を説得して取材を尽くして謎に迫る。強い思い込みを排除し、あらゆる角度から真実に近づこうとするその姿勢は好感が持てる」「まるで自分を追い込んでいくかのような使命と決意。手紙を書き、電話をかけ、取材拒否を受けても何度も足を運ぶ。……真実こそがすべてを凌駕すると、己を鼓舞せねばやってはいられない」と述べている。そして「捜査権も持たぬ一人の女性が、黒い海を泳ぐようにして拾い集めた情報の断片をつなぎ合わせ、全体像を世に示した弩級の調査報道。受け取る側は心して読んで欲しいと願う」と結んでいる[10]

毎日新聞2026年2月1日号でジャーナリストの池上彰は著者にインタビューし、「運輸安全委員会が原因を発表すれば、大手メディアはそれ以上深堀り取材することはほとんどない」にもかかわらず、著者が「地道な取材で関係者の「重い口」をこじ開ける」などしたことを讃えている[1]

受賞

脚注

関連項目

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