5α-還元酵素欠損症

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別称 偽膣会陰陰嚢部尿道下裂(Pseudovaginal perineoscrotal hypospadias[1])、46,XY disorder of sex development due to 5-alpha-reductase 2 deficiency.[2]
原因 SRD5A2 遺伝子変異[1]
5α-還元酵素欠損症
別称 偽膣会陰陰嚢部尿道下裂(Pseudovaginal perineoscrotal hypospadias[1])、46,XY disorder of sex development due to 5-alpha-reductase 2 deficiency.[2]
生化学; テストステロン生合成経路, 5α-還元酵素欠損症の病理
概要
原因 SRD5A2 遺伝子変異[1]
分類および外部参照情報

5α-還元酵素欠損症[3]: 5α-Reductase 2 deficiency: 5αR2D, 5-ARD)は、2番染色体上に位置し5α-還元酵素2型(5αR2)をコードするSRD5A2英語版 遺伝子の機能を損なう変異によって引き起こされる常染色体潜性疾患である。5αR2は特定の組織で発現し、テストステロン(T)から5α-ジヒドロテストステロン(DHT)への変換を触媒する。DHTは性分化英語版の過程において重要な役割を果たしている。

この稀な欠損症は、遺伝学的男性(46XY核型を持つヒト)において非典型的な性分化を引き起こしその症状は多岐にわたるが、特に外性器に顕著に現れる。5α-還元酵素欠損症の患者の多くは外性器の状態に基づき出生時に女性として割り当てられるが、状態によっては(矮小陰茎(非常に小さい陰茎)や尿道下裂(陰茎の腹側に尿道口がある状態)など)出生時に男性と判定される場合もある。日本では性別決定が困難な場合は、後日性別が決定したときに「追完」する旨を追記した上で、名前と性別欄(父母との続柄欄)が空白(保留)の状態で出生届を提出しても良い[4]:31-34

思春期には男性ホルモンの分泌量が増加し、筋肉量の増加、声の低音化、陰毛の発生、急激な成長などの二次性徴が現れる。また、陰茎が大きくなることもある。5α還元酵素欠損症患者では、顔や体毛が薄い。

罹患児には、非定型的外性器(女性的な外観から未発達な男性器まで多岐にわたる)、尿道下裂、孤発性矮小陰茎など、幅広い臨床像がみられる。内部生殖器(精管精嚢精巣上体射精管)は正常であるが、精巣は通常停留しており、前立腺低形成英語版もよくみられる。SRD5A2 遺伝子に同一の変異を有する男性でも表現型が異なる場合があり、臨床症状に関与する追加因子の存在が示唆される[5][6]。遺伝学的に女性(各細胞に2本のX染色体を有する)である人々はSRD5A2 遺伝子の両コピーに変異を継承することがあるが、その性分化には影響しない。女性性徴の発達にはDHTを必要としないため、ステロイド5α-還元酵素2の活性が欠如しても、これらの個人に身体的変化は生じない[1]

思春期になると罹患者でもテストステロンの分泌が大量に分泌される。テストステロンもジヒドロテストステロンよりも弱いが

は声が低くなり、筋肉量が増加し、性器の男性化が生じるが、低身長は見られない。部分アンドロゲン不応症候群17β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素3欠損症英語版など、他の原因による46,XY性分化疾患とは対照的に、女性化乳房は稀であり、骨密度は正常である。顔や体の体毛は少なく、男性型脱毛症は生じない[5]

5αR2Dの患者における自然妊娠は非常に稀であるが[5]、報告例もある[7]。これは精子数の減少、精液粘度の上昇、場合によっては一次精母細胞の欠如などの精液異常によるものである。このことは、DHTが精母細胞の分化において重要な役割を果たしているという説を裏付けている[8]。症状の多様性は、罹患者間で精子数が大きく異なるという事実と一致している。精巣機能は、遺伝的変異そのものだけでなく精巣の下降不全によっても損なわれる可能性がある[9]

遺伝学的項目

SRD5A1 およびSRD5A2 と命名された、其々5つのエクソンと4つのイントロンを持つ2つの異なる遺伝子が、2種類の異なる5α-還元酵素をコードしている。ヒトの5α-還元酵素-2遺伝子(SRD5A2 )は2番染色体英語版短腕のバンド23に位置し、5α-還元酵素2型と呼ばれる254アミノ酸からなる蛋白質をコードしている。5α-還元酵素-1遺伝子(SRD5A1 )は、5番染色体英語版短腕のバンド15に位置し、5α-還元酵素1型と呼ばれる259アミノ酸からなる蛋白質をコードしている。両蛋白質の配列相同性が高いこと(約60%)から、進化の過程で共通の前駆体遺伝子が存在した可能性が示唆される。しかし5α-還元酵素1型の役割は充分に解明されていない[5]

SRD5A2 遺伝子の変異は、5α-還元酵素2欠損症と呼ばれる46,XY性分化異常(46,XY DSD)を引き起こし得る。これらの変異は、特定の民族的背景を持ち、近親交配係数が高い地域でより頻繁に観察される。これらの変異により、不安定なアイソザイムから酵素活性の完全な喪失に至るまで、さまざまな程度の酵素活性を示す蛋白質が生成される[10][11]。5α-還元酵素2型蛋白質の254個のアミノ酸のうち、67種類の異なる残基を指定するコドンの変異が同定されており、幾つかのアミノ酸のコドンでは複数の変異が確認されている[5]

SRD5A2 遺伝子において最初に確認された変異は、パプアニューギニアの部族に属する患者の解析から発見された、ほぼ完全な欠失であった[12]SRD5A2 変異の大部分はミスセンス変異であるが、小さな欠失、スプライス接合部変異英語版、大きな欠失も観察されている[13]。これらの変異は、5αR2の不安定化から活性の完全な喪失に至るまで、幅広い活性への影響を齎す[5]

SRD5A2 遺伝子の変異は、常染色体潜性遺伝のパターンで受け継がれる。ホモ接合体の欠損は複合ヘテロ接合体の欠損よりも一般的である。最も一般的な変異の多くについては表現型と遺伝子型の相関関係は確認されておらず、同じ5αR2変異を持つ患者でも表現型にばらつきが見られることから、表現型の決定には他の相互作用する遺伝的因子の関与が示唆される[14]

発生機序

5α-還元酵素2型(5αR2)はSRD5A2 遺伝子によってコードされる酵素であり、胎児期の発育から成人期に至るまで、男性の体内の特定の組織で発現している[5][15][16]。この酵素は、細胞内でテストステロン(T)を5α-ジヒドロテストステロン(DHT)へと変換する反応を触媒する。DHTは、アンドロゲン受容体(AR)に対する最も強力なリガンドである[17]。DHTがARに結合するとDHT-AR複合体は細胞質から核へと移行し、男性の性分化を含むプロセスに関与するアンドロゲン受容体制御遺伝子を活性化させる[18]

胎児期の外性器の分化はほぼ完全にDHTに依存しているため、5αR2が不足すると男性器形成が障害される[19]。一方でウォルフ管由来の男性内性器の分化はT依存であり[19]精巣上体などは正常に形成される。

思春期になるとテストステロンの分泌が著しく上昇する。テストステロンはジヒドロテストステロンよりも弱いがアンドロゲン受容体に結合して第二次性徴を発現させる[20]。加えて5α-還元酵素1型(5αR1)が肝臓や皮膚で発現し始め、ジヒドロテストステロンを産生し男性化を促進する[21][22]

診断

診断は通常、出生から思春期までの間に行われる。女性型の外陰部を呈し思春期に男性化が見られる偽膣会陰陰嚢部尿道下裂は5αR2Dに起因する典型的な症候群であるが、現代の診断法を用いれば、出生直後にこの欠乏症を診断しその多様な臨床像を把握することが可能である[5]

46,XY DSDは、明らかな外性器の異常により初期診断される。外見上女性器を有する場合は、陰核肥大、小陰唇後部癒合、鼠径部/小陰唇腫瘤などの形態異常の特徴を客観的に臨床評価して46,XY DSDを診断する。外見上男性器を有する場合は、精巣の触知不能、矮小陰茎、孤立性会陰部尿道下裂、または停留精巣を伴う軽度の尿道下裂が見られる。評価にあたっては、家族歴および出生前歴も考慮される。末梢血白血球検体を用いた核型分析およびSRY 遺伝子解析により、性染色体異常を除外することができる。XY核型と正常なSRYが確認された場合、46,XY DSDの鑑別診断は、T/DHT比(5αR2活性を示す)の内分泌学的測定[23]と精密な解剖学的画像診断によって行われる。これは、5αR2Dが他の46,XY DSDの原因(例えば、部分アンドロゲン不応症候群や17β-ヒドロキシステロイド脱水素酵素3型欠損症)と区別するのが難しい場合があることによる[9]

血清DHT濃度の測定は、その濃度が低くDHTの交差反応性が高いため困難を伴う。若年男性では通常、血清T濃度がDHTの10倍程度高いため、DHT濃度を測定するには高い検査特異性が求められる。T/DHT比の内分泌学的検査は、比の正常値が年齢や5αR2活性の障害の程度によって異なるため、解釈が難しい場合がある。欠損症を有する思春期男性で血清T値が正常な場合は、T/DHT比の上昇(Tは正常、DHTは正常より低い)が認められる。測定のために血清テストステロン濃度を上昇させるには、思春期前の子供ではヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)(またはテストステロンエナント酸エステル英語版)による刺激が必要である(刺激とサンプル採取は数日間にわたって行われる)。新生男児におけるT/DHT比の解釈は、新生児期のテストステロン急増[24]および正常値より高い5α-還元酵素1型活性のため、特に困難である。新生児の診断にはSRD5A2 遺伝子解析が推奨される[25][26]。概してT/DHT比が18を超える場合に5αR2Dと診断されるが、重症例では30を超える比が観察されている[5]。5αR2Dは、ガスクロマトグラフィー・質量分析法(GC-MS)を用いて尿中で測定された5α-還元ステロイドと5β-還元ステロイドの比が低いことも指標となる[27]

超音波検査が診断のために生殖器内部を評価する主な手段である一方、性路尿路造影英語版および排尿時膀胱尿道造影英語版が尿道や膣などの構造を明らかにするために用いられる[28][29]。5αR2Dの診断画像検査としての骨盤MRIの有用性については、依然として議論が分かれている[28]

管理

46,XY DSDにおいて臨床的に最も困難かつ議論の的となっている課題の一つが、「性別割り当て」または「養育上の性」の取り扱いである[30]。これは特に5αR2Dにおいて顕著であり、その理由は、患者のほとんどが出生時には男性化が不十分な外性器を有しているものの、思春期になると程度こそ異なるものの男性化が進むためである。歴史的に、5αR2Dの患者の多くは「女性として育てられてきた」[31]が、その後の報告によると、思春期に男性化を経験した患者の半数以上が男性としての性自認を持つようになり、従来の慣行に疑問を投げかけている[32][33][34]

性別の決定および養育の目標は、患者が成人した際にその性自認が生物学的性別と一致する可能性を最大限に高めることにある。性自認を形成する要因は複雑であり一概に言い切ることは難しいが、その要因としては、性染色体、アンドロゲンへの曝露、心理社会的発達、文化的期待、家族関係、社会的状況などが挙げられる[30]

5αR2D患者を女性として育てる場合、小児期の性腺摘出術(思春期における男性化の予防)や膣形成術などの外科的処置が必要となる[9]。また、女性の第二次性徴の発達と維持のためには、生涯にわたるホルモン療法も必要とされる[35]。男性として育てる場合には、生涯にわたるホルモン治療を回避でき、将来的な生殖能力の可能性も残される[30]。精子形成および生殖能力に不可欠な精細管の損傷を防ぐため、停留精巣と尿道下裂に対処する必要がある[36]。性別決定や外科的介入を行う前に、乳児期に診断を受けることを推奨する取り組みもある[9]

子供の健康状態、親の意向、医療チームの勧告、現地の法律が複雑に絡み合うため、こうしたケースにおける意思決定は困難を極める。このような介入を行う際に必要となる同意や欺瞞に関する倫理的問題が深刻に問われている[37]

精子の採取および濃縮を伴う生殖補助医療、すなわち子宮内人工授精[38]顕微授精(ICSI)[39]体外受精(IVF)[40]は、いずれも5α-還元酵素2型欠損症(5αR2D)を有する患者において、生殖能の達成に成功していることが示されている。

疫学

5αR2Dは、世界中に分布する希少な疾患である。2020年の研究では、トルコ(23%)、中国(17%)、イタリア(9%)、ブラジル(7%)を含む44カ国で、計434例の5αR2D症例が確認された。同研究では、性器の男性化が性別の判定に影響を与える一方、性自認の変更は各国における文化的要因の影響を受けることも明らかになった。分子診断の結果、罹患した新生児に対しては男性としての性別判定が推奨された[13]

SRD5A2遺伝子変異の多くは、近親交配係数が高い地域[5]、例えばドミニカ共和国[41]パプアニューギニア[42][43]トルコ[44]などで発生している。

歴史

1961年、男性において「偽膣会陰陰嚢性尿道下裂(pseudovaginal perineoscrotal hypospadias; PPSH)」と称される常染色体劣性性分化障害が発見された[45]。この症候群の主な特徴は、両側の精巣と男性尿生殖器系が存在するも、射精管が盲端の膣で終わる外陰部を呈することである[5]。この疾患は動物モデルで観察されたように、5αR2Dが根本原因であるという考えと一致していた[7]。1974年にドミニカ共和国の24名[46]および米国テキサス州ダラスの2名[47]を対象とした研究で、5αR2Dがヒトにおける原因であることが確認された。ダラスでの症例のうち1例は思春期に男性化が始まり、精巣を摘出して明らかな陰核肥大を「修復」する手術を受けた。手術中に、正常な男性の泌尿生殖器系に加え、PPSHと一致するその他の所見が認められた。包皮[48]、精巣上体、および「大陰唇」と推定される部位から採取した培養線維芽細胞ではDHTは殆ど検出されなかったが、正常な男性ではDHTが検出されることから、DHTの生成障害が示唆された[49]

ドミニカ共和国の研究に参加した家族の参加者についても同様の結論が得られ、血清中のT/DHT比が高値であり、尿中5α-還元アンドロゲンの濃度が低いことが観察された。この疾患は、SRD5A2 遺伝子のホモ接合体または複合ヘテロ接合体の機能喪失変異に起因することが知られている[50]サリーナスではこの欠損症の頻度が異常に高く、発症率は影響を受けていない男性90人に対して1人の割合であった[46]

社会文化

ドミニカ共和国

ドミニカ共和国では、グエベドセス(güevedoces,「12歳で睾丸ができた」という意味)は第三の性として見做され、男性・女性の区分とは異なるジェンダー社会化英語版を経験する[51]。成人期には多くの場合自らを男性として認識するが、社会から必ずしも完全に男性として扱われているわけではない[43]

パプアニューギニア

パプアニューギニアでは、少女が身体的に男性へと変化し始めて社会的に男性の役割を担うようになると、その「少女」(「男性的なものに変わった」という意味のkwolu-aatmwolとして知られる)は疎外されると言われている[52]

スポーツ

2014年4月、BMJ誌は、5α-還元酵素欠損症(5-ARD)を持つ4人のエリートアスリートが、女子スポーツに出場するために不妊手術および「部分的陰核切除術」を受けたと報じた。著者らは、「部分的陰核切除術」は「医学的な適応がなく、アンドロゲン値の上昇に関連する実際の、あるいは認識されている競技上の『優位性』とは無関係である」と主張した。これらの選手は全員、生涯にわたってホルモン補充療法を受けることが困難となる可能性のある発展途上国出身であった[53]。インターセックス支援団体は、この処置を「明らかに強制的なプロセス」と見做している[54]

関連項目

出典

外部リンク

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