Astropulse
分散コンピューティングによる市民科学プロジェクト
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Astropulseは、原始ブラックホールやパルサー、地球外知的生命体(ETI)を捜索するためのボランティア・コンピューティングプロジェクトである[2]。参加するボランティアのコンピューターの計算リソースはBerkeley Open Infrastructure for Network Computing (BOINC)プラットフォームを通じて提供される。1999年にカリフォルニア大学バークレー校の宇宙科学研究所(SSL)はSETI@homeと題した、世界中のコンピューターをネットワーク経由で繋げて大規模並列計算を行うプロジェクトを開始した。SETI@homeではアレシボ天文台にある電波望遠鏡が記録した宇宙から飛来した電波のデータから、地球外技術の兆候を示すとされる狭帯域の電波信号を捜索する。開始後すぐに、SETI@Homeで使用しているデータには地球外知的生命体探査の他にも天文学や物理学のコミュニティーにとって価値のある信号が混ざっていることが認識され、SETI@Homeの派生としてAstropulseプロジェクトが始まった[3]。
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SETI@homeにおけるAstropulseのスクリーンセーバー | |
| 開発元 | カリフォルニア大学バークレー校 |
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| プラットフォーム | クロスプラットフォーム・ソフトウェア |
| 対応言語 | 英語 |
| 種別 | 市民科学、分散コンピューティング |
| ライセンス | GNU GPL[1] |
| 公式サイト | setiathome.ssl.berkeley.edu(閉鎖) |
このため、プロジェクトの将来はSETI@Homeへの資金状況に依存することになり、SETI@Homeが終了して以降はAstropulseも更新されていない。
開発
開始から6年間の間、Astropulseはベータ版の段階にあり一般公開されていなかった。そのまま2008年7月にはAstropulseはSETI@Homeへ統合されることとなったが、そのおかげで以降はSETI@Homeに参加している大規模な計算ネットワークが、Astropulseにおいて他の天文学的に価値のある信号の捜索にも貢献できるようになった。また、Astropulseも地球外生命体の捜索に貢献しうるものであり、それはAstropulseではSETI@Homeで採用しているアルゴリズムでは特定できない異なる種類の知的生命体からの信号を識別できること、そしてAstropulseが探索プロジェクトに加わった2番目のプロジェクトとして何か成果を上げることで、SETI全体にも波及する相乗効果が生まれると期待されたところによる[4]。
Astropulseの最終開発は2段階の取り組みで構成されている。1段階目はターゲットとなるパルスを正しく識別できるAstropulseのC++コアを完成させることだった。プログラムの完成後に研究チームでは、ターゲットとなるパルスを隠した試験用データセットを作成し、プログラムがその信号を見つけ出したことを確認した。よってAstropulseのコアがターゲットパルスを正確に識別する能力があることが確認された[5]。 これを受けて2008年7月以降、AstropulseはSETI@Homeの参加者に広く公開され、公開ベータテストとして改良を続ける段階に移行した。プログラミングのレベルでは、開発者は新しいバージョンが様々なプラットフォームと互換性があることを確認し、その後改良版の更新のペースを速めている。2009年4月までに、Astropulseではベータバージョン5.05のテストが行われている。
BOINCのコンセプトは大きな計算データのブロックを小さなユニットに小分けして、それぞれのワークユニットを参加している個々のコンピューターに配布するということである[6]。そのためAstropulseでも、Astropulseのワークユニットを実際のデータから分割し、ベータテストの参加者に配布するようになった。改良の課題は、Astropulseのコアプログラムが様々なOS上でシームレスに動作するかどうかであり、その後開発研究の焦点は誤検出を排除し削減するアルゴリズムの改良に当たっている。
科学研究
Astropulseは、単一のパルスと規則的に繰り返されるパルスの両方を捜索する。この捜索はSETIにとっては新しい戦略となり、これまで探されていた長い時間のパルスや狭帯域パルスのほかにマイクロ秒単位でのパルスも捜索対象として想定している[6]。これによって、短い広帯域のパルスを放つことが多いパルサーや原始ブラックホールが発見される可能性に望みが生まれる[6]。Astropulseのコアアルゴリズムの主要目的は、Astropulseの捜索対象であるマイクロ秒単位の電波パルスのコヒーレントな分散の解消である[7]。信号の分散は、電波パルスが星間物質(ISM)中のプラズマを通過する際に、高周波数の電波のほうが低周波数の電波よりわずかに速く通過するために生じるずれである[8]。 したがって信号は、地球とパルス発生源の天体の間にある、通過してきたISMプラズマの量に応じて分散された状態で電波望遠鏡に検出される。この分散を元に戻す処理は計算負荷が高いため分散コンピューティングに適している[6]。
AstropulseはSETI@homeの分散コンピューティング能力を利用して、計算のサブタスクを数十万人のコンピューターに配布して依頼することで、従来の研究よりも感度と時間分解能において優位を得ている。広帯域パルスはISMを通過することでチャープ信号となり、高周波数は早く、低周波数はわずかに時間差を生じて到達する[6]。したがって広帯域の周波数成分を持ち、分散が生じている信号は地球文明由来ではなく遠く地球外から飛来していることを意味する。 Astropulsは分散尺度が50 pc/cm3から800 pc/cm−3までの信号を検出し、これは天の川銀河のほとんど全域からの信号を検出できることに相当する[6]。 SETI@Homeでの従来の捜索では、地球外生命体による通信を地球のラジオ局のような狭帯域信号であると仮定した捜索が行われてきた。しかしAstropulseプロジェクトでは、地球外生命がどのような通信形態を取っているか全く分からない以上、このアプローチでは視野が狭いと指摘し、Astropulseでのサーベイは物理現象の探査の他に、狭帯域サーベイであるSETI@homeを補完する役割を果たす。
プロジェクトのチームは、Astropulseでブラックホールの蒸発を検出するか、その蒸発率の上限を5×10−14 pc−3年−1にまで制限できると考えており、これは従来の研究よりも104倍も優れた制限値となる[9]
課題
電波天文学のプロジェクトに一般的な課題として、人工的な電波との干渉があり、特にターゲット天体の電波が微弱だったり継続時間が短いときにその影響は顕著になる。このうち、軍事レーダーによるノイズは、電波が発せられるタイミングが規則的でレーダー照射時間も一定であるため、電波望遠鏡での観測時に意図的に遮蔽することができる。その他の、この手法で簡単に遮蔽できない干渉電波源を検出して除くアルゴリズムの開発も盛んになっている[10]。
成果
Astropulseは2008年7月中旬から運用が開始されており、そこからの数か月間の計算結果は様々な形で活用されている。ボランティアの協力を得た開発スタッフは、BOINCのクライアントソフトウェアが幅広いOSで効果的に機能するよう改良を行ってきた。 そしてワークユニットの計算をより短縮できるよう最適化されたコードの改良も行われている。また、電波干渉やランダムなバックグラウンドノイズの影響による誤検出を減らすためのアルゴリズムの改良も、計算結果をもとに進められた。
パルス候補の発見の期待
Astropulseの目標の1つは、ホーキング放射によって蒸発している途中にあると考えられるミニブラックホールを検出することである。こうしたミニブラックホールは、現在知られている通常のブラックホールと異なりビッグバンで生成されたと考えられている[11]。Astropulseプロジェクトでは、この蒸発によってAstropulseで検出できる電波が発生すると期待している。ブラックホールの蒸発では直接電波は生じないが、代わりに高エネルギーのガンマ線や粒子が膨張する火球が生成されると考えられており、この火球が周囲の磁場と相互作用することで電波が生まれて押し出されるとされている[12]。
回転電波突発現象(RRATs)とは2006年にイギリスのマンチェスター大学のジョドレルバンク天文台でモーラ・マクローリン率いるチームが発見した現象である。RRATsはその継続時間の短さと突発性から、電波源の位置を特定することが非常に難しい[13]。初期のこうした電波放射(RRATフラッシュ)を検出する試みでは、1日の観測で1秒未満の放射しか検出できなかったうえに、他の単一のバースト信号や地球上の電波干渉と注意深く区別する必要があった[14]。分散コンピューティングによるAstropulseのアルゴリズムはRRATsを多数検出できると期待されている。.
さらに、銀河系外に起源を持つと見られるパルス信号がアーカイブデータから見つかっている。こうした現象は1日に数百回生じている可能性があり、これらを検出できれば宇宙論的な探査に活用できる Astropulseのような電波パルサーのサーベイは、ミリ秒に満たない継続時間のバースト現象を電波で監視するという数少ない観測機会を生み出している[15]。 観測された現象は他の現象から孤立しているためその発生源の性質は推測の域を出ないが、ブラックホール同士の衝突や中性子星同士の衝突、あるいはブラックホールと中性子星の衝突や他にまだ考慮されていない現象などが考えられている。 ただし一方で2010年にパークス天文台で検出された同様の16件のパルスは、明らかに地球由来の電波であった[16]。
宇宙からのラジオ波放射(RF放射)はベル研究所で雷雨による電波干渉を研究していた電波工学者のカール・ジャンスキーによって発見された。ジャンスキーは、未知の発生源による一定のヒスタイプのノイズとしてこれを検出し、最終的にこの電波が地球外を起源とすると結論付けた。また、回転する中性子星であるパルサーや、遠方銀河の高密度核であるクエーサーも電波天文学者によって発見された。2003年にパークス天文台は電波観測中に、互いに公転する2個のパルサーからなる連星系を初めて発見した。アメリカ海軍調査研究所(NRL)の天文学者ジョセフ・ラツィオは、発見した強力な電波バースト源について発表した際に、「驚くべきことは、空にはX線やガンマ線の波長での突発天体に満ち溢れていることが知られているにもかかわらず、天体にとってはもっと発生しやすいであろう電波バーストについて探す研究についてはほとんど行われてこなかった」と指摘している[17]。 SETIネットワークが提供する計算リソースと優れたコヒーレント分散除去アルゴリズムによって、Astropulseもこうした発見に続き、未知の現象を発見すると期待されている。
学校現場での活用
AstropulseやそのパートナーであるSETI@Homeは、中学校や高校において理科教師が生徒に天文学や計算機科学に触れさせるための具体的手段となっている。多くの学校がボランティアによるコンピューター科学を学習の題材に取り上げている。