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Earning to Give

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分類 効果的利他主義に関連する倫理的実践
Earning to Give
高収入獲得による寄付
基本情報
分類 効果的利他主義に関連する倫理的実践
主な提唱者 ピーター・シンガーウィリアム・マッカスキル ほか

Earning to Give(アーニング・トゥ・ギブ、直訳:与えるために稼ぐ)とは、意図的に高収入の職業を選択し、その所得の相当部分を効果的な慈善団体や社会的に有益と考えられる活動に寄付することを目的とするキャリア戦略である。効果的利他主義の文脈で発展した概念であり、個人が直接的な社会貢献職に就く代わりに、より高い所得を得て資金面から他者の活動を支援することで、全体としてより大きな社会的インパクトを生み出し得ると主張される。[1]

Earning to Give は、高収入を得ること自体を目的とするのではなく、その収入を体系的かつ大規模に寄付することを主目的とする点に特徴がある。典型的には、金融、テクノロジー、コンサルティングなど平均給与の高い分野でキャリアを築き、その所得の一定割合(しばしば10〜50%以上)を、費用対効果の高い慈善団体や社会的プロジェクトに寄付することが想定されている。[2]

効果的利他主義の立場からは、限られた資源を最大限に活用するため、寄付先は疾病負担の軽減、極度の貧困削減、動物福祉、将来世代のリスク低減など、エビデンスに基づき高いインパクトが見込まれる領域に優先的に配分されるべきだとされる。[3]

背景・歴史

高収入を得てそれを寄付するという発想自体は、近代以前から宗教的・倫理的伝統の中に見られる。18世紀のメソジスト神学者ジョン・ウェスレーは説教 "The Use of Money" において、「第一にできる限り稼ぎ、第二にできる限り節約し、そして第三にできる限り与えよ」と説き、勤勉と倹約を通じた寛大な施しを奨励した。[4]

20世紀後半には、ピーター・シンガーが1972年の論文 "Famine, Affluence, and Morality" において、裕福な人々には、遠く離れた飢餓貧困に苦しむ人々を救うために大幅な寄付を行う強い道徳的義務があると論じ、現代的な寄付義務論の基礎を築いた。[5]

哲学者ピーター・アンガーは著書 "Living High and Letting Die: Our Illusion of Innocence" で、学界にとどまるよりも高収入のビジネス界に移り、その追加所得の大半を寄付することが道徳的に称賛され、場合によっては要求されると主張した。[6]

「Earning to Give」という名称と体系的なキャリア戦略としての枠組みは、2010年代に効果的利他主義運動の中で明確化された。オックスフォード大学の哲学者ウィリアム・マッカスキルは、著書 "Doing Good Better: Effective Altruism and a Radical New Way to Make a Difference” や各種メディア寄稿を通じて、Earning to Give を高インパクトなキャリア選択肢の一つとして紹介した。[7]彼が共同創設した非営利団体「80,000 Hours」は当初、Earning to Give を有力な推奨パスとして位置づけていたが、その後、研究職や政策・アドボカシーなど他のキャリアパスを重視する方向へとメッセージを調整している。[8]

主な内容・特徴

高収入の追求と寄付の組み合わせ
Earning to Give は、高収入を得ることと利他的な寄付を対立させるのではなく、両者を組み合わせることで最大の社会的インパクトを目指す。高収入の職に適性がある人は、非営利組織で直接働くよりも、寄付を通じて複数の組織やプロジェクトを資金面から支える方が、結果としてより多くの便益を生み出し得るとされる。[9]
費用対効果に基づく寄付先の選定
効果的利他主義の枠組みでは、寄付先は疾病負担の削減コストや一人当たりの生活改善効果など、定量的指標に基づいて比較される。GiveWell などの評価機関が推奨するマラリア対策や現金給付プログラムなど、1ドルあたりのインパクトが高いと推定される介入が優先されることが多い。[10]
キャリア資本と柔軟性
Earning to Give を推奨する論者は、高収入職がしばしば高度なスキルやネットワークといった「キャリア資本」をもたらし、将来的に非営利セクターや政策領域に転身する際にも有利に働き得ると指摘する。また、特定の非営利組織に直接就職する場合と異なり、寄付先は状況に応じて柔軟に変更できるため、組織の有効性が低下した場合には他の団体に資金を移すことが可能である。[11]
「Earning to save」との関連
効果的利他主義コミュニティ内では、将来のより大きなインパクトのために資金を投資し、後年あるいは将来世代に向けて寄付する「Earning to save」という変種も議論されている。これは、資本市場のリターンと将来の寄付機会の価値を比較しながら、「寄付のタイミングを最適化」しようとするアプローチである。[12]

実践例

Earning to Give の実践者としては、ソフトウェアエンジニアやクオンツトレーダー、コンサルタントなど、高収入の専門職に就きながら所得の大部分を寄付する個人が報告されている。たとえば、米国のソフトウェアエンジニア、ジェフ・カウフマンとジュリア・ワイズ夫妻は、Google などでの高収入を背景に、十数年にわたり約200万ドルを慈善団体に寄付してきたと公表している。[13]

効果的利他主義コミュニティでは、所得の10%以上の寄付を生涯にわたり継続することを誓約する「Giving What We Can」などのイニシアチブが存在し、その中には Earning to Give を通じて誓約を履行する会員も多いとされる。[14]

評価・批判

Earning to Give は、限られた資源で最大の善をなそうとする試みとして高く評価される一方で、複数の批判も提起されている。

一つの批判は、高収入をもたらす産業の中には、環境問題や金融不安定化など、社会に負の外部性を与え得るものが含まれる点である。そのような産業で働きながら寄付を行うことは、構造的な問題を温存しつつ、その一部を補修するに過ぎないのではないかという疑問が呈されている。[15]

また、Earning to Give が「エリートの自己正当化」に利用される危険性も指摘される。すなわち、特権的な地位や高収入を維持しながら、一定額の寄付を行うことで道徳的責任を果たしたと感じ、より根本的な制度改革や権力構造の変革に向き合わなくなる可能性があるという批判である。[16]

効果的利他主義コミュニティ内部でも、資金よりも人材が不足している「タレント制約型」の分野が増えるにつれ、Earning to Give を最優先のキャリアパスとして推奨することには慎重な見解が示されている。80,000 Hours は、初期には Earning to Give を強く推奨していたが、後には研究・政策・起業など他のパスを重視し、Earning to Give は一部の人にとって有望な選択肢にとどまると位置づけ直している。[17]

他方で、既に特定の職業に就いている人や、キャリア転換の余地が限られている人にとっては、所得の一定割合を寄付することが現実的かつ高インパクトな選択肢であり、その貢献を過小評価すべきではないという擁護も存在する。[18]

関連項目

脚注

外部リンク

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