まな板
包丁で切る際に下に敷く板や台
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概要
まな板は主に包丁使用時に使用されるが、必ずしも世界の様式が単一というわけではなく、中尾佐助は16世紀以前の世界の包丁の分布から、まな板包丁圏、足踏み包丁圏、小型ナイフ圏(手持ち切り圏)、臼杵圏という4つの文化圏に分けている[1]。このうち、まな板の上に材料を置いて包丁を動かして切る文化をもつ地域として、中国、朝鮮半島、日本があり、まな板包丁圏としている[1]。まな板を台所の必需品として常用する文化圏は東アジアで、箸使用文化圏と大体一致している[2]。
一方、インドやその周辺では鎌状の包丁を台に取り付けて足で固定し、内側に向けて固定した刃に材料のほうを押し付けて切ることが行われた(足踏み包丁圏)[1]。また、ヨーロッパや西アジアでは、まな板は必須とはされず、鍋や台の上に材料を直接かざしてナイフで切る作業が行われた(小型ナイフ圏、手持ち切り圏)[1]。さらに西アフリカなどでは食材を切る代わりに臼や杵で砕く方法がとられた(臼杵圏)[1]。
ナイフなどを使用する風習があったヨーロッパとは異なり、東アジアでは食事に箸、匙、碗を使う文化が定着したため、箸や匙でも口に運べるよう食材を小さくする必要があるため、まな板が台所の必需品となったとされる[3]。ヨーロッパの家庭では手持ちで材料をそぎ落とす形が一般的で、まな板は各家庭に定型化したものがあるとは限らず、パン切台やカッティングボードは台所の必需品ではないといわれている[2]。
歴史

紀元前18世紀から11世紀にかけて中国で高い脚をもつ祭祀用俎が確立したとされ、これが後世の調理用俎の一つの規範になったとされる[4]。ただ、祭祀用俎の前に先行する木製の調理器具があったはずで、供え物を置く用具に転換していったという解釈もある[4]。
日本では発掘資料から4世紀後半には下駄の脚に似た長方形の脚付きのまな板が使用されていた[4]。また、13世紀以降の絵画資料の中には4本脚のものも散見されるが、後に桟状の2本脚に変化したとされる[4]。
複数のタイプに系統化されるが、上部は平板形とは別に蒲鉾形と呼ばれるものもあり、1897年(明治30年)の『普通木工教科書』でも上部に丸みがあるものが示されている[4]。しかし、特に調理師の使用する木製まな板のメンテナンスにおいて、木工技術者による簡便な平面の機械切削が行われるようになり大正時代以降徐々に移行した[4]。
名称
素材
まな板の素材として、木製のもののほか、合成ゴムやプラスチックのものがある[8]。自治体によっては、業務用には樹脂または合成ゴム製の使用を定めているところがある[9]。
木製
木製のまな板は調理時に包丁の刃を傷めないといった利点がある[8]。また、木製まな板は表面を切削することができる(ただし、調理師でも自ら鉋で削る習慣はほとんど認められず、他の木工技術者の関与が前提となっている[4])。
江戸時代の文献では『大和本草』には材質までの記述はなく、『和漢三才図会』ではヤナギしか記載されていない[4]。しかし、まな板に使用されてきた木材(伝統材)には、ヤナギのほかにヒノキやイチョウがある[4]。
明治時代の文献では、1897年(明治30年)の『普通木工教科書』でヒノキとモミが挙げられている[4]。1903年(明治36年)刊行の『大日本有用樹木効用編』では、イチョウ、シダレヤナギ、アカヤナギ、ホオノキの4種を挙げている[4]。
1969年 (昭和44年) 刊行の『有用樹木図説』では、明治時代末に移入されたアメリカスズカケノキを含めた10以上の樹種が挙げられている[4]。
プラスチック製
「プラスチックまな板」という場合には、合成ゴム、ポリエチレン、塩化ビニール、酢酸ビニールの4種を含むとされるが[4]、市販品には塩化ビニールと酢酸ビニールのものは見当たらないとされる[4]。また、合成ゴムとプラスチック製として並べている文献もある[8]。本節では主に合成樹脂のポリエチレン製について述べる。
プラスチックまな板は比較的廉価であることから普及が進んだ[4]。また、衛生面でも内部に水分が浸透しないことから、使用後に表面を拭き取ることで乾燥させやすいといった利点もある[4]。
抗菌処理として抗菌剤を素材に練り込んだものや金属イオン抗菌作用を利用したものなどがある[4]。ただし、その実質的な効力は不明確な場合があるという指摘もある[4]。
一方でポリエチレン製のまな板は耐熱性に劣るという短所もある[4]。木製まな板のように簡単に表面を切削することはできないため、薄いポリエチレンを積層して一定期間ごとに剥がしながら使用する積層まな板もあるが主に大量炊事で用いられている[4]。
合成ゴム製
合成ゴムは、プラスチックよりも柔らかく、包丁の刃を当てたときの感触が木製に近い。また、煮沸消毒することができるのが利点である。なお、日本では合成ゴム製のまな板について家庭用品品質表示法の適用対象としており雑貨工業品品質表示規程に定めがある[10]。
形状
衛生・手入れ
野菜、肉、魚など使用区分ごとに、まな板を区別することが衛生管理上は大切と考えられている[8]。
また、木製のまな板は、栄養・水分・温度という細菌の繁殖に適した条件を満たしやすい。水分を含む食品をいきなりまな板に乗せると、食品の水分とともに細菌もまな板へ浸透する[12]。したがって、使用前には必ず濡らして水分を含ませ、食材の汁などが滲み込まないようにしなければならない。
まな板の中に入り込んだ細菌は、まな板を洗浄した後5分から10分ほどで表面に出て汚染をもたらしたり、使用前に水で濡らすことでも中から細菌が出てくる[12]。
まな板の衛生を保つには乾燥させることが重要であるが、木製のものは内部まで乾燥させるには時間がかかるため、完全に乾燥しないうちに再び使用される傾向がある。合成樹脂製のまな板には吸水性がないため、細菌が付着し増殖する危険が少なく、洗浄により水が中まで浸透することがないので乾燥が容易である[13]。
洗浄後十分な乾燥を行えば、まな板の素材が抗菌材料であるか否かは重要な点ではなくなるという研究もある[14][15]。 また、抗菌まな板が抗菌作用を示すのは湿潤状態においてであり、抗菌効果に期待しすぎないようにしなければならない[16]。
言葉
まな板を使った言葉や言い回しには、次のようなものがある。
- まな板の鯉(まな板の上の鯉・俎上の鯉)
- 「俎上(そじょう)の魚」と言われることもある。 土壇場の窮地に立たされても慌てずに泰然としている様子を指す。一説によると、活きたコイはまな板の上に乗せられても暴れないことから覚悟のいい魚とされ、「鯉は魚の侍」とも言われるようになった。または、細かくじたばたすることなく、一度だけ強く跳ねるともいわれる。近年は「抵抗できずにあきらめておとなしくしている様子」を指すときにも用いられている。
- 俎上(そじょう)にのせる
- 話題、議題などに取り上げること。文字通り、そのものをこれから調理するためにまな板の上に置くという比喩。
- 三寸まな板を見ぬく
- 物事の隠された裏側の事実を見抜くこと。またはそのような迫力のある鋭い眼力を持つこと。3寸(約9cm)もある板の向こう側を見るような凄いことであるという大げさな表現。
- まな板に小判一枚初がつお
- 宝井其角の句。江戸っ子にとって初鰹は非常に人気が高く、小判を出さないと買えないくらい値段が高騰したことよりこのような句が作られた。
- 行徳のまな板
- バカでひとずれがしていること。江戸時代の行徳(千葉県市川市)ではアオヤギ(バカガイ)が多く獲れたことから、行徳のまないたは貝剥きに酷使され「バカですれている」の意で、夏目漱石の『吾輩は猫である』にも使用されている。
- かつて1980年代前後には、女性の胸がまな板のように平らで起伏が少ない様子を示す語として、若者を中心に比喩表現として使用されていた。
- 舞台の上で、客や男優と性行為または性行為を模した行為などを行なうストリップショーは違法行為であり、こうしたことから風俗興行の隠語として用いられた。
- パーソナルコンピュータにおいて、マザーボードをケースに入れず水平に露出させて使用する形態の通称。また、その形態を踏襲したPCケースもまな板という場合がある。



