アズラーイール
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アズラーイール(アラビア語:عَزْرَائِيلُ, ʿAzrāʾīl、英語:Azrael)は、ユダヤ教、キリスト教文化圏において聖書ほかに現れる「死の天使」と同一視されている天使の名前で、イスラム教における四大天使の一人「死の天使」がこのアズラーイールに対応しているとも言われる。

アラビア語圏では本項目名であるアズラーイール(アラビア語:عَزْرَائِيلُ, ʿAzrāʾīl)よりもイズラーイール(アラビア語:عِزْرَائِيلُ, ʿIzrāʾīl)と読まれることが広く行われており、次いでアズラーイール、他にはイズリール(アラビア語:عِزْرِيلُ, ʿIzrīl)[1]のようなつづり・発音が見られる場合もある。
また日本語では告死天使との訳語が使われているほか、カタカナ表記としてはアズライール、アズラーイル、アズライル、アズラエル、アズリエル、イズラーイール、イズライール、イズライルなどが用いられている。
ユダヤ教
イスラム教

名前
イスラーム(イスラム教)に関してはアッラーの命を受け主要な役割を分担する天使として
- ジブリール(アラビア語: جِبْرِيلُ, Jibrīl、「ガブリエル」に相当)- その他の名称:ジブラーイール(アラビア語:جِبْرَائِيلُ, Jibrāʾīl)
- ミーカーイール(アラビア語:مِيكَائِيلُ, Mīkāʾīl, 「ミカエル」に相当)- その他の名称:ミーカール(アラビア語:مِيكَالُ, Mīkāl)、ミーカーイーン(アラビア語:مِيكَائِينُ, Mīkāʾīn)
- イスラーフィール(アラビア語:إسرافيل, Isrāfīl、英字表記:Israfil、Israfel)- その他の名称:イスラーフィーン(アラビア語:إسرافين, Isrāfīn)
- 「死の天使」(アラビア語:مَلَك الْمَوْتِ, malak al-mawt(ないしはal-maut), マラク・アル=マウト)
が存在。
学者による解釈
この死の天使(マラク・アル=マウト)がイズラーイール(アズラーイール)だとされている。クルアーン(コーラン)や預言者言行録(ハディース)に名前は明記されていないが、多くのクルアーンの注釈者たちは、死の天使の名前はアズラーイールであると述べており、ファフル・アッディーン・アッ・ラーズィーは彼の注釈書の中で、「ハバル(伝承)によって、アズラーイールが死の天使であることが確立されている」と述べている[6]。また、アル=バガウィーは彼の注釈書(クルアーン第32章第11節の解釈)の中で、「死の天使とは、あなたたちの魂を掌握することを委任された者、すなわちアズラーイールである」と述べた[7]。アブー・ハイヤーンもその注釈書『アル=バフル・アル=ムヒート』の中で、また、アッ=スユーティーも『サヒーフ・ムスリム』の注釈書などでこれを述べ、その他にも多くの学者が同様に述べている。
一方、イブン・カスィールは、「死の天使については、クルアーンにも真正なハディースにもその名前は明示されていないが、一部のアサール(أثر athar, 教友や後の時代の後継者の言行)ではアズラーイールという名前で呼ばれている」と述べている。スィンディーは、「彼の名前を特定する預言者に遡る伝承はない」と述べ、マナーウィーも『ファイド・アル=カディール』の中で、「その名(アズラーイール)で呼ばれている伝承には行き当たっていない」と述べている。
アル=アルバニーは、「クルアーンにおける彼の名前は『死の天使』であり、人々によく知られている『アズラーイール』という名前については根拠がなく、イスラーイーリーヤート(ユダヤ・キリスト教からの伝承)に由来するものだ」と述べている[8]。
「ユダヤ教に影響を受けたものであり根拠に欠ける」「イスラームにおいて死の天使がイズラーイール(アズラーイール)という名前であるとは確定はできない」とするイスラーム法学者もいる[9]。
外見・姿
預言者言行録(ハディース)やクルアーン(コーラン)注釈・学者ほかの論考において死の天使の外見・姿が論じられており、他の大天使らと同様、極めて大きな体と恐ろしい外見を持つとされる。
イスラーム法学者らは絵画としての天使らの具体的な描写は宗教的に認められないとしている[10]が、実際には複数の想像図が描かれ細密画などの形で残されている。
なお西洋で発展した死の天使のイメージからイスラーム(イスラム教)における死の天使についても鎌を持ち黒いフードつきクロークを着ている姿と結びつけられることもあるが、イスラーム側の資料ではそのような描写は見られない。
クルアーンにおける記述
第32章『跪拝(アッ=サジュダ)』第11節
イスラーム(イスラム教)の聖典クルアーン(コーラン)では第32章『跪拝(アッ=サジュダ[11])』第11節[12]において「死の天使」が登場する。
قُلْ يَتَوَفَّىٰكُم مَّلَكُ ٱلْمَوْتِ ٱلَّذِى وُكِّلَ بِكُمْ ثُمَّ إِلَىٰ رَبِّكُمْ تُرْجَعُونَ
- 【三田了一訳】言ってやるがいい。「あなたがたを受け持つ死の天使があなたがたを死なせ,それから主に帰らせる。」
- 【サイード佐藤訳】(使徒よ、)言ってやるがいい。「あなた方を任された死の天使が、あなた方(の魂)を召すのだ。それからあなた方の主の御許にこそ、あなた方は戻らされ(て、行いの清算を受け)る」。
第6章『家畜(アル=アンアーム)』第61~62節
「死の天使」という名は挙げていないものの、第6章『家畜(アル=アンアーム)』第61~62節[13]では死の天使の役割について言及されている。
وَهُوَ ٱلْقَاهِرُ فَوْقَ عِبَادِهِۦ ۖ وَيُرْسِلُ عَلَيْكُمْ حَفَظَةً حَتَّىٰٓ إِذَا جَآءَ أَحَدَكُمُ ٱلْمَوْتُ تَوَفَّتْهُ رُسُلُنَا وَهُمْ لَا يُفَرِّطُونَ
- 【三田了一訳】かれは,しもべたちの上に権能をもつ方であられ,あなたがたに保護者(の天使)を遣される。死があなたがたの1人に臨む時,われが遣したもの(天使)たちは,それ(魂)を取り上げ る。かれら(天使たち)は,(わが命令に)怠慢ではない。
- 【サイード佐藤訳】また、かれはその僕たちの上に君臨されるお方であり、あなた方に記録者たちを遣わされる。やがてあなた方の誰かに死が訪れれば、われらの使いたちは抜かりなく、彼(の魂)を召すのだ。
ثُمَّ رُدُّوٓا۟ إِلَى ٱللَّهِ مَوْلَىٰهُمُ ٱلْحَقِّ ۚ أَلَا لَهُ ٱلْحُكْمُ وَهُوَ أَسْرَعُ ٱلْحَـٰسِبِينَ
- 【三田了一訳】それからかれらは,真の主,アッラーに戻される。裁決はかれがなされるのではないか。かれは清算する際は極めて速い御方であられる。」
- 【サイード佐藤訳】それから彼らは、自分たちの真の庇護者であるアッラーの御許へと戻される。(その日の)裁決は、かれのみに属するのではないか。かれは、最も早く計算されるお方である。
死の天使の役割と被造物の死
魂の抜き取りと回収
死は人間・ジン・天使・動物などあらゆるものに例外無く訪れ、死の天使の主な役割はそれらが死を迎える際に魂をつかむ作業となっている。
イスラームにおいて、人が死ぬ際には体から抜けようとする魂は喉のところまで来たり口から出たりするとされており、唯一神アッラーの命に従い死の天使が臨終を迎えた者の魂をつかみ回収する[14]。
信仰者の死
善行を積んだイスラームの信仰者らに対しては良い扱いがなされ、天国に迎え入れられることが第16章『蜜蜂(アン=ナフル)』第32節[15]において示されている。
ٱلَّذِينَ تَتَوَفَّىٰهُمُ ٱلْمَلَـٰٓئِكَةُ طَيِّبِينَ ۙ يَقُولُونَ سَلَـٰمٌ عَلَيْكُمُ ٱدْخُلُوا۟ ٱلْجَنَّةَ بِمَا كُنتُمْ تَعْمَلُونَ
- 【三田了一訳】天使たちが清い(状態)で,死なせる者に,「あなたがたに平安あれ。あなたがたは自分の行った(善行の)結果,楽園に入れ。」と言われよう。
- 【サイード佐藤訳】(彼らはその魂が)善い状態のまま、天使たちに召される者たち。彼ら(天使たち)は言う。「あなた方に平安を。あなた方が(現世で)行っていたものゆえに、天国に入るがよい」。
また死の様子については預言者言行録(ハディース)で詳しく伝えられており、信仰者と不信仰者との違いが示されるなどしている。
信仰者の元へは、太陽のごとく白く輝く美しき顔をした天使たちが経帷子(死装束、遺体を包む布)や遺体処理に用いる香を携え天国から舞い降り死を迎える者の近くに座る。そして死の天使がやって来てその者の頭のそばに座り「善き魂よ、アッラーのお赦しと御満悦を受けるべく外に出てくるのだ。」と声をかけると、その呼びかけに応じて体から魂が出てくる。
死の天使が魂をつかみ取ると、すぐさま天使たちが持っていた経帷子に入れられ香をかけられ天へと連れて行く。善き魂からはまるで最上級の麝香(ムスク)のような芳しい香りが漂い、天へと昇っていく。
天では神の近くにいる天使らに歓迎された後、最上階層である第七天に到達。唯一神アッラーは死者について善人を記録する書(善行録、イッリーユーン)へ書き入れるよう命じた後、魂を元の場所に戻させ、再び呼び戻す時まで待機させる。魂が再び戻されると二人の天使(ムンカルとナキール)が死者に問い、アッラーを信仰していること、宗教がイスラームであること、預言者ムハンマドとクルアーン(コーラン)の教えに従う者であったことなどが確かめられる。すると天から「彼は真実を述べた」との声が聞こえてきて、ゆったりとした墓での安楽を約束され[14][16][17]復活の日そして最後の審判の時を待つという[18]。
不信仰者の死
不信仰者の魂の回収に関してはクルアーン(コーラン)第8章『戦利品(アル=アンファール)』第50節[19]に言及があり、
وَلَوْ تَرَىٰٓ إِذْ يَتَوَفَّى ٱلَّذِينَ كَفَرُوا۟ ۙ ٱلْمَلَـٰٓئِكَةُ يَضْرِبُونَ وُجُوهَهُمْ وَأَدْبَـٰرَهُمْ وَذُوقُوا۟ عَذَابَ ٱلْحَرِيقِ
- 【三田了一訳】あなた(ムハンマド)はもし天使たちが不信心な者たちの(死に際し)魂を取る時,その顔や背中を(如何に)打つかを見るならば(どうであろう)。(その時天使たちは言うであろう。)「火炙りの懲罰を味わえ。
- 【サイード佐藤訳】天使たちがその顔や背中を殴りつけつつ、不信仰だった者たち(の魂)を取り上げる時のことを、あなたが見るのならば!(彼らは、こう言う。)「(焼き尽くす)炎の懲罰を味わうのだ」。
魂の回収を助ける複数の天使たちがイスラームを受け入れず敵対したり悪行を重ねたりした不信仰者たちの顔や背中を殴打し魂を抜き取り、神罰を受けさせるために連れて行こうとしている様子が描写されている。
また預言者言行録(ハディース)を通じ、イスラーム教徒(イスラム教徒、ムスリム)以外の不信仰者(異教徒)の死についてもあわせて詳細が伝えられている。
不信仰者が臨終の時を迎えると、黒い顔をした荒々しく厳しい天使たちが粗布を携え天から下りてきてその者の近くに座る。そして死の天使がやって来てその者の頭のそばに座り「悪しき魂よ。アッラーの怒りを受けるべく外に出てくるのだ。」と声をかける。しかしながら不信仰者の魂は体の中に散ってしまい出てこないため、強引に引きずり出し粗布の中に押し込める。魂からはこの上なくひどい悪臭が漂い、天に連れて行かれても最下層の天の門すら開かれず迎え入れられることは無い。
唯一神アッラーが死者について地の最下層・地獄の不信仰者・悪人記録書(スィッジーン)へ書き入れるよう命じた後、魂は放り投げられる。そしてその魂が地上の体に戻されると二人の天使(ムンカルとナキール)が尋問に訪れるが、死者は自分が信仰する宗教・預言者などを答えることができず、天からは「その者は嘘を述べた」という声がもたらされる。そして体が押しつぶされるほどに狭い墓穴の中で火獄から送られる熱風に苦しむという罰を受けながら[14][16][17]、復活の日そして最後の審判の時を待つという[18]。
天使の死と復活
また天使についても各種裏付けや学者らの合意により、アッラー以外は全て不死の存在ではなく人間やその他生物そしてジンなどと同様に死の天使が魂を抜き取ることで死を迎えると考えられている。しかしながら自らが魂を回収する役割を負う死の天使だけは一番最後に死ぬ存在として異なる手順で死亡し、アッラーが望み死を命じた時に自ずと死亡すると一般的には考えられている[20][21][22]。
死の天使を含む四天使(四大天使)死亡の詳細については真正の典拠が揃っていないことからその具体的な様子は教義として定まっておらず[23][24]、イスラーム側の言説として複数出回っている詳細な叙述のうち後代に創作された偽ハディースであると判定されたもの[25]も少なくないという。
天使の死や最後の審判の後の再生の具体的な過程についてはクルアーン(コーラン)や預言者言行録(ハディース)で詳細に述べられてはいないため不確かであるが、最後の審判を経て善行を積んだ者たちが天国に入れられた後の様子に関するクルアーン(コーラン)などにおける記述では天国の楽園において天使たちが生きた状態で過ごしていることが確認できる[21]。