ノーテーションは『行列による記法』と同じ、つまり
『表面の結晶軸』を
『理想表面の結晶軸』を
と書くことにしよう。結晶軸の定義から言うまでもないが、結晶軸は、理想表面、実表面それぞれのブラベー格子に対応して、標準的に定められたルールに従って選ぶものとする。
一次変換のうち最も直感的に分かりやすいものは『引き伸ばし』(相似拡大)と『回転』[6]である。
表面の現実の構造が『相似拡大』と『回転』のみでかかれる場合には、その操作(一次変換)
をあらわす行列を書くよりも『どの方向にどれだけ引き伸ばし』、『何度回転させたか』
を直接的に説明したほうが分かりやすい。
そこで、先の結晶軸の変換が、『相似拡大』と『回転』の組み合わせのみで
書ける場合には、以下に説明するウッドの記法[2][3][4]で表記する。逆に言うとウッドの記法によって表記できるのは、『相似拡大』と『回転』の組み合わせのみで書ける場合のみある。参考までに『相似拡大』と『回転』の組み合わせのみで
書けるためには、
でなければならない。(argは、偏角を表す。)
相似拡大のみの場合,つまり
(3)
の場合をウッドの記法に基づいて表すと、『
構造』となる。ウッドの記法に基づく表面
構造の表記自体は、表面の命名法としてそのまま使われ、
『
構造をとる表面』を、『
表面』と名づける。
具体的な記法は、『物質名、ミラー指数、ウッドの記法によるインデックス』の順になる。つまり物質名が『A』でその『(klm)』面の再構成表面の構造が、『
構造』(ウッドの記法によるインデックス)であるときには『
表面』と書く。例えばSi結晶の(111)面は、清浄な場合、つまり吸着物が何もついていない場合には、
構造を取る。この表面は、『
表面』と名づけられる。
相似拡大のみの一次変換は、対角行列で表すことが出来る。従って、この表面の構造、つまり、ウッドの記法に基づいて、『
構造』と表記される構造を、『行列による表記法』で表すと、『
構造』となる。
相似拡大と回転の組み合わせで表される場合,つまり
(4)
であるときには、『
構造』と表記するのが(ウッドの記法では)正式である。ただし、慣例的に
の部分を省略し、単に『
構造』と書くケースが多い。
参考までに上記“(4)”式の“iii)”が成立するには、暗に、
が成立していなければならない。
ウッドの記法を用いる際にはセンタリング(c)、プリミティブ(p)を表す記号どちらか一方を入れることが出来る[3][4]。
実表面、理想表面が共に二次元結晶で、その格子が共に面心長方格子(結晶軸を、『ユニットセルがセンタリング(面心点)を持つ』ように取る)[3][4][5]のときには、『A(klm)-c(m×n)-Rθ°』のように(m×n)の前にセンタリングを意味するcを書く。このcは例によって省略されることがある。
なお、結晶軸とは結晶あるいは格子内の標準的な座標系のことである。全ての格子に対して(全てのブラベー格子毎に)どのように結晶軸を取るかが決められている(3次元、2次元共に)。[5]したがって全ての結晶に対してどのように結晶軸を取るかが決められている。結晶軸は、3次元結晶の場合3本の一次独立な格子ベクトルベクトルの組、2次元の場合は2本の一次独立な格子ベクトルベクトルの組である。ただし、それが基本並進ベクトルであるとは限らない。その理由は回転対称性に対する配慮などからである。ただし、2次元結晶の場合は、面心長方格子を除き、結晶軸は基本並進ベクトルのひとつである。
一方、実表面、理想表面の格子が共に『面心長方格子以外』の場合は、(結晶軸を基本並進ベクトルでとる。別の(同値な)言い方をすればユニットセルがプリミティブセルとなるように取るので)『A(klm)-p(m×n)-Rθ°』のように(m×n)の前にプリミティブを意味するpを書く。このpは書かないことのほうが多い。たとえばSi(111)-(7×7)は、本来Si(111)-p(7×7)と書くべきだが普通は単にSi(111)-(7×7)と書く。
仮に実表面がの格子が面心長方格子だったとして、理想表面の格子がそうであるとは限らない。しかし、ウッドの記法を用いて実表面の構造が記述できるためには、『実表面の格子が面心長方格子であるならば理想表面の格子も面心長方格子』でなければならず、逆に『理想表面の格子が面心長方格子であるならば実表面の格子も面心長方格子』でなければならない。これは、ウッドの記法が、『実表面の結晶軸が、理想表面の結晶軸を相似拡大、回転だけで書ける』場合にしか使えないことによる。ただし、Ge(111)-c(2×8)表面のように、本来のルールを破った記法が定着している場合もある。
この指摘と同様に、ウッドの記法が、『実表面の結晶軸が、理想表面の結晶軸を相似拡大、回転だけで書ける』場合にしか使えないことから、
- 『実表面、理想表面が共に二次元結晶で、その格子が共に面心長方格子』
- 実表面、理想表面の格子が共に『面心長方格子以外』の場合
のどちらにも属さないケースでは、ウッドの記法が使えない。尤も『実表面、理想表面の格子が共に『面心長方格子以外』』としても、理想表面、実表面の格子の構造が異なれば使用不可能である。ただし、Ge(111)-c(2×8)表面のように、本来のルールを破った記法が定着している場合もある。