オッフェンバッハ市内における初の路面電車は、1884年に開通した、オッフェンバッハのマティルデン広場(Mathildenplatz)とフランクフルトのドイチュヘルン埠頭(Deutschherrn-Quai)を結ぶ、フランクフルト-オッフェンバッハ路面鉄道会社(ドイツ語版)(Frankfurt-Offenbacher Trambahn-Gesellschaft、FOTG)の路線であった。ドイツでも最初期の電気鉄道として開通したこの路線は、軌間1,000 mm(メーターゲージ)で、架空電車線方式による電化が行われていた。開通初日に架線が故障した事を始め、脱線や集電装置の架線から外れる事態など、トラブルが相次いだ他、乗り心地についても難があり乗客からは「骨挽き機(Knochenmiehl)」とも呼ばれたものの、運行面では成功をおさめ、初年度だけで利用客は100万人以上を記録した[1][2][3][4]。
その後、1905年8月にオッフェンバッハ市はFOTGが所有していた路線のうちオッフェンバッハ市内の線路や施設を買収する認可を受け、翌1906年の実施後は軌間の1,435 mm(標準軌)への改軌が行われた。更に1907年にはビュルゲル(Bürgel)へ向かう新規区間が開通し、以降も新規区間の拡張が積極的に進められた。一方、FOTG時代に実施されていたフランクフルトとオッフェンバッハの直通運転については、途中で平面交差が行われていた鉄道路線を横断する認可が下りず、乗り換えが必要となっていたが、1910年に高架橋が完成した事で再度直通運転が行われるようになった[1][2][3][4]。
改軌・公営化後初期のオッフェンバッハ市電(
1907年撮影)
1910年代のオッフェンバッハ市電の電車(
1914年撮影)
博物館に保存されているオッフェンバッハ市電の電車
第二次世界大戦中の1943年にも市内中心部の連絡線が開通したが、燃料統制の影響で路面電車は多数の利用客で溢れかえる事態となった。また、路面電車の路線網は物資輸送にも活用されるようになり、フランクフルトとの間にパンや生鮮食品を輸送する貨物列車が運行された。しかし、1944年の空襲により路面電車網は破壊され、復興は終戦後の1945年以降となった[1]。
大戦後に復旧が行われた路面電車の路線網は1949年に新規路線が開通し、総延長は9.7 kmに達した。だが、同時期のオッフェンバッハでは安価かつ近代的な公共通機関としてトロリーバスを導入する事となり、1951年7月に最初の路線が開通したのを皮切りに路線網を広げていった[注釈 1]。それを受け、開通に先駆ける形で同年6月に路線の大部分が廃止された。その後、1963年にも路線バスによって27号線が置き換えられた事により、オッフェンバッハ市が独自に運営する路面電車路線は全て廃止された[1][4]。
一方、フランクフルトとの直通運転が行われていた16号線についてはその後も運行が行われたが、1967年までにオッフェンバッハ市が所有する路面電車車両は姿を消し[注釈 2]、その後はフランクフルト市電の車両が乗り入れする形になった。更に1969年にはマルクト広場(Marktplatz)- 墓地(Friedhof)間が廃止されたが、その影響で片運転台車両用のループ線を設置する用地が無くなり、以降オッフェンバッハ方面に使用される路面電車車両は両運転台車両に限定される事となった[3][4]。
その後、この残存区間のみが運行する状況が長く続いたが、フランクフルト通りに店を構える小売業者や商工会議所(ドイツ語版)はこの路面電車路線が交通の支障になり店舗の売り上げに悪影響を及ぼすと見做し、1989年以降歩行者専用区域からの軌道撤去の要望を行うようになった。更に1995年、オッフェンバッハ市内にライン=マインSバーンの地下区間(シティトンネル(ドイツ語版))が開通し、市内中心部とフランクフルトを結ぶ経路が完成した。これを受け、1996年6月1日をもって16号線のオッフェンバッハ市内の区間が廃止され、終点は市境にあるオッフェンバッハ市域(Offenbach Stadtgrenze)まで短縮した。以降、この廃止区間の軌道や施設は早期に撤去されたが、フランクフルター通りの線路については2006年まで残存した[2][4]。
現在の終点であるオッフェンバッハ市域電停(
2006年撮影)
オッフェンバッハ市内に残る廃線跡(
2012年撮影)
1996年の廃止以降、オッフェンバッハでは路面電車の再整備を求める声が相次いでおり、その中には廃止の影響で売り上げが減少したオッフェンバッハの小売業者も含まれている。それを受ける形で、路面電車網の復活は何度か議論の対象に上げられており、2021年3月にもオッフェンバッハの中心部や中央駅(ドイツ語版)、ブンゲル地区の交通機関の整備の一環として、オッフェンバッハ市とフランクフルト市は16号線の延伸や新規路線の敷設に関する共同実現可能性調査に合意している[2][4]。