コレイアが初めてサッド・パピーズの活動を開始したのは2013年、自著の一つMonster Hunter Legionが同年のヒューゴー賞 長編小説部門の候補になりうる、と自身のブログ上で述べた時だった[13]。「サッド・パピーズ」という名は、サラ・マクラクランの登場する
動物虐待防止協会(英語版)(SPCA)広告に由来するもので、子犬の不幸な様子(puppy sadness)は「退屈なメッセージ小説賞受賞」が要因である、という冗談である[14]。この活動は主に自著Monster Hunter Legionをノミネートさせようとするものだった。
この一回目の活動は失敗した[15]。Monster Hunter Legionへの推薦は101票で、本投票候補へは17票足りずに落選した[16]。
二回目の活動は2014年1月に開始された。2014年の推薦12作のうち、コレイアの著作Warboundを含む7作が7部門で本投票に残った[17]。
推薦7作のうち最下位にならなかったのは編集者部門のトニ・ワイスコフ(英語版)だけである。コレイアのWarboundは5位(最下位)に終わった。ノミネート作品のひとつである短編小説"Opera Vita Aeterna"は、同部門の「受賞なし」よりも下である5作中6位となった[18][19]。
三回目の活動はブラッド・R・トージャーセンが引き継ぎ、2015年2月1日に推薦リストを発表した[20]。トージャーセンは、より文学的な作品や革新的な政治テーマを含む物語をより支持するヒューゴー賞有権者によって人気作品がしばしば不当に見過ごされている、と主張した[21][22]。推薦リストに記載された候補者は主に男性だったが[23]、女性候補や様々な人種背景の候補者も含まれていた[24]。
第二の推薦リスト「ラビッド・パピーズ」が、その翌日にヴォックス・デイ("Opera Vita Aeterna"の著者)より発表され、これはサッド・パピーズの推薦リストから大半の作品を借用しつつも作品を追加し、似ているものの完全重複ではないリストとなっていた。サッド・パピーズの推薦リストはあくまで「推奨」として挙げられているものだったが、デイのほうは自分の支持者にこの推薦リストを「正確にそのまま」ノミネートするよう明示していた[25]。
両者が推進するよく似た組織票が、投票の多くを占めた[26][25]。ラビッド・パピーズの推薦リストは、推薦作68のうち58作を最終候補とすることに成功した。このうち2作品はデイの自著で、11作品は彼が編集長を務めるフィンランドの零細出版社Castalia Houseから出版された作品だった[25]。
この活動がファンや作家の間で論争を引き起こし[26][27]、少なくとも6人の推薦候補者は最終候補作が公開された後ノミネートを辞退した[28][29][30][31]。多くの人々が「受賞なし」投票を呼びかけ[32]、複数部門のヒューゴー賞を獲得したコニー・ウィリスは同賞の授与を辞退してしまった[33]。
Tor Books(主にSF・ファンタジーを手掛けるニューヨーク拠点の出版社)のアイリーン・ガロは、自身の個人的なFacebookページで、サッド・パピーズおよびラビッド・パピーズをそれぞれ「悔い改めない人種差別主義者、女性差別者、同性愛者」[34]および「ネオナチに至る極右翼」だと記した[35]。ただし彼女は、これがTor Books公式の立場ではないことを言明した[36]。
様々なメディアが、両陣営を女性と非白人の作家および登場人物を優先する「アファーマティブ・アクションな賞」に反対する「ニッチで学術的であからさま(に左翼的)な」候補者と受賞者への反発だと論じた[26][32][4]。推薦リストは「白人男性の団体」[37]による「右翼」[26]で「組織化されたバックラッシュ」[38]だと評され、ゲーマーゲート集団嫌がらせ事件との繋がりや類似性を指摘された[25][39][40]。ジョージ・R・R・マーティンはこの論争を「パピーゲート(Puppygate)」と呼んだ[28]。ラビッド・パピーズ派についてはオルタナ右翼政治活動の会員または心酔者だと説明されている[41]。活動を支持した保守系記者デビッド・フレンチは、この否定的な反応を「左翼」「中傷」だと評した[42]。
全体で、サッド・パピーズの推薦60作のうち51作およびラビッド・パピーズ推薦67作のうち58作が本投票に残った。5部門(関連書籍部門 、短編小説部門、中長編小説部門、短編編集者部門、長編編集者部門)については、ノミネートの全てがパピーズの推薦作で占められた[43]。
パピーズの推薦候補が独占した部門は、全員が受賞なしよりも下の順位となったため、ヒューゴー賞は授与されなかった。長編映像部門を除く他の全部門(ファンライター、ファンキャスト、ファンジン、セミプロジン、プロアーティスト、グラフィックストーリー、中編小説、長編小説の部門)で全てのパピーズ推薦作が受賞なしより下の順位となった。これはジョン・W・キャンベル新人賞(現:アスタウンディング新人賞)でも同様だった。パピーズ推薦作リストに出ていた唯一の受賞作は『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー (映画)』だった[44]。
2015年3月、文筆家のケイト・ポールクが四回目のサッド・パピーズ活動を実施するつもりだと発表した[45]。再び、ヴォックス・デイがラビッド・パピーズの改変リストをまとめた[46]。
両リストに推奨された作家の数名(中編小説"Slow Bullets"のアレステア・レナルズなど)が削除を要求したが、削除されなかった[47]。
2016年4月に最終候補作が発表され、両団体のリストに登場していた複数の候補が含まれていたが、前年よりも数は減った[47]。ラビッド・パピーズ候補81作のうち 64作品が最終候補作リストに残った。サッド・パピーズ4回目のリストにおいて選出プロセスの変更があったことと、両リストに一般に人気の作品が数多く重複掲載されているため、最終候補作となった(ニール・ゲイマンやニール・スティーヴンスンなどの)作品の多くについてはパピーズのリストの効果だった可能性は低い、とジョン・スコルジーはロサンゼルス・タイムズ紙で述べた[48]。
最終候補としては、長編小説部門の3作品がサッド・パピーズの推薦リストに記載されたもので、中長編小説部門は5作品全て、中編小説部門で3作品、短編小説部門で3作品、ファンライター部門で2名、長編映像部門で4作品が残った[49]。
本投票では、サッド・パピーズ推薦リストの掲載作品が中長編小説(ネディ・オコラフォ(英語版))、中編小説(郝景芳)、短編小説(ナオミ・クリッツァー(英語版))の各部門で受賞した[50]。ラビッド・パピーズの候補リスト作品は中編小説部門のみ受賞となった。ガーディアン紙はこの結果をラビッド・パピーズおよびサッド・パピーズの敗北と評した。2部門(ファンキャストと関連書籍)で「受賞なし」の結果となり、その他の受賞者はパピーズ推薦リストに掲載されなかったものや、パピーズ団体と無関係な人々であると考えられた[51]。
「組織票」の効力を減らすため、2017年からヒューゴー賞選考プロセスの変更が実施された[52]。
2017年のヒューゴー賞では、作家サラ・ホイット(英語版)がサッド・パピーズ5回目の活動を行うと告知して、推薦リストを近々に発表すると述べたが、そうした活動は実施されなかった。