ジェレミー・ウォルドロン
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ジェレミー・ウォルドロン(Jeremy Waldron, 1953- ) は、ニュージーランド出身の法哲学者。ニューヨーク大学ロースクール教授。かつてはオックスフォード大学オール・ソウルズ・カレッジで社会・政治理論担当のチチェレ教授を務めた。[1][2]
生い立ちと学歴
ウォルドロンはサウスランド・ボーイズ・ハイスクールを経てニュージーランドのオタゴ大学に進学し、1974年に文学士号(B.A.)、1978年に法学士号(LL.B.)を取得した。その後、オックスフォード大学リンカーン・カレッジにて、法哲学者のロナルド・ドウォーキンおよび政治理論家のアラン・ライアンの指導のもとで研究し、1986年に博士号(D.Phil.)を取得した。[3]
キャリア
オタゴ大学(1975–78年)、オックスフォード大学リンカーン・カレッジ(1980–82年)、エディンバラ大学(1983–87年)、カリフォルニア大学バークレー校ロースクールの法理学・社会政策プログラム(1986–96年)、プリンストン大学(1996–97年)、コロンビア大学ロースクール(1997–2006年)で法哲学・政治哲学を講じた。また、コーネル大学(1989–90年)、オタゴ大学(1991–92年)、コロンビア大学(1995年)では客員教授も務めた。現在はニューヨーク大学にて、「法の支配」「法哲学」を教えるほか、財産権や人間の尊厳に関するセミナーを担当している。また、ロナルド・ドウォーキンとトマス・ネーゲルが1987年に創設した「法・社会・政治哲学コロキウム」を定期的に開催している(同コロキウムは現在、リアム・マーフィー、サミュエル・シェフラー、そしてウォルドロンによって運営されている)。[4]
ウォルドロンは、1996年にケンブリッジ大学でシーリー・レクチャー(第2期)、1999年にオックスフォード大学でカーライル・レクチャー、2000年春にコロンビア大学ロースクールでユニバーシティ・レクチャー、2004年にスタンフォード大学でウェッソン・レクチャー、2007年にイェール大学ロースクールでストーアズ・レクチャー、そして2015年にエディンバラ大学でギフォード・レクチャーを行った。1998年にはアメリカ芸術科学アカデミーの会員に選出された。2005年には、母校のオタゴ大学から名誉博士号を授与された。2015年にはアメリカ哲学協会の会員に選出された。2019年にはオタゴ大学にウォルドロンの名を冠した法哲学の教授職が設置された。[5]
法哲学
ウォルドロンはリベラルであり、規範的法実証主義者である。私有財産の分析とその正当化、ジョン・ロックの政治・法哲学について広範な著作を残している。立法に対する司法審査、テロ犯罪の被疑者に対する拷問に反対しており、いずれも民主主義の原理と相容れないものだとしている。また、ヘイトスピーチはアメリカ合衆国憲法修正第1条(表現の自由)による保護の対象とすべきではないという立場をとる[6]。さらに、分析的な法哲学が政治理論の扱う諸問題に取り組んでこなかったことを批判している。
最近の著作では、人間の尊厳に関する非宗教的・非カント的な概念の提示に注力しており、そこでウォルドロンは、すべての人間の地位を貴族のような高い身分にまで引き上げることによって単一の身分やカーストを構成する思考実験を用いた。2009年にこのテーマでターナー・レクチャー(Tanner Lectures)を行って以来この課題に取り組んでおり、その講義内容は2012年にDignity, Rank and Rights(尊厳・地位・権利)として出版された。[7]
司法審査批判
ジェレミー・ウォルドロンとブルース・アッカマンはたびたび「民主主義の基本原理と司法審査の両立可能性」に対する主要な批判者として挙げられる[8]。民主的な立法の原理の断固たる擁護者であるウォルドロンは、「司法審査に対する批判の核心(The Core of the Case against Judicial Review)」と題された論文で、強固な民主的統治体制における司法審査の役割は限定的なものであるべきだと論じた[9]。ウォルドロンは、以下の4条件が満たされるならば、権利の保護において司法が立法府よりも本質的に優れているということはないと主張する。
(1) 適切な政治参加の権利と手続きを備えた、おおむね民主的な政治体制が存在すること
(2) 世論の圧力からある程度独立し、司法審査を行う司法制度が存在すること
(3) 権利に対する一般的なコミットメントが存在すること
(4) 権利の内容や範囲について意見の不一致が存在すること
ウォルドロンは司法審査の存在そのものを全否定しているわけではない。民主主義の制度的な機能不全が生じている場合には、司法審査が適切であり得ると認めている。その場合、民主主義と両立するものとしての司法審査の根拠は、あくまで機能不全に対する是正措置としての役割に限られるものであり、無制限でも普遍的でもない。ウォルドロンは自身の司法審査に関するこうした見解を、ハーラン・フィスク・ストーン判事の系譜に位置づけている。[10]
司法ミニマリズムへの賛同
ウォルドロンは、公法学者キャス・サンスティーンの2015年の著書への書評で、法解釈において「英雄的」ともいえる姿勢をとる裁判官と、判断を控える裁判官という両極端なあり方の間において、自身は「司法ミニマリズム」といえる立場に共感すると述べている。ウォルドロンは、こうした判事の例として、サンドラ・デイ・オコナー、ルース・ギンズバーグ、フェリックス・フランクファーターの名を挙げた。[11]
著作
- Theories of Rights, edited vol., 1984.
- The Right to Private Property, 1988.
- Nonsense Upon Stilts: Bentham, Burke and Marx on the Rights of Man, edited vol., 1988
- The Law: Theory and Practice in British Politics, 1990.
- Liberal Rights: Collected Papers 1981–91, 1993.
- The Dignity of Legislation, Seeley Lectures, 1999(長谷部恭男=愛敬浩二=谷口功一訳『立法の復権:議会主義の政治哲学』岩波書店、2003年).
- Law and Disagreement, 1999.
- God, Locke and Equality, 2002.
- Torture, Terror, and Trade-Offs: Philosophy for the White House, 2010.
- The Harm in Hate Speech, Oliver Wendell Holmes Lectures, 2012(谷澤正嗣=川岸令和訳『ヘイトスピーチという危害』みすず書房、2015年).
- "Partly Laws Common To All Mankind": Foreign Law in American Courts, 2012
- The Rule of Law and the Measure of Property, Hamlyn Lectures, 2012
- Dignity, Rank and Rights (Meir Dan Cohen: editor), Oxford University Press, 2012
- Political Political Theory, Harvard University Press, 2016
- One Another's Equals: The Basis of Human Equality, Harvard University Press, 2017
- Thoughtfulness and the Rule of Law, Harvard University Press, 2023