ジチオカルボン酸

From Wikipedia, the free encyclopedia

ジチオカルボン酸の一般構造式

ジチオカルボン酸(ジチオカルボンさん、dithiocarboxylic acid)は有機硫黄化合物の一種で、カルボン酸 RC(=O)OH の酸素原子2個をともに硫黄原子で置き換えた構造 RC(=S)SH を持つ化合物である。ここでRは炭素置換基、あるいは有機基を示す。Rがアミノ基のものはジチオカルバマート、ヒドロキシ基やアルコキシ基などのものはキサントゲン酸である。SH基であるものはトリチオ炭酸である。一方、カルボン酸の酸素原子を1個だけ置き換えたものは、チオカルボン酸 RC(=O)SH もしくはチオノカルボン酸 RC(=S)OH である。

ジチオカルボン酸自体はあまり安定な化合物ではないが、そのエステルであるジチオカルボン酸エステル RC(=S)SR' や金属塩(ジチオカルボキシラート)は比較的安定である。

ハロゲン化炭化水素から

最初に合成されたのは1866年のことで、フライシャー (Fleischer) によるハロゲン化アルキルと水硫化カリウム KSH を用いたものであった[1]。ジチオカルボン酸は不安定であるため取り扱いづらいなどの理由から、すぐにその化学が大きく発展することはなかった。その後、いくつかの合成法が開発されている。反応条件上まずジチオカルボキシラート塩が生成し、これを酸で中和すると遊離のジチオカルボン酸が得られる。

R−C(=S)SM + H+ R−C(=S)SH + M+

メチル基の水素原子がハロゲン X = Cl, Br で置き換えられた化合物を硫黄源と反応させると、ジチオカルボン酸が生成する。ハロゲン元素が1個、2個、3個の前駆体について合成法が知られている。硫黄源としては単体硫黄 S8 か、硫化水素 H2S のアルカリ金属塩 MSH、M2S などが用いられる。置換基 R は主にフェニル基などの芳香族置換基である。

ハロゲンが1個の場合、単体硫黄をナトリウムメトキシドの存在下に作用させる[2][3]

R−CH2X + 1/4 S8 + 2 NaOCH3 R−C(=S)SNa + NaX + 2 CH3OH

溶媒としてメタノールを用い、還流する温度で加熱する。発生させたジチオカルボン酸をピペリジンの塩として単離してから、さらなる反応に使用する場合もある。

ハロゲンが2個の場合、水硫化カリウムと反応させると、ジスルフィドとともにジチオカルボン酸のカリウム塩を与える[4]

3 R−CH2X2 + 7 KSH R−CH2−S−S−CH2−R + R−CH2 + R−CH2C(=S)SK + 3 H2S + 6 KX

最初のジチオカルボン酸はこの反応で合成された。

ハロゲンが3個の場合、硫化ナトリウム[5]や水硫化ナトリウム(またはカリウム)[6]、もしくはトリチオ炭酸塩を使うとジチオカルボン酸に変換できる[7]

R−CX3 + 2 K2S R−C(=S)SK + 3 KX
R−CX3 + 4 NaSH R−C(=S)SNa + 3 NaX + 2 H2S
R−CX3 + 2 Na2CS3 R−C(=S)SNa + 3 NaX + 2 CS2

クロロホルムと硫化カリウムの反応によって、ジチオギ酸 HC(=S)SH が合成されている[8]

二硫化炭素から

有機金属試薬二硫化炭素 CS2 に作用させるとジチオカルボン酸(の塩)が得られる。この目的には有機リチウム化合物[9][10]グリニャール試薬[11][12][13]が適しており、有機亜鉛化合物[14]有機アルミニウム化合物[15]を使った場合では、全く、もしくはほとんど生成しないことが知られている。

CS2 + R−Li R−C(=S)SLi
CS2 + R−MgX R−C(=S)SMgX

Rが芳香族置換基の場合、収率は40%から80%であり、アルキル基の場合は5%から25%である。

また、電子求引基などで活性化されたC−H結合から塩基でプロトンを引き抜いてカルボアニオンを発生させ、これを二硫化炭素で捕捉する方法や、シクロペンタジエニルイオンと二硫化炭素を反応させる方法[16]が報告されている。

R3C + CS2 R3C−CS2

アルデヒドから

ジチオカルボン酸は芳香族アルデヒドとアンモニウムポリスルフィド (NH4)2Sn の反応によっても得られる[17]

R−CHO + (NH4)Sn R−C(=S)SNH4 + NH4OH + Sn−2

アンモニウムポリスルフィドは銅粉末の存在下にアンモニアと硫化水素から系中で発生させるか、あらかじめ調製しておいたものを用いる。

エステルから

ジチオカルボン酸エステルを加水分解すると、ジチオカルボン酸が生成する。アルコール溶媒中、水酸化カリウム KOH[18] や水硫化ナトリウムまたはカリウムとともに加熱する[19]

RC(=S)SR' + KOH RC(=S)SK + R'OH
RC(=S)SR' + KSH RC(=S)SK + R'SH

性質

用途

参考文献

Related Articles

Wikiwand AI