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デジタル教科書

小学校、中学校、高等学校で使われている教科書をデジタル化したもの From Wikipedia, the free encyclopedia

デジタル教科書(デジタルきょうかしょ、英語: Digital textbook)は、学校の教科書として使われることを想定して作られた電子書籍である。従来の対面式クラスやオンラインコース、オンライン学位、Massive open online course(MOOC)などの様々な場面で使われている。

デジタル教科書は、電子教科書とも呼ばれる。

日本におけるデジタル教科書

初等教育・中等教育

概要

現在、普及しているデジタル教科書は電子黒板に教科書の内容を提示する「指導用デジタル教科書」であり、学習者用ではない[1]。

「学習者用デジタル教科書」を制度化する「学校教育法等の一部を改正する法律」が2019年度(令和元年度)に施行された。これによって、紙の教科書を主な教材として使用しながら、デジタル教科書を併用・代用することができるようになった。しかし、費用面のハードルもあり、なかなか導入が進んでいない[1]。

指導用デジタル教科書

「指導用デジタル教科書」は教師が中心的な使用者である。2005年から普及が始まり、指導要領改訂を機に2011年より各教科に広がった。普通教室等で使われ、授業をわかりやすくサポートする補助的な役割として使われている[2]。

学習者用デジタル教科書

拡大縮小、ハイライト、共有、反転、リフロー、音声読み上げ 総ルビ、検索、保存、動画・アニメーション、ドリル・ワーク、参考資料など導入することによって教育活動の一層の充実、デジタル教材との一体的が期待されている。特別支援教育等では加えて拡大機能や音声読み上げ、文字の大きさ、背景色、テキストの色、行間・文字の間隔の変更機能の活用などが期待されている[3]。

2018年(平成30年)6月1日に公布された「学校教育法等の一部を改正する法律」により、児童生徒の教育の充実を図るため必要があると認められる教育課程の一部において、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用できる。また、紙の教科書を使用して学習することが困難な児童生徒(色覚特性などの視覚障害、聴覚障害、発達障害、障害非日本語話者、)は教育課程のすべてにおいて、紙の教科書に代えて学習者用デジタル教科書を使用できる[4][5]。

また、「学校教育法第34条第2項」の教材について次のことが定められている。

学習者用デジタル教科書を使う時間が各教科等の授業時数の2分の1に満たないこと。児童生徒がそれぞれ紙の教科書を使用できるようにしておくこと。児童生徒がそれぞれのコンピュータにおいて学習者用デジタル教科書を使用すること。採光・照明等に関し児童生徒の健康保護の観点から適切な配慮がなされていること。コンピュータ等の故障により学習に支障が生じないよう適切な配慮がなされていること。学習者用デジタル教科書を使用した指導方法の効果を把握し、その改善に努めること。また、これらに加えて、紙の教科書に変えて学習者用デジタル教科書を使用する場合は障害等の事由に応じた適切な配慮がなされていること。学習者用デジタル教科書を使用する授業が、各教科等の授業時数の 2分の1以上となる場合には、児童生徒の学習及び健康の状況の把握に特に意を用いることが定められている[4][5]。

発行される学習者用デジタル教科書は原則として紙の教科書の内容と同一で教科書発行者に発行義務はない。有償の教材であり、機能、価格等は各発行者が決める[6][5]。

学習者デジタル教科書の発行状況

教科書目録に掲載される教科書目録に発行の有無が表示される予定である[6]。

海外におけるデジタル教科書

アメリカ合衆国

アメリカ合衆国ではデジタル教科書の導入と活用促進は、主に民間の非営利団体が担ってきた[7]。2014年からは、複数の州、公的機関、非営利団体、事業者が連携したオープン教育リソース開発支援プログラム「K-12 OER Collaborative」(現「Open Up Resources」)が進められている。

2000年以前のデジタル教科書の記録媒体はビデオテープやCD-ROMだった[8]。その後、2000年から2010年にかけてインターネット、ラップトップパソコン、電子黒板、DVDなどが普及した[8]。

2015年時点で初等中等学校の80%がデジタル教科書を含むデジタルコンテンツを利用しており、そのうち41%が教室内で利用している[8]。2016年の時点で全体の約64%の学校がオンライン教材と印刷教材を日常的に併用している[8]。市場規模も拡大傾向にあり、K-12デジタル教育出版市場の調査では、2024年に89.8億ドル、2025年には96.9億ドルに達すると予測されている[9]。主要な教育出版社としては、Pearson、McGraw Hill、Houghton Mifflin Harcourt、Cengage Learningなどが挙げられる。近年では、AI技術の急速な導入と教育現場の適応課題が挙げられる[7]。最新のデータでは、K-12教育における生成AIの導入が急速に進んでおり、教師の過半数が肯定的見解を持ち、既に多くの学校で導入されている[10]。

デジタル教科書の導入と普及においては、地域や学校によって教育環境に大きな差があり、「デジタルデバイド」(情報格差)の問題が指摘されている。また、教員のICTスキル向上や従来の評価方法の見直しも課題として残されている[11]。

教育効果については、ニュージャージー州モンロー・タウンシップ高校を対象とした調査で、iPadでデジタル教科書を使用した生徒が紙の教科書を使用した生徒よりも成績が良く、学習モチベーションも低下しなかったという肯定的な結果が得られている。AIを活用した個別学習システムや学習パフォーマンス分析システムが導入され、教育の質の向上に寄与している事例も報告されている[12]。

中華人民共和国

中華人民共和国では、「電子教材」という言葉がデジタル教科書に相当する位置づけで用いられている[13]。中国教育部が「国家中小学網絡雲平台」「国家中小学智慧教育平台」「一師一優課 一課一名師」といった全国クラウドネットワークプラットフォームを通じて教育リソースを提供しており、これらはデジタル教育の基盤を形成している[13]。小中高生向けの全教科全学年の教科書PDFが無料でダウンロード可能であり、多くの科目の講義動画も視聴できる。児童・生徒向けに加え、保護者向けや教職員向けのコンテンツも提供されている[14]。このプラットフォームは、「智慧教育」(Smart Education of China)という、職業教育や大学レベルの教育も網羅する総合的なオンライン学習プラットフォームの一部である[14]。

中国におけるデジタル教育の導入は、2015年に教育部が推進した「三通両平台」(学校のインターネット全域カバー、高品質デジタル教育資源の開発・応用など)の構築から本格化した[13]。これは、デジタル教育の基盤整備を国家レベルで進めるという明確な方針を示すものであった。また、2020年には新型コロナウイルスの感染拡大の影響もあり、2月17日に、国家クラウドネットワークプラットフォームが正式に立ち上げられた[13]。

過去には、2010年頃に上海市で試行された「電子かばん」(1人1台タブレット)があったが、高コスト、統一規格の欠如、デジタル教材の不足、メンテナンス問題などの理由から全国普及には至らなかった[15]。現在、義務教育段階で全員が1人1台端末でデジタル教科書を使用する状況には至っておらず、代わりに電子黒板やプロジェクターを用いたデジタル教材の活用が授業で積極的に行われている[15]。

台湾

台湾のデジタル教育推進は、蔡英文政権が掲げた「デジタル国家・スマートアイランド」の方針と、それを具体化する「デジタル国家・革新的経済発展プラン(2017-2025)」に端を発する[16]。このプランは、新型コロナウイルスの感染拡大後、インフラ構築とデジタル化を見据えた「スマート国家プラン(2021-2025)」へと改定された[16]。台湾教育省は、2022年に「小中学校デジタル学習精進プログラム」を開始し、モバイル端末とデジタル教材の提供、データ分析を通じた教師の指導改善、生徒の自己学習力と学習効果の向上を目指している[17] 。このプログラムには、デジタルコンテンツの充実、モバイルキャリアおよびネットワークの強化、教育ビッグデータ解析の3つのプロジェクトが含まれている [17]。

主要な教育プラットフォームとして、2017年に教育省が設立した「因材網数位学習資源」「因材網」(Yincaiwang)がある。これは、小中学校の英語、数学、国語、理科の4科目のオンライン授業やオンライン学習教材を提供している[18] 。因材網の教材は、動画中に質問がポップアップ表示され、生徒が回答しないと動画が継続して再生されない特殊な設計になっており、生徒の苦手箇所を見つけるのに役立つ [18]。教師は生徒の学習データを参考に最適な学習プランを作成できる 61。台湾の全国テストでは、因材網を利用している学生の成績が20%も高くなるという結果も出ている[18]。

民間の取り組みとしては、BoniO社が開発したゲームベースのオンライン学習プラットフォーム「PaGamO」がある。これも生徒のデータを自動分析し、教師が生徒の苦手分野を正確に把握し、レベルに応じた教育プラン作成をサポートする[18]。デジタル学習と個別最適化学習を効果的に導入することで、台湾華語、英語、数学、理科などの科目の学習効果を高め、生徒の自己学習力を向上させることが分かっている[17]。

一方、台湾のデジタル教育の進展に伴い、小中高生の間でインターネット依存傾向が11%~14.3%に上るという調査結果があり、特に男子生徒にその傾向が強いことがわかっている[19]。

韓国

韓国は、デジタル教科書開発及び普及中長期計画を2002年に策定するなど、早期から国家戦略としてデジタル教育を推進してきた。2004年には小学校5年生用の社会、理科のデジタル教科書プロトタイプ開発と実験適用を開始し、段階的に導入を進めた[20]。2007年にはデジタル教科書開発実行計画を策定し、常用化推進方案を発表、プロトタイプ開発を完了させた[20]。2008年には小学校5・6年生向け主要科目のデジタル教科書コンテンツ開発を完了し、2011年にはCD-ROM形式の「e-教科書」が配布された。その後、2014年から小・中学校で、2015年から高校でもデジタル教科書が全面的に導入された[21][20]。

2025年3月、韓国教育省は、[22]人工知能を使ったAIデジタル教科書を導入。韓国全土の小中高校の約3割が採用した。データに基づき学生に個別の学習コンテンツを提供し、特殊支援学校の学生向けには画面解説と字幕機能、外国籍学生向けの多言語翻訳機能も対応する。しかし、導入から2ヶ月後の5月においては、学校現場での活用率は1割にも満たない状況が続いている[23]。教育現場では年配教員を中心に、AIデジタル教科書の使用に忌避感を感じられている。また、「ログインに時間がかかる」「チャットボットが正常に作動しない」「既存のデジタル教材よりも質が劣る」など、問題点も明らかになっている。

韓国におけるデジタル教科書の使用率は非常に高い水準にある。2018年8月時点では、小学校で80.4%、中学校で69.8%であったが[21]、2022年10月時点では、初等教育学校99.8%、前期中等教育学校97.5%、後期中等教育学校96.3%という極めて高い使用率を達成している。スマート教育推進戦略の第1期(1996年~2000年)において、教員1人1台のPC、学校インターネットの100%整備が達成されており、デジタル教育の基盤が早期に確立された[7]。児童生徒用PC1台当たりの児童生徒数も、2022年時点で初等学校3.0人、前期中等教育学校3.1人、後期中等教育学校2.6人と、端末整備も進んでいる[7]。

タイ

タイでは、デジタル教科書は「デジタル教科書デバイス」としてタブレット端末が配布され、デジタル化された教科書(PDF)とインタラクティブな補助教材アプリ(ラーニングオブジェクト)が搭載されている[24]。このタブレット端末は、従来の勉強方法に取って代わるものではなく、あくまでも勉強により関心を持ってもらうための補助教材と位置付けられている[24]。紙の教科書の内容はそのまま維持され、デバイスにはPDFとして掲載されている[24]。

タイ政府は、国の経済発展戦略である「タイランド4.0」構想の実現の鍵として「タイ・デジタル経済社会開発20ヵ年計画」を策定し、「デジタル立国」を目指している[25]。教育省の「Anywhere Anytime」プロジェクトは、2026年から2031年にかけて、60万台以上のデバイスと高速インターネットアクセスを中等学校生徒に提供する計画であり、デジタル教育への大規模な投資を示している[26]。

タイにおけるデジタル教科書の導入は、2011年7月の総選挙でインラック氏を首相とするタイ貢献党が掲げた公約「デジタル教科書の導入」が発端である[24]。この政治的公約を受け、2012年2月22日の閣議決定で、80万台のタブレット端末の調達、WiFiネットワークの構築、端末の利用者登録と情報管理、セキュリティシステムの構築が決定された[24]。これに基づき、2012年度には小学1年生80万人にデジタル教科書デバイスが配布され、大規模な導入が開始された[24]。2013年度には、新小学1年生と新中学1年生に新たな端末を配布する計画が出された[24]。

スウェーデン

経緯

スウェーデンでは、1990年代以降の教育改革により、税金で運営されながら民間が経営する「フリースクール」が増加していた[27]。フリースクールでは、図書室などが用意されていないという問題や、教科書の明確な定義がなく大量の広告を含む教材が提供されるなどの問題があった[28]。

2011年7月に施行された新教育法(Skollagen 2010:800)第10章などで、「全ての生徒が現代的な学習用具にアクセスできること」が明文化された[29]。具体的な「1人1台」の文言はなかったが、これが後のデジタル端末配布の法的根拠(義務)として解釈された。これを契機に、小学校・中学校では急速にデジタル端末が普及した。

2015年ごろには、Google Classroom とMicrosoft Teamsのプラットフォームが普及した。この頃に、紙の教科書を買わずにデジタル教科書のライセンスのみを購入する自治体が増加した[30]。

2017年10月に採択された国家デジタル化戦略では、「2022年(一部2023年)までにデジタル化を活用する世界最高の国になる」という目標や、文章中の「3つの柱(デジタル能力、平等なアクセス、研究)」が規定された[31]。

この頃の端末普及率は以下の通りである[32]。

さらに見る 年次, 高校 (Gymnasieskola) ...
スウェーデンにおける学習用コンピュータ1台あたりの生徒数推移
年次高校 (Gymnasieskola)中学校 (7-9年生)小学校 (4-6年生)
2008年2.6人5.3人6.4人
2012年1.2人2.8人4.6人
2015年1.0人1.3人2.2人
2018年1.0人1.0人1.3人
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政権交代

2022年9月の総選挙により、穏健党、キリスト教民主党、自由党による連立政権が成立し、スウェーデン民主党が閣外協力する体制となった。これら4党が結んだ政策合意文書「ティドー協定」において、教育改革は移民・犯罪対策と並ぶ重要課題と位置づけられた[33][34]。この協定では、以前の社会民主党政権が進めた公平性、デジタル・コンピテンス重視の方針から、知識、規律、事実に基づく学習への方針へと転換した[34]。特にスウェーデン民主党は、以前から伝統的な文化継承や規律の回復を重視しており、デジタル偏重の教育を実験的であるとして批判的な立場をとっていた。この政権交代で、学校担当大臣には、自由党から入閣したロッタ・エドホルムが就任した。

学力低下の論争

  • PIRLS の結果 - PIRLS(国際読解力調査)の読解力調査の推移経年は以下の通りである[35]。PIRLS 2021の分析では、家庭で常にスウェーデン語を話す生徒のスコアは高水準を維持しており、スウェーデン語を話さない層で低下が見られている[36]。経済学者のガブリエル・ヘラー・サールグレンは、移民受け入れに伴う人口動態の変化に影響を受けていると分析している[36]。また、2021年の調査では、紙とデジタルで受検した生徒の比較が行われ、紙で受験した生徒の方が、デジタルで受験した生徒よりも正答率が高いという結果が出ている。CBT受検では、画面スクロールの負担やタイピングの負荷などによる、モード効果が存在するとしている。
    • 2006年 - 539スコア
    • 2011年 - 542スコア
    • 2016年 - 555スコア
    • 2021年 - 544スコア(※パンデミックの影響あり、完全デジタル化)
  • PISAの結果 - PISA(学習到達度調査)の読解力調査の推移経年は以下の通りである[37]。推移経年変化の分析では、スウェーデン国内では社会経済的背景(SES)による学力格差が拡大しており、移民背景を持つ生徒と持たない生徒の間には読解力で大きな差が存在することが示されている[33][38]。2018年のPISAのスコアの分析では、スクリーン時間が1日1~2時間である集団が最も高スコアを獲得しており、スクリーンが0時間である集団と4~5時間である集団のスコアはほぼ変わらない。長文(2500文字以上)は紙が優位だが、短文(2500文字未満)だと有意は無かった[39]。また、スコアの低下の要因は、デジタル教科書の導入だけとはいえない[40]。
    • 2006年 - 507スコア
    • 2009年 - 497スコア
    • 2012年 - 483スコア
    • 2015年 - 500スコア(※完全デジタル化)
    • 2018年 - 506スコア
    • 2022年 - 487スコア(※パンデミックの影響あり)

カロリンスカ研究所のパブリックコメント

カロリンスカ研究所は、2023年4月28日発行の、「Yttrande över Statens skolverks förslag till nationell digitaliseringsstrategi för skolväsendet 2023–2027(学校制度のための国家デジタル化戦略案 2023-2027 に対する意見書)」において、以下の3点のパブリックコメントを提出した[41]。

  • デジタル化が国家教育委員会の期待するような好影響をもたらすという仮定は、エビデンスに基づいたものではなく、さまざまな施策が知識の習得やデジタル・コンピテンシーにどのような影響を与えるかを測定した定量的な研究を求める。
  • 国家教育委員会は、学校のデジタル化が生徒の知識習得に対しての負の影響について認識していない。特に、画面で読み書きすることは、読解力に悪影響を与える。
  • 国家教育委員会の提案には、学校のデジタル化実装の具体的な提案が完全に欠落している。多くの学校が有資格の教育者やデジタル使用が可能な教員が極めて少ないという問題がある。

またこの他にも

「我々は、事実確認がなされていない無料のデジタル教材から主に知識を得るのではなく、印刷された教科書と教師の専門知識を通じた知識習得に再び焦点を当てるべきであると考える。」「生徒の印刷された教材へのニーズが満たされるよう、学校に使途を特定した資金を提供すべきである。」と発表している[41]。

この声明に対し、教育工学の研究者などは、カロリンスカ研究所が言及している読解力の悪影響の根拠は「受動的なスクリーンタイム(読書)」のデータであり「能動的な学習利用」ではないという点や、ディスレクシアを持つ生徒への支援ツールとしてのデジタルの重要性が看過されていると反論している[42][43]。

ロッタ・エドホルム大臣の方針

自由党から入閣したロッタ・エドホルム学校担当大臣は、前政権のデジタル化戦略を、スウェーデンの子供たちに対する実験であると批判した[44]。

その根拠として教育大臣ロッタ・エドホルム氏は以下の3点を主張している[45]。

  • スクリーンベースの学習が「深い読書」を妨げており、物理的な教科書が必要である[38]。
  • フリースクールがコスト削減のために図書室や物理的な教科書を廃止おり、安価なデジタル端末で代用している[46]。
  • スウェーデンにおいて、スクリーンタイムの増加とPISA(OECD生徒の学習到達度調査)やPIRLS(国際読解力調査)のスコア低下との間に関連がある。

2023年5月、エドホルム大臣は前政権下で策定されていた「国家デジタル化戦略 2023-2027」を正式に破棄した[47][48]。

政策の実態と法改正

2024年7月に施行された改正学校法および関連規則により、スウェーデンはハイブリッド・モデルへの移行を進めている。改正法では「教科書(Lärobok)」が「印刷された教材」と明確に定義され、学校設置者には生徒が紙の教科書を含む適切な学習ツールへアクセスすることを保証する義務が課された[49]。またデジタルツールの発達段階に応じた使い分けが示された。

  • 就学前教育(0-6歳):デジタルツールの使用義務が撤廃され、特に低年齢児にはスクリーンフリーが推奨されている[50]。
  • 初等教育低学年(1-3年生):読み書きと手書きを重視し、デジタル機器の使用を控える方針がとられている。小学3年生の全国学力テストのデジタル化も中止された[34]。
  • 初等教育高学年(4-6年生)〜中等教育:1人1台の端末環境は維持されている。リサーチやレポート、課題作成などではデジタル機器を活用する。深い理解のために紙の教科書を併用する[50]。

また、2025年7月からは、かねてからの課題であったすべての学校において司書が常駐する有人学校図書館の設置が義務化されている[51]。スウェーデン教育庁は、2028年の導入を目指して新たな学習指導要領の策定を進めており[52]、新カリキュラムでは、初等教育低学年における個人のスマートフォンの使用を原則禁止する法整備も進められており、教育用ツールと娯楽用デバイスの峻別が図られている[51]。

日本における報道と誤解

日本国内の一部政府機関やメディアでは、スウェーデンの政策変更が「デジタル教科書の全面廃止」や「紙教科書への回帰」として報じられた[53][54][55][56]。しかし、実際には上述の通り、初等教育高学年以降はデジタル端末を使う環境は維持されており、スウェーデンの政策の意図は排除ではなく、発達段階に応じた最適化である[57]。この誤解の背景には、「幼児教育でのデジタル義務化廃止」が拡大解釈されたことや、日本国内のGIGAスクール構想に対する懐疑論の文脈で引用されたことがある[57]。

フィンランド

経緯

フィンランドでは約10年ごとに教育課程が見直されるが、2014年に発表された「ナショナル・コア・カリキュラム(OPS 2016)」が教科書デジタル化の最大のきっかけとなった[58]。この改訂では、デジタル技術を単なる道具ではなく、全教科に共通して必要な横断的能力の一つとして位置づけた[58]。2016年秋からは小学校1年生からのプログラミング教育が必修化され、これに伴ってデジタル教材や端末の利用が前提となった[58]。さらに、2015年にはフィンランド教育文化省が戦略的プロジェクトであるデジタル・リープ計画を打ち出した[59]。この計画は、学校のICTインフラ整備と教員の指導能力向上を飛躍的に進化させることを目的としており、1人1台端末の普及を強力にバックアップし、紙の教科書からデジタル教科書やオンライン学習プラットフォームへの移行を政府レベルで推奨した[59]。WIPOの報告によると、2017年〜2018年におけるフィンランドの教育用タイトルの売上ベースのデジタルシェアは31.6%と報告されており、一定の広がりを見せている[60]。

学力低下の論争

PIRLS(国際読解力調査)やPISA(学習到達度調査)の結果から、デジタル教科書や端末の利用が、深い読解や集中力の妨げになっている可能性が議論されている[61]。2021年のPIRLSや2022年のPISAでは、コロナ禍の影響により、対面授業ができなかったことや、カリキュラムの進捗が悪化したことから、スコアが大幅に下落したと報告されている[61]。また、休校措置による学習機会の損失も指摘されている[62]

移民背景を持つ生徒の影響:も議論されている。移民を背景に持つ生徒の割合が増加しており、言語の壁などが読解力調査において不利に働くケースがある。2022年PISAの結果では、移民背景を持たない生徒(平均500点)に対し、第一世代の移民背景を持つ生徒(384点)、第二世代(439点)と統計的に有意な差があることが明記されている[63]。第二世代の読解力の低さが全体の基礎学力低下の要因の一つとも指摘されている[64]。

  • PIRLS の結果 - PIRLS(国際読解力調査)の読解力調査の推移経年は以下の通りである[37]。
    • 2011年 - 568スコア
    • 2016年 - 566スコア
    • 2021年 - 549スコア(※パンデミックの影響あり)[61]
  • PISAの結果 - PISA(学習到達度調査)の読解力調査の推移経年は以下の通りである[63]。
    • 2006年 - 547スコア
    • 2012年 - 524スコア
    • 2018年 - 520スコア
    • 2022年 - 490スコア(※パンデミックの影響あり)

ハイブリッドへの転換

2023年にフィンランド政府は、幼少期からの過度なスクリーンタイムが語彙力の形成や深い読解に影響を与えるという懸念から、小学校低学年の義務教育課程において紙の教科書を使う授業を復活させる方針を打ち出した[61]。また、学習段階や発達段階に応じた最適なメディア・ミックスを選択する柔軟な運用に移行している[61]。国がどちらか一方を強制するのではなく、現場の教員が教育的効果に基づいて柔軟に組み合わせることが推奨されている[58]。一方で、小学校高学年から中学校、高校にかけては、引き続きデジタル教科書や学習プラットフォームが積極的に活用されている[58]。高学年では、情報を検索、分析、発信するスキルが求められるため、デジタル端末は不可欠なツールとして定着している。デジタル教材の強みである音声読み上げ、動的な図解、個々の進捗に合わせたドリルなどは、多様な学習ニーズに応えるために重要な役割を担っている[65]。

国の方針に基づき、自治体レベルでもハイブリッド形式が具体化されている。例えばリーヒマキ市では、数年間の完全デジタル化を経て、情報の検索や共同作業はデジタル、深い読解と記憶の定着は紙という機能別のハイブリッド形式を2024年より正式に採用した[66]。さらに、生徒が夜間にChromebookでのアクセスすることを禁止した[67]。また、フィンランドのタンペレとエスポーの高校や職業訓練校では、生徒の要望により、一部のコースで再び紙の学習教材を提供するようになった[67]。これらはデジタルをやめるのではなく、デジタル・リープで得たインフラを紙の利点と組み合わせて最適化する取り組みである[66]。

2024年、フィンランド政府は、デジタルスキルを雇用と社会参加に不可欠な基本的な「新しい市民スキル」と見なし、教育において身につけるデジタルコンピテンシーを設定している[68]。フィンランド国家教育省(Opetushallitus)は、「Digivisio 2030」プロジェクトを掲げ、デジタル能力の強化とデジタル教材を用いた継続的な学習の支援という目標を設定している[69]。

関連項目

脚注

外部リンク

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