トリプシンインヒビター
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トリプシンインヒビター(英: trypsin inhibitor、略称: TI)は、トリプシンの活性化と触媒反応を制御してその生物学的活性を低下させる、セリンプロテアーゼインヒビター(セルピン)の1種である[1]。トリプシンはさまざまなタンパク質の分解に関与する酵素であり、ヒトやその他の単胃動物、幼い反芻動物において消化過程の一部として機能している。トリプシンインヒビターを含むセルピンは、不可逆的な自殺型阻害を行う[2][3]。
トリプシンインヒビターは膵臓のタンパク質消化酵素であるトリプシンに破壊的な変化を生じさせ、その結果トリプシンは消化過程のためのタンパク質消化を行うことができなくなる[4]。このようにしてプロテアーゼインヒビターは消化活性に干渉し、反栄養素的作用を示す。そのため、トリプシンインヒビターは反栄養因子(anti-nutritional factor: ANF)であると考えられている[5]。さらに、トリプシンインヒビターはキモトリプシンの機能にも部分的に干渉する。
| 大豆製品 | 残存率 |
| 豆乳 | 13.0% |
| 充填豆腐 | 7.9% |
| 絹ごし豆腐 | 4.3% |
| 寄せ豆腐 | 3.4% |
| 木綿豆腐 | 2.5% |
| 醤油 | 0.8% |
| 納豆 | 0.7% |
| 味噌 | 0.3% |
食物中のトリプシンインヒビターによって成長の遅れや代謝・消化器疾患が引き起こされることが知られており[7]、トリプシンインヒビターの摂取による膵肥大の発生はよくみられる[8]。食物中のトリプシンインヒビターはタンパク質摂取効率を低下させ、消費者の体はタンパク質を十分に効率的に利用することができなくなる[9]。
機能
トリプシンインヒビターは、多くの豆類に含まれている[10]。トリプシンインヒビターは主に植食者の成長を低下させることで、防御機構として機能する[11]。大豆トリプシンインヒビターは水溶性タンパク質である[12]。また、スクミリンゴガイPomacea canaliculataの卵中のプロテアーゼインヒビターが捕食者に対してトリプシンインヒビターとして作用することが2010年に報告されており、動物界においてもこうした防御機構が存在することを直接的に示す最初の例となった[13]。 鶏卵の卵白には、オボムコイドが11%含まれており[14]、トリプシンインヒビターの作用がある[15][16]。
トリプシンインヒビターはウシなどの動物の膵臓でも産生されており、トリプシノーゲンやキモトリプシノーゲンの活性化を防ぐ役割を果たしている[17]。
不活化
トリプシンインヒビターは易熱性であるため、食品を熱処理することで不活化を行うことができ、安全に食用とすることができるようになる[18]。大豆の場合、14分の煮沸で80%が不活化され、30分で90%が不活化される。圧力鍋の使用など、より高温での調理によって必要な調理時間を短くすることができる。不活性化の程度の測定にはELISAを利用することができる[19]。水溶性である大豆トリプシンインヒビターはシスチン含量が約20%あり、お互いがS-S結合を作り, 非常に安定な3次元構造を保っていると考えられる。このため、水溶液を100~105℃に加熱しても変性を起こさない。また、ロイシンなどの疎水性アミノ酸含量が非常に少ない。このような傾向は、マメ科植物の種子中に含まれているトリプシンインヒビターに一般にみられる[20]。醤油、納豆、味噌などの発酵食品ではタンパク質である大豆トリプシンインヒビターが微生物により発酵分解される[6]。卵白のオボムコイドは分子量28,000で、耐熱性蛋白である[21]。