パンチドランク (劇団)
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パンチドランクは「演劇ではなく体験を上演する劇団[3]」と評され、その最大の特徴はイマーシブシアターと呼ばれる没入型の公演スタイルにある。イマーシブシアターにおいて、観客は建物の中で同時多発的に上演されるパフォーマンスを、自由に歩き回りながら自由な視点で目撃することができる[4][5][6]。緻密な空間設計をはじめ、照明や音響、香りを駆使した五感を刺激する演出、ディティールまでこだわりぬかれた小道具類といった各要素によって、観客の没入感はより高められる[2]。なお、劇団名の「パンチドランク」とは、ボクシングで多量のパンチを受けた衝撃による酩酊状態を意味する言葉[7]。観客があらゆる感覚を通じて物語を体感し、深い感情的・身体的な影響を受けるような体験を通じて「可能性に満ちた心地よいめまい」をもたらすことが期待されている[2][8]。ただしパンチドランク自体が自らイマーシブシアターを名乗ったことはなく、あくまでメディアおよび観客がイマーシブシアターと呼んでいる。[9]
こうしたイマーシブシアターの原型は、バレットがエクセター大学で演劇を学んでいたときに生まれたという[10][11]。演劇の学位取得の最終試験の一環としてゲオルク・ビューヒナーの未完の戯曲『ヴォイツェック』を演出した際、エクセターにある廃兵舎を舞台として使い、各場面を同時進行させ観客がその中を探検するという形式を採用した[2][10][11]。パンチドランクはその後イマーシブシアター形式の作品を次々に制作・上演、従来の受動的な演劇鑑賞スタイルを覆すその新しい手法は早くから注目された。イマーシブシアターはその後ロンドンやニューヨークを中心に広がり、数多くのカンパニーによって上演されている。古典作品を物語の題材としていることも、パンチドランクによるイマーシブシアターの特徴である[12]。これまでにも、シェイクスピア、チェーホフ、ポーといった作家の古典を下敷きにした作品が上演されている[13]。特にシェイクスピアの『マクベス』が基となった『スリープ・ノー・モア Sleep No More』はパンチドランクの代表作として名高く、2003年にロンドンで、2009年にボストンで上演されたのち、2011年からはニューヨークで、2016年からは上海で、常設公演としてロングランを続けている。最も長く続いたニューヨーク公演は、2024年1月28日に公演が終了すると発表されて以降、19回の延長がアナウンスされた後、2025年1月5日に千秋楽を迎え、その後2025年1月9日から1月11日の3日間にわたってfarewell partyが実施された。[14]さらに2025年7月24日のプレビュー公演を皮切りに現在ソウルでも公演が行われている[15]。
2020年には拡張現実(AR)を用いた位置情報ゲームの制作を行う企業ナイアンティックと業務提携し、次世代の体験の開発に取り組んでいる[16][17]。リリース時のステートメントでは、「インタラクティブな観客体験の未来は、ゲームと演劇のクロスセクションにある」と述べられている[18]。
なお、パンチドランクは、アーツカウンシル・イングランドのナショナル・ポートフォリオ・オーガニゼーションに指定されており、多くの資金援助を受けているほか、民間からの出資も得ている[19][20]。
作品リスト
イマーシブシアター
| 年 | タイトル(英) | 会場 | 備考 |
|---|---|---|---|
| 2000 | Woyzeck | エクセターの廃兵舎 |
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| The Cherry Orchard |
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| The Moonslave | |||
| The House of Oedipus | デヴォンにあるポルティモアハウスの庭園 | ||
| 2002 | Midsummer Night's Dream | 民家と庭 | |
| Chair | Old Seager蒸留所(ロンドン・デトフォード)[23] |
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| 2003 | The Tempest | Old Seager蒸留所(ロンドン・デトフォード)[24] | |
| Sleep No More | ロンドンのビューフォイ・ビルディング、ヴィクトリア朝の古い学校[25] | ||
| 2004 | Woyzeck | ビッグ・チル・フェスティバルにて上演[26] |
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| 2005 | Marat/Sade | ビッグ・チル・フェスティバルにて上演[27] |
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| The Firebird Ball | サウスロンドンの廃工場(産業遺産)、オフリー・ワークス[28] |
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| 2006-07 | Faust | ロンドンのワッピング地区の5階建ての廃墟となった資料倉庫、広さ150,000平方フィート(14,000平方メートル)[30] |
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| 2007–08 | The Masque of the Red Death | バタシー・アーツ・センター(ロンドン) | |
| 2009 | Tunnel 228 | ロンドンのウォータールー駅地下にある廃墟と化したトンネル[36] | |
| Sleep No More | オールド・リンカーン・スクール(マサチューセッツ州ブルックライン)[37] | ||
| It Felt Like A Kiss | マンチェスターのスピニングフィールズにある寂れたオフィス街[38] |
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| 2010 | The Duchess of Malfi | ロンドンのグレート・イースタン・キーにある廃業した製薬会社の本社ビル[38] |
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| 2011 | Sleep No More | ニューヨーク・マンハッタン27丁目530番地の使われなくなった倉庫群を「マッキトリック・ホテル」として使用[39][40][41][42] | |
| The Crash of the Elysium | マンチェスター国際フェスティバルにて上演 | ||
| 2013 | The borough | オールドバラ音楽祭にて上演[48] | |
| 2013-14 | The Drowned Man: A Hollywood Fable | ロンドンのパディントンにある使われなくなった郵便局[51] |
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| 2017 | Kabeiroi | ロンドン全域 | |
| 2022- | The Burnt City | ウーリッジ・アーセナル(ロンドン)にある軍需工場だった建物2棟[57] |
テレビドラマ
| 年 | タイトル(英) | タイトル(日) | 出演 | 備考 |
|---|---|---|---|---|
| 2020 | The Third Day | サード・デイ 〜祝祭の孤島〜 | ジュード・ロウ、キャサリン・ウォーターストン、ナオミ・ハリス | 世界初の没入型テレビドラマとして制作[59][60] |
パンチドランク・インターナショナル
2015年、パンチドランクは新たな制作会社、パンチドランク・インターナショナルを設立した。フェリックス・バレットとパンチドランクのクリエイティブチームによるオリジナル作品制作のほか、パンチドランクの作品の一部の国内外でのプロデュースを行っている。Shanghai Media Groupと共同制作された上海版の『スリープ・ノー・モア』もこれに含まれる[61]。
また、北米サムスンと長期的なクリエイティブ・パートナーシップを結んでいる。同社とのコラボレーションで作られたプロジェクトには、2016年のカンヌライオンズ・フェスティバルのために制作されたVRコンテンツ『Believe Your Eyes』がある。この作品はその後、アート・バーゼル・マイアミ・ビーチ、ニューヨークのSamsung 837、モントリオールのPhi Centreに巡回されており、2017年カンヌ国際映画祭のエンターテインメント部門で銀獅子賞を受賞している。
2019年7月には、同社初のテレビプロジェクト『The Third Day』が制作された。これはPlan B Entertainment、作家のデニス・ケリーとのパートナーシップの下、Sky Studios、HBOと共同で制作されたものである[59]。ジュード・ロウ主演で、2020年にイギリスとアメリカで放送された。
パンチドランク・エンリッチメント
2008年、創立メンバーのピーター・ヒギンが中心となり、コミュニティや学校へのアウトリーチに焦点を当てた「パンチドランク・エンリッチメント」という新しい部門を設立した。パンチドランク・エンリッチメントのプロジェクトは、パンチドランクが提供してきた没入型の体験が学習に対してもたらす可能性を探求するもので、小学校での体験型インスタレーション、ケアホームでの長編ストーリーテリングプロジェクト、ファミリーシアター制作など、主に子供や若者、高齢者をその対象としている[12][62][8][63][64][65]。学校における教師主導のプロジェクト支援も行っており、教師が教室で没入型の体験を提供するためのスキル開発の機会を提供しているほか、研究開発活動も行っている[12][62]。
パンチドランク・エンリッチメントによる主なプロジェクトは次の通り。
- Under the Eiderdown(2009-2014):学校の生徒が魔法の骨董品店に招待され、創作活動に興味を示すように促す演劇体験[66]。
- Against Captain's Orders: A Journey into the Uncharted (2015):ロンドンの国立海洋博物館で開催された子供向けの没入型展覧会[12]。
- Greenhive Green (2016):Magic Meとの提携による、認知症の人を含むグリーンハイブ・ケアホーム入居者のためのプロジェクト[67]。
- Small Wonders (2018、2019):5歳から11歳の子どもたちとその家族を対象にした体験型のイベント[68]。