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プラネタリーヘルスダイエット

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自然食品と伝統的調理法を取り入れたPHD料理の例:プロヴァンス風のラタトゥイユと魚(左)、ナイジェリア風の豆とほうれん草とプランテン(右)。

プラネタリーヘルスダイエット:planetary health diet, PHD)は、EAT-Lancetダイエット、プラネタリーダイエット、あるいはプラネタリアンダイエットとも呼ばれ、この記事ではPHDと略する。PHDはEAT-Lancet委員会によって作成された食事法であり[1][2]、2019年1月16日にランセット誌(The Lancet)で発表された報告書の一部として公表されたものである。この食事内容は人類と地球の両方にとって健康的であり、世界人口最大100億人までを環境的に持続可能に養うよう設計されている[3]

この報告書は、PHDの世界的な実施により成人疾患による死者が年間1,100万人減るとしている[3]。しかしながらPHDは、高所得国では概ね手頃な費用だが、中・低所得国で少なくとも15億8千万人は経済的に実践困難かもしれない[4]。PHDは概して好意的に受け入れられた[5]が、SNSやメディア上では議論が二極化し、食肉業界は計画的破壊工作さえ目論んだ(後出)。

低炭素食温室効果ガス排出量の削減に焦点を当てたより広範なカテゴリーであり、それ自体が個人の栄養目標を満たすとは限らない。それに対し、PHDは個人の健康と地球環境の持続可能性の両方を達成するための具体的かつ科学的なガイドラインである。

PHDは主に植物性食品から構成されるフレキシタリアン(準菜食)型の食事内容であり、全粒穀物・野菜(でんぷん質のものを除く)・果物・豆類・ナッツ類・不飽和油脂(植物性)を主とし、でんぷん質の野菜(ジャガイモなど)・乳製品・魚介類・鶏肉・鶏卵は中程度の量で含む。赤肉(牛肉・羊肉・豚肉)は少量なら含んでもよいが、加工肉(ハム・ソーセージなど)・超加工食品(ultra-processed food: 菓子類・インスタント麺など)[6][7][8][9]・砂糖の追加・精製穀物(パン・麺類など全粒粉ではない小麦粉製品・白米など)・飽和脂肪酸(動物性油脂など)の摂取は最少限に抑える[3]。2025年10月に76ページに及ぶ改訂版も発表された[10]

1 日摂取量2400キロカロリーでPHDを達成するそれぞれの食品摂取許容量(2025年版)[10]
食品 1日あたり量(範囲)、グラム単位 1日あたり熱量、キロカロリー単位 備考
全粒穀物* 210 735 一日エネルギーの20~50%
*玄米・全粒小麦(粉)・トウモロコシ・オート麦・キビ・モロコシなどの全粒穀物はすべて互換性があり、精製穀物およびその加工食品はそれらで置き換える。
塊茎またはでんぷん質の野菜(芋類) 50 (0–100) 50 中サイズ馬鈴薯なら1週間に2個まで
野菜 300 (200–600) 95
果物 200 (100–300) 145
ナッツ 50 (0–75) 275
豆類 75 (0–100) 275
動物性食品:
牛乳・乳製品 250 (0-500) 145 牛乳なら1日1杯
鶏肉およびその他の家禽 30 (0-60) 60 骨なし皮なし鶏もも肉なら1日おきに1枚
魚介類 30 (0-100) 25
鶏卵 15 (0-25) 20 3日に1個(菓子類などに入ったものも含む)
赤肉(牛肉・羊肉・豚肉) 15 (0-30) 45 中サイズハンバーガーなら1週間に1個まで
油脂・砂糖・塩分:
植物性不飽和脂肪酸(オリーブ油・大豆油・キャノーラ油・ひまわり油・ピーナッツ油) 40 (20-80) 355
植物性飽和脂肪酸(パーム油・ココナツ油) 6 (0-8) 55
動物性油脂(ラード・牛脂・バター) 5 (0-10)
砂糖の追加 30 (0-30) 115 蜂蜜なら1日大匙2杯
ナトリウム 2以下 食塩5グラム以下相当

EAT-Lancet報告書は「赤肉や砂糖などの不健康な食品」を半分以上削減することを推奨している。赤肉は心血管疾患・糖尿病・ある種のがんのリスク増加と関連している[3]。2020年の比較研究では、いくつかの点を除きPHDと米国「2015–2020年食事ガイドライン」は一致した[11]

2023年までにデンマーク版やイタリア版など[12]、各地域や文化に適応したPHDのバリエーションがいくつか提案されている。2024年には減量を目指す人向けにカロリーを抑えたバージョンも開発された[13]

健康効果

EAT-Lancet報告書は、PHDの世界的採用は、主に冠動脈性心疾患・脳卒中・2型糖尿病・特定のがん・その他の疾病を予防することで年間1,110万人の早期死亡を防ぎ、低所得国に多い発育不良小児も減少するとしている[3]。2024年の28件の研究レビューも、PHDが糖尿病・心血管疾患・がん・全死因死亡率の低下と有意に関連していることを示した[14]。2025年のメタアナリシスでは、NHANESおよびUKバイオバンクの参加者においてPHDの遵守度が高いほど、全死因死亡率およびがんリスクが低いことが確認された[15]

一方、PHDが特定の微量栄養素を欠乏する可能性も指摘されている[5]。ビタミンやミネラルはPHDの明示的な構成要素ではないが、必要に応じてサプリメントを利用できると報告書は述べ、例えば肉を食べない思春期女子に鉄分補給を推奨している[3]

費用

日本を含むピンクで示された国々は、PHDおよび他の食事指針で推奨されている量よりも少ない果物しか消費していない[16]
各国(左、真ん中がPHD基準)の動物性食品の一人一日あたり平均消費量とその内訳(青:乳製品、赤:赤肉、緑:鶏肉、オレンジ:鶏卵、茶色:魚)。PHDへの移行にはある国々(この図で米国・ギリシャ・日本)では肉の消費を減らさなくてはならないが、別の国々(この図でインド・インドネシア・エチオピア)では増やす余地がある。この図で日本は最多の魚介消費国である(125グラム)[17]
PHDが推奨する摂食量(下段一番左の白抜き棒グラフパネル)と、世界地域別の現在の摂食量の比較(記事掲載の図[18]を改変)。赤色は過剰、青色は不足を意味する。

タフツ大学の研究は、PHDは必要な栄養を満たす最も安価な食事と比べると約60%割高であり、2011年の食品価格に基づけば、PHDの1日あたりの最低コストは低所得国で約2.42米ドル、高所得国で約2.66米ドルと見積もった[4]。これら費用は世界の大部分の人々には支払可能でも、少なくとも15億8千万人にとっては世帯収入を上回る額になる[4]。非常に貧しい人々の食事は高デンプン食品が主要であることが多いのに対し、PHDは果物・野菜といった食品群を推奨し、国や地域、所得によっては果物などは入手が容易ではないこともある。

高所得国ではPHDの1日あたり最低コストは、その国の典型的な食事コストよりも安価である[5][19]が、 その国内でもPHD食品の価格や入手のしやすさは地域によって大きく異なる[20]。 

EAT-Lancet報告書は、健康的な食事をより手頃な価格にする政策を促した。たとえばインドではほぼすべての食料補助金が米と小麦に集中しているが、より栄養価の高い食品に対象を広げることができる[21]

成立までの経緯

EAT-Lancet委員会は独立した科学機関であり、健康・農業・政治学・環境科学の分野で活動する19人の委員(16か国)と18人の共著者で構成された[3]。そのミッションは入手可能な最良の科学的証拠を用いて、人間と地球の両方にとって健康的で、慢性疾患のリスクを最小化し、人間の幸福を最大化する普遍的な基準食を策定することであった[4]。PHDは概ね健康な2歳以上の人々を対象としており、世界中の地域や食文化に適応できるよう設計された。農業生産性改善と食品ロスの50%削減を組み合わせると、PHDは2050年に推定される100億人に健康的な栄養の供給を環境的に持続可能な形で実現できると委員会は見積もった[3]

世界の食料システムは温室効果ガス排出量の25~30%を占め[22]、農業は世界の淡水の70%と居住可能な陸地の半分を使用している[23]。これらを鑑みEAT-Lancet報告書は、気候変動・土地利用変化・淡水利用・生物多様性損失・窒素/リン循環への影響を考慮し、プラネタリーバウンダリー枠組みを用いて環境持続可能性を評価した[4]

批判と評価

食肉業界や肉食支持者は、業界の不利益となり肉食習慣に厳しい目を向けるPHDを猛然と攻撃した。EAT-ランセットの研究論文の著者の一人は、論文発表直後に「本当にひどい」コメントが寄せられて「圧倒された」と語った。「私たちが行ってきた研究とその重要性、そして私たちがどれだけの労力を費やしてきたかに、私は興奮していた。しかし私たちがプロジェクトを開始した時、これほどまでに様々な形で攻撃されたことはなかった。」[24]

2025年、食肉産業関連組織と連携した広報会社がPHDへの反発を組織さえしていたことが明るみに出た。Twitterの活動の分析により、EAT-Lancet報告書への反対運動が2019年1月の報告書公開前から組織的に準備されていたことが明らかになった[25]。その運動は「#yestomeat」というハッシュタグを使用し、世界的な肉消費削減の勧告を特に標的とした[24]。「#yestomeat」は2019年1月14日まで全く使われていなかったのに、この日(報告書の公表3日前)以降、毎日数百件のツイートで使用されるようになったのである[25]。その後の証拠によるとこの反抗扇動は、「アニマル・アグリカルチャー・アライアンス(Animal Agriculture Alliance)」を代理して「レッド・フラッグ(Red Flag)」という広報会社が仕掛けたものであった[26]。アニマル・アグリカルチャー・アライアンスの役員には、世界5大食肉メーカーのうち2社であるカーギルとスミスフィールド・フーズの代表者が名を連ねている。レッド・フラッグは学者やジャーナリスト、経済問題研究所(Institute of Economic Affairs)にも働きかけ、EAT-Lancet報告書を「急進的」「現実離れ」「偽善的」と評するよう促すことさえした[26]。環境科学者ジェニファー・ジャケットは、「レッド・フラッグはEAT-Lancetを文化戦争に争点変えした」と述べている[24]

また、極めて容易に予測されたもう一つの批判は、食品項目を制限するPHDは伝統的な食文化に反し、また食肉や菓子の消費削減は雇用の喪失につながるというものである[5][27]

しかしEAT-Lancet報告書に対する学術的な評価は概して肯定的であり、いくつかの研究は同報告書が定量的で科学的根拠に基づく提言を提供し、食料政策の策定を導く助けになる点を高く評価した[5]。ニューヨーク・ソウル・ミラノを含むC40都市気候リーダーシップグループのうち16都市は、PHDを市の食料政策の指針として採用することを約束している[28]

関連項目

引用

外部リンク

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