ヒジャブ
イスラム教の女性用ヘッドカバー
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ヒジャブは、イスラム教を信仰する女性(ムスリマ)や、非ムスリマを含めたイスラーム教国内の女性が、頭や身体を覆う布。女性の着用を法的に義務付けている国もある。アラビア語で「覆うもの」を意味するアラビア語由来の名詞 حِجَابٌ(転写:ḥijāb, ヒジャーブ、英語: Hijab)の日本における一般的なカタカナ表記である。


元となったアラビア語での発音ではヒジャーブ、ペルシア語では元のアラビア語の母音iがeに置き換わったヘジャーブと発音されるが、日本では長母音部分を抜いてヒジャブ、ヘジャブとカタカナ表記することが多い。
語義
形状
イスラーム法とヒジャブ

イスラームでは女子の服装に関してシャリーア(イスラーム法)で規定される。その根拠となる法源には以下の様なものがある[7]。
- クルアーンの第24章31節には「また女の信仰者たちに言え、彼女らの目を伏せ、陰部を守るようにと。また、彼女らの装飾[注釈 1]は外に現れたもの以外、表に表してはならない」とある[8]。他に33章でも女子の服装に言及している。
- クルアーンの第24章30節は「男の信者たちに言ってやるがいい。(自分の係累以外の婦人に対しては)かれらの目を伏せ、貞節を守れ。それはかれらのために一段と清廉である。アッラーはかれらの行うことを熟知なされる。」とあるように男性信者にも「目を伏せて婦人をじろじろ見るな」と教えている。従って第24章30-31節は女性の隔離でなく、異性に対する道徳的行儀作法を教えている。
- ハディース(預言者ムハンマドの言行録)では「成人に達した女性は、ここを除きどの部分も見られてはならない、と言って預言者は顔と手を示された」など、服装への言及がある。
イスラム法学では、法源を基にウラマー(イスラーム法学者)が解釈を行う。ヒジャブ着用が義務になるかどうかは時代や社会環境により一定ではない。最も一般的な解釈では、「女性が婚姻関係にない男性からの陵辱から身を守るために、ヒジャブは必要である」とされる[7]。
社会

ヒジャブに対する対応はイスラーム教諸国や、イスラム圏以外でムスリムが暮らす地域によって様々である。イスラームの地方的慣習法(ウルフ)により、人目を引く派手な色や模様のヒジャブは同じ国の中でも地域によって非難の対象となる場合と、ならない場合がある[7]。一方、アメリカ合衆国のように、素材や色彩、デザインの面でファッション性を高めたヒジャブが販売されている地域もある[9]。
イスラーム教が主な宗教となっている中東を始めとする諸国では、女性の一般的な服装である。ムスリムが多数を占める国でも、トルコやチュニジアなど世俗主義や政教分離を掲げる国では公の場所での着用が禁止されていたが、両国ともに近年規制が緩和されつつあり、ヒジャブを付ける女性も珍しくはなくなっている。
イスラームを国教としていたり戒律に厳格な信徒が主流派の政権下では、婚姻、血縁関係のない男性がいる場での着用を法律で義務化している場合もある。イランでは西欧的近代化を目指すパフラヴィー朝が1936年に禁止した(キャシュフェ・ヘジャーブ)が、着用を望む女性の反発を受け1941年に禁令を撤廃した。パフラヴィー朝を打倒したイラン革命で成立したイラン・イスラム共和国は罰則や風紀警察による取り締まりにより義務化したが、浅くかぶって前髪を見せたり、人前で脱いだりする女性も一部で現れている[10]。
イラン・イスラム革命後のイランでは7歳以上の少女はヒジャブが強制されており、髪を隠さない少女・女性と学校へ行くことも禁止されており、むちで打たれたり、刑務所に入れられ、人によっては殺される。アメリカに亡命したイラン人ジャーナリストで反体制人権活動家のマシー・アリーネジャード(Masih Alinejad)は、イラン訪問時にセゴレーヌ・ロワイヤル(フランスの大臣)や、イタリアのフェデリカ・モゲリーニ(欧州連合(の外交安全保障上級代表(EU外相))氏ら欧米の女性政治家が、イラン政府に言われるままヒジャブを着用したことを糾弾している[11]。2022年、ヒジャブのかぶり方が不適切だとして当時22歳の女性が警察による拘束中に死亡し、抗議運動が全土に拡大し、当局による服装監視が緩和された[12]。
イラン軍事衝突 (2025年-)以降、服装よりも差し迫った優先課題があるとして女性への弾圧が減り、町中にヒジャブをつけない女性が増えた[13]。経済低迷に反発する大規模デモを受け、国民の不満を和らげる狙いから監視が緩められたと見られる[12]。この状況下においても「ヒジャブの着用義務を徹底しなかった」としてカフェやレストランが閉鎖された事例があるも、大統領マスウード・ペゼシュキヤーンは「法律によって本当に人々の行動を変えられるのか」と発言し、「ヒジャブよりも、インフレや暮らしの問題に集中すべき」と主張した国会議員もいた[13]。CNNのインタビューに応じた60代女性は「テヘランの女の子たちは、丈の短いトップスやショートパンツなど、あらゆる服装で普通に外出していて、ヒジャブなんてもう存在しないようなものだ」と述べた[13]。
サウジアラビアについては近年、着用は任意であるとする王室の見解が出るなどしており、ヒジャーブを着用しない女性や髪を多く出して着用する女性が増え、急速な開放政策の影響が見られる。
一方、フランスでは1905年に制定されたライシテ(政教分離)法に基づいて2004年に公立学校における「これみよがし」な宗教的標章等の着用を禁止する法律[14]が制定されたため、ヒジャブもその対象とされ、内外のイスラム教徒から反発を受けている。
世界第3位のイスラム教徒の人口を抱えるインドでは、ヒジャーブそのものが「女性抑圧の象徴」だとしてカルナタカ州で、公立学校での女子生徒のヒジャーブ着用を禁じる通達が出されている。
また、スポーツの試合中における着用についても、国際競技連盟によって認める場合と一切認めない場合に分かれる[15][16]。
日本での扱い

日本では、ヒジャブの着用を一律に禁止または義務付ける法律はない。日本にも古くから、作業中に髪が落ちないようにするための「頬被り」などのヒジャブに類似した見た目の衣装が存在するも、そこに宗教的な要素はない。
2015年からユニクロは海外向けにヒジャブの販売を開始し、2016年から国内でも発売した[17]。ユニクロとコラボしたファッションデザイナーのハナ・タジマは日本にルーツを持つムスリムであり、「ムスリムではなくても様々な着こなしが楽しめる汎用性のあるデザイン」と説明した[18]。またユニクロ以外からも、観光客を対象に、ユーズド着物を再利用したヒジャブ[19]、桜柄のヒジャブ[20]、伝統的な和柄を用いたヒジャブなどが販売され[21]、日本土産として人気となった[19][21]。
職場におけるヒジャブの着用をめぐっては、制服や衛生、安全上の規定との調整が問題となる場合がある。看護師・介護職員が勤務中にヒジャブ着用を認められない事例があり、2016年には社民党の阿部知子がこの問題について国会で政府の見解が問うた[22]。当時の首相である安倍晋三は、「合理的な理由なく、「勤務時間中にジルバブ(ヒジャブ)を着用しないことを強要したり、ジルバブ着用を理由に業務に従事することを拒否したりすること」は不適切であると考えている」と答えた[23]。
2024年6月、ローソンは身だしなみ規定を改定し、店員のヒジャブ着用を認めた[24]。またセブンイレブンも同年以前からヒジャブの着用を許可していた[25]。
2026年、ファミリーマートは、店舗スタッフの新しい身だしなみ基準「ファミマコーデ」を同年9月1日から導入すると発表し、ヒジャブも選択できる服装の一つとして認められた[26]。また、自由な服装を認める一方で、清潔感、衛生管理、安全性、良好な接客を基本的な基準としている[27]。
注釈
- 装飾とは、美しく魅力的な部分で、顔と両掌以外の全身を指す。