ヘテロ接合 (半導体)
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ヘテロ接合(ヘテロせつごう、英: heterojunction)とは、異なる種類の半導体どうしを接合して形成される界面である。これに対して、同じ半導体材料からなる領域どうしの接合はホモ接合(homojunction)と呼ばれる。ヘテロ接合では、接合する半導体のバンドギャップ、電子親和力、誘電率、有効質量などが異なる場合があるため、界面において伝導帯および価電子帯のエネルギーに不連続が生じる。このバンド不連続を利用することで、電子や正孔の輸送、閉じ込め、再結合などを、単一の半導体では困難な形で制御できる。[1][2]
単一のヘテロ接合だけでなく、複数の異種半導体層を積層した構造は一般にヘテロ構造(heterostructure)と呼ばれる。ダブルヘテロ構造、量子井戸、多重量子井戸、超格子、変調ドープ構造などは、その代表例である。20世紀後半に分子線エピタキシー(MBE)や有機金属気相成長法(MOVPE、MOCVD)などの薄膜結晶成長技術が発達すると、組成や膜厚を原子層に近い精度で制御したヘテロ構造を作製できるようになり、半導体レーザー、高電子移動度トランジスタ(HEMT)、ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)などのデバイスが発展した。[3]
ヘテロ構造を利用した高速・光エレクトロニクス技術の発展に対し、ジョレス・アルフョーロフとハーバート・クレーマーには2000年のノーベル物理学賞の半分が共同授与された。授賞理由は「高速・光エレクトロニクスに用いられる半導体ヘテロ構造の開発」であった。[4]
基本原理
ホモ接合との違い
同一材料からなるホモ接合では、接合の両側で材料固有のバンドギャップや電子親和力は基本的に共通であり、pn接合などでは主として不純物濃度や導電型の違いによってバンドの曲がりが生じる。[2]
これに対しヘテロ接合では、接合する材料そのものの電子構造が異なる。このため、界面では伝導帯端および価電子帯端が一般に連続せず、それぞれ伝導帯オフセット(conduction-band offset)および価電子帯オフセット(valence-band offset)が形成される。[5]
伝導帯オフセットを 、価電子帯オフセットを とすると、これらはヘテロ接合における電子と正孔のポテンシャル障壁またはポテンシャル井戸の深さを与える重要な量となる。したがって同じpn接合であっても、ホモ接合とヘテロ接合ではキャリア注入、再結合、輸送特性が大きく異なる場合がある。[2]
接合する二つの半導体が熱平衡に達すると、両者のフェルミ準位が一致するように界面付近で電荷が移動し、それに伴ってバンド曲がり(band bending)が生じる。実際のバンド図は、バンドオフセットだけでなく、各材料のドーピング濃度、導電型、誘電率、界面電荷や界面準位などによって決定される。[5][2]
バンド整列
異なる半導体を接合すると、それぞれの伝導帯端 と価電子帯端 の相対的位置によって異なるバンド整列(band alignment)が形成される。ヘテロ接合は一般に、I型(straddling)、II型(staggered)、III型(broken gap)の三つの基本的な配置に分類される。[5][6]
I型(straddling)
I型ヘテロ接合では、バンドギャップの小さい半導体の伝導帯端と価電子帯端が、いずれもバンドギャップの大きい半導体の禁制帯の内側に位置する。[5]
したがって、電子と正孔の両方をバンドギャップの小さい材料側に閉じ込めることができる。この性質は、ダブルヘテロ構造、量子井戸、発光ダイオード、半導体レーザーなどで重要である。[1][7]
GaAsをAlGaAsで挟んだ構造は、半導体ヘテロ構造の研究で広く用いられてきた代表的な系である。GaAs層を十分薄くすると、電子および正孔が井戸層に量子力学的に閉じ込められ、離散的な準位が形成される。[8]
II型(staggered)
II型ヘテロ接合では、二つの材料の伝導帯端と価電子帯端が同じ方向にずれた配置となる。[5]
この配置では、最低エネルギーの電子状態と最高エネルギーの正孔状態が異なる材料側に存在することがあり、電子と正孔を空間的に分離できる。このため、キャリア寿命の制御、電荷分離、長波長光デバイスなどに利用される。[5]
一方、電子と正孔の波動関数の重なりが減少すれば、直接的な放射再結合確率が低下する場合もある。そのため、I型とII型では同じ材料の積層構造であっても光学特性が大きく異なりうる。[5]
III型(broken-gap)
III型、またはbroken-gap型では、一方の半導体の伝導帯端が他方の半導体の価電子帯端より低い位置にあり、二つの禁制帯が通常の意味では重ならない。[5][6]
この極端なバンド整列では、界面付近で電子状態と正孔状態が強く結合しうる。[5]
バンドオフセット
伝導帯・価電子帯の不連続
ヘテロ接合の電気的・光学的性質を理解するうえで、 と の決定は中心的な問題である。二つの半導体のバンドギャップ差が既知であっても、その差が伝導帯側と価電子帯側にどのような比率で分配されるかは自明ではない。[2]
バンドオフセットの値は、光電子分光、電気輸送、光学測定などさまざまな方法によって評価されてきたが、界面の組成、結晶方位、歪み、原子配列などの影響を受けることがあり、単純な材料定数だけでは完全には決定できない。[5]
III-V族化合物半導体については、多数の実験値を整理してバンドパラメータやバンドオフセットを共通のエネルギースケール上にまとめたレビューが利用されている。[9]
アンダーソンの法則
ヘテロ接合のバンド整列を推定する初歩的なモデルとして、アンダーソンの法則(電子親和力則、electron-affinity rule)がある。このモデルでは、接合前の二つの半導体について真空準位を基準とし、電子親和力の差から伝導帯オフセットを求め、バンドギャップ差から価電子帯オフセットを求める。[2]
この方法はヘテロ接合のバンド図を概略的に理解するために有用であるが、実際の界面では化学結合、電荷再分布、界面双極子、界面構造などが存在するため、電子親和力だけから高精度にバンドオフセットを予測できるとは限らない。バンド不連続については複数の理論モデルが提案され、実験値との比較が行われてきた。[2][5]
格子整合と格子不整合
格子整合
結晶性半導体どうしのヘテロ接合をエピタキシャル成長によって形成する場合、両材料の格子定数の関係は界面品質を左右する重要な要素となる。[10]
格子定数が同じ、または非常に近い材料の組み合わせでは、界面をまたいで結晶格子を連続的に形成しやすく、高品質な単結晶ヘテロ構造を作製しやすい。この状態を格子整合(lattice matching)という。III-V族化合物半導体では、三元・四元混晶の組成を変化させることによって、バンドギャップを変えながら特定の基板に格子整合させる材料設計が可能な場合がある。[1][9]
ただし、ヘテロ接合を形成するために格子定数が完全に等しいことは必須ではない。格子定数が異なる場合でも、膜厚や成長条件を制御して歪みを利用した構造を形成できる。[10]
格子不整合と歪み
二つの材料の格子定数が異なる場合を格子不整合(lattice mismatch)という。膜の格子定数を 、基板の格子定数を とすると、格子不整合度はしばしば
のように表される。[10]
薄膜が十分薄い場合には、膜自身の本来の格子定数と異なっていても、面内方向の格子間隔を基板に合わせた状態で成長することができる。このような層はコヒーレント層あるいは擬似格子整合層(pseudomorphic layer)などと呼ばれる。このとき薄膜内部には圧縮歪みまたは引張歪みが生じる。[10]
歪みは単に結晶品質の問題であるだけでなく、半導体のバンド構造そのものを変化させる。価電子帯の縮退が解けたり、バンドギャップや有効質量、バンドオフセットなどが変化したりするため、歪みを積極的に利用した歪みヘテロ構造も広く研究されてきた。SiGe/Siはその代表例である。[11]
臨界膜厚と転位
格子不整合をもつ膜を厚く成長すると、蓄積される弾性歪みエネルギーが増大する。ある膜厚を越えると、完全にコヒーレントな状態を維持するよりも、転位を導入して歪みを緩和する方がエネルギー的に有利となる。この膜厚は臨界膜厚(critical thickness)と呼ばれる。[10]
歪み緩和に伴って界面にミスフィット転位が形成されるほか、転位が成長方向へ伸びた貫通転位(threading dislocation)などが生じることもある。これらの結晶欠陥はキャリアの散乱や非発光再結合中心となり、電子・光デバイスの性能を低下させる場合がある。[10][11]
異種基板へのヘテロエピタキシーでは、格子定数だけでなく、熱膨張係数、結晶構造、極性などの違いも問題となる。たとえばSi基板上にGaAs系またはGaN系化合物半導体を成長する場合には、これらの相違に起因する欠陥を抑えるための成長技術が必要となる。[12]
ヘテロ界面
理想的なヘテロ接合では、二つの完全結晶が原子的に急峻な界面で接続していると考えることができる。しかし実際の界面では、原子層レベルの凹凸、組成の相互拡散、偏析、結晶欠陥、界面準位などが存在しうる。[3][5]
量子井戸などの層厚が数nm程度になると、わずか1原子層程度の界面位置の変動であっても閉じ込めエネルギーや電子状態に影響を与える。このため、高度なヘテロ構造では界面の急峻性と平坦性が重要となる。MBEなどの結晶成長技術では、原子層スケールで界面を制御する研究が進められてきた。[3]
また、ヘテロ界面に存在する界面準位や固定電荷はフェルミ準位やバンド曲がりを変化させることがあり、実際のヘテロ接合の電気特性は理想的なバンドオフセットだけでは説明できない場合がある。[5][2]
ヘテロ構造
単一ヘテロ構造
一つの異種半導体界面からなる構造を単一ヘテロ構造と呼ぶことがある。バンドオフセットによって界面の片側にキャリアを閉じ込めたり、特定方向のキャリア輸送を抑制したりできる。[1][7]
ダブルヘテロ構造
バンドギャップの小さい半導体層を、よりバンドギャップの大きい半導体層で両側から挟んだ構造はダブルヘテロ構造(double heterostructure)と呼ばれる。[13]
適切なI型バンド整列をもつ場合には、電子と正孔の双方を中央の活性層へ閉じ込めることができる。また多くの材料系では屈折率差による光閉じ込めも同時に利用できるため、ダブルヘテロ構造は半導体レーザーの発展に大きな役割を果たした。[13]
量子井戸
ダブルヘテロ構造の中央層を電子のド・ブロイ波長と同程度まで薄くすると、成長方向の電子・正孔の運動が量子化され、離散的なサブバンドが形成される。この構造を量子井戸(quantum well)という。[7]
たとえばGaAsの薄膜をより大きなバンドギャップをもつAlGaAsで挟むと、伝導帯および価電子帯のバンドオフセットによってGaAs層にポテンシャル井戸が形成される。十分薄いGaAs層では、キャリアの成長方向のエネルギーが離散化される。[7]
複数の量子井戸を積層したものは多重量子井戸(multiple quantum well, MQW)と呼ばれ、半導体レーザー、発光ダイオード、光変調器、赤外線検出器などに利用される。[7][8]
超格子
非常に薄い異種半導体層を周期的に積層すると、結晶自身の原子周期よりはるかに長い人工的な周期ポテンシャルを形成できる。この構造は超格子(superlattice)と呼ばれる。[7]
隣接する量子井戸間の波動関数が結合する条件では、個々の量子井戸の離散準位が広がり、人工周期に対応したミニバンドとミニギャップが形成される。超格子はバルク結晶には存在しない電子構造を人工的に設計する方法として重要である。[7]
1970年、江崎玲於奈とRaphael Tsuは、半導体の組成または不純物濃度を周期的に変化させて人工的な一次元周期ポテンシャルを作る超格子を提案し、その輸送特性を論じた。[14]
変調ドープと二次元電子ガス
ヘテロ接合を利用すると、キャリアを供給する不純物と、実際にキャリアが移動する領域を空間的に分離することができる。この方法を変調ドープ(modulation doping)という。[8]
代表的なAlGaAs/GaAs系では、バンドギャップの大きいAlGaAs側をドープして電子を供給し、その電子をバンドオフセットによってGaAs側の界面近傍に蓄積させることができる。電子は成長方向には閉じ込められる一方、界面に平行な二方向には自由に移動できるため、二次元電子ガス(two-dimensional electron gas, 2DEG)が形成される。[8]
電子とイオン化ドナーを空間的に分離すると、不純物によるクーロン散乱を低減でき、高い電子移動度を実現できる。この原理はHEMTの基礎となったほか、量子ホール効果をはじめとする低次元電子系の基礎研究にも重要な役割を果たした。[15]
作製法
半導体ヘテロ接合では、異なる材料の界面を結晶学的に高品質かつ急峻に形成する必要がある。このため、デバイス用途のヘテロ構造の多くはエピタキシャル成長によって作製される。[3][16]
分子線エピタキシー
分子線エピタキシー(molecular beam epitaxy, MBE)は、超高真空中で構成元素の原子または分子を基板表面へ供給し、単結晶薄膜を成長させる方法である。[3]
材料供給を比較的高速に切り替えられ、膜厚や組成、ドーピング分布を高精度に制御できるため、量子井戸、超格子、変調ドープ構造などの作製に広く利用されてきた。[3] AlGaAs/GaAs系の高移動度2DEGでは、MBEによる材料純度、界面品質、背景不純物の低減が電子移動度を大きく左右する。[15]
MOVPE
有機金属気相成長法(metalorganic vapor phase epitaxy, MOVPE)は、有機金属化合物などを原料ガスとして基板表面へ供給し、化学反応によって結晶薄膜を成長させる方法である。MOCVD(metalorganic chemical vapor deposition)とも呼ばれる。[16]
III-V族化合物半導体では、急峻な組成変化をもつヘテロ構造を形成できるとともに、大面積基板や多数枚の基板を扱いやすいことから工業的なデバイス製造にも重要である。[16]
異種基板上へのヘテロエピタキシー
同一または格子整合した基板上だけでなく、Si上にIII-V族化合物半導体を形成するなど、性質の大きく異なる基板上へヘテロエピタキシャル成長する技術も研究されている。[12]
この場合、格子不整合、熱膨張係数差、結晶極性などに由来する欠陥を抑制する必要がある。一方で実現できれば、Si集積回路とIII-V族の発光・高速電子デバイスを同一基板上に集積するなど、異なる材料の長所を組み合わせることが可能となる。[12]
デバイス応用
半導体レーザー
ヘテロ接合の初期からの重要な応用の一つが半導体レーザーである。[13]
ダブルヘテロ構造では、バンドギャップの小さい活性層をバンドギャップの大きいクラッド層で挟むことにより、注入された電子と正孔を活性層内へ閉じ込めることができる。さらに屈折率差を利用して光を活性層付近へ閉じ込められるため、キャリアと光の双方を狭い領域へ集中させ、高効率な誘導放出を実現できる。[13]
1960年代に提案・開発されたダブルヘテロ構造レーザーは、1970年前後に室温連続発振が実現され、半導体レーザーの実用化に大きな役割を果たした。後には活性層を量子井戸化した量子井戸レーザー、多重量子井戸レーザー、量子ドットレーザーなどへ発展した。[13][17]
発光ダイオード
発光ダイオード(LED)でも、ヘテロ構造によるキャリア閉じ込めを用いることで、電子と正孔を発光層へ注入し再結合させることができる。また、発光層と周辺層の材料組成を設計することで、発光波長やキャリア閉じ込めなどを制御できる。[12]
III-V族およびIII族窒化物半導体では、量子井戸を含むヘテロ構造が発光デバイスに利用されている。[12]
HEMT
高電子移動度トランジスタ(high-electron-mobility transistor, HEMT)は、ヘテロ接合によって形成される高移動度の二次元電子ガスをチャネルとして利用する電界効果トランジスタである。[18]
典型的なAlGaAs/GaAs HEMTでは、ドナーを含むAlGaAs層から供給された電子がGaAs側へ移動し、ヘテロ界面近傍に二次元電子ガスを形成する。電子が主として移動するGaAs側とイオン化不純物が存在する領域を分離することで不純物散乱を抑え、高い移動度を得ることができる。[18]
HEMTは高速・高周波動作および低雑音特性を特徴とし、マイクロ波・ミリ波増幅器などに用いられてきた。1980年に富士通研究所で最初のHEMTが試作され、1985年には電波望遠鏡用低雑音増幅器、1987年頃には衛星放送受信用低雑音増幅器へ応用された。[19]
HBT
ヘテロ接合バイポーラトランジスタ(heterojunction bipolar transistor, HBT)は、バイポーラトランジスタのエミッタ・ベース接合などに異種半導体接合を用いたトランジスタである。[20]
一般に、ベースよりバンドギャップの大きい半導体をエミッタに用いることで、望ましくない少数キャリアの逆方向注入を抑え、高いエミッタ注入効率を得ることができる。この特性によって、ベースの高濃度ドープや薄層化など、ホモ接合バイポーラトランジスタでは制約される設計を可能にし、高速動作に利用できる。[20]
AlGaAs/GaAs、InGaAsP/InPなどの材料系がHBTに利用されている。[20]
光検出器
ヘテロ構造では、バンドギャップとバンドオフセットを層ごとに設計できるため、光吸収領域とキャリア輸送領域を分離したり、量子井戸中のサブバンド間遷移を利用したりすることができる。[7]
量子井戸型赤外線検出器などでは、ヘテロ接合によって形成された量子化準位を利用して、バルク半導体とは異なる波長選択性を得ることができる。[7]
太陽電池
ヘテロ接合は太陽電池にも利用される。異なるバンド構造を組み合わせることで、光吸収やキャリア分離などを設計できる。Si基板上の化合物半導体を含む太陽電池などへの応用も研究されている。[12]
ヘテロ接合材料の例
歴史
半導体ヘテロ接合の概念は、異なるバンド構造を組み合わせることによってキャリア輸送を人工的に制御するという発想から発展した。[1]
1957年、ハーバート・クレーマーはヘテロ構造を利用するトランジスタの具体的な提案を発表した。これは後のヘテロ接合バイポーラトランジスタにつながる重要な概念となった。[21]
1963年には、アルフョーロフとクレーマーが互いに独立して、ヘテロ構造を半導体レーザーに利用する原理を提案した。AlGaAs/GaAsなどの格子整合性に優れた材料系の成長技術が発展すると、ダブルヘテロ構造によってキャリアと光を閉じ込める半導体レーザーが実現し、1970年前後には室温での連続発振が達成された。[21][13]
1970年には江崎玲於奈とRaphael Tsuが人工的な半導体超格子を提案した。[14] その後、MBEをはじめとする薄膜成長技術の進歩によって、量子井戸、超格子、変調ドープ構造など、電子の量子力学的運動を人工構造で制御する研究が急速に発展した。[7][3]
1980年には三村高志らによってHEMTが実現され、ヘテロ接合を利用した二次元電子ガスが高速・低雑音トランジスタへ応用された。[19]
2000年には、半導体ヘテロ構造の高速電子・光電子デバイスへの発展に対して、ジョレス・アルフョーロフとハーバート・クレーマーにノーベル物理学賞の半分が共同授与された。[4]
二次元材料のヘテロ構造
従来の半導体ヘテロ構造は、三次元結晶どうしをエピタキシャル成長によって接合するものが中心であり、高品質な界面を形成するためには格子整合や歪み、転位などを考慮する必要があった。[1][10]
一方、グラフェン、二硫化モリブデン(MoS2)、WSe2、六方晶窒化ホウ素(h-BN)などの原子層物質を積層したファンデルワールスヘテロ構造(van der Waals heterostructure)では、異なる層の間が主としてファンデルワールス力によって結合する。[22]
このため、従来型の共有結合性結晶界面ほど厳密な格子整合を必要とせず、格子定数や結晶構造の異なる二次元材料を組み合わせた人工ヘテロ構造を形成できる。これにより、バンド整列、層間電荷移動、励起子、トンネル輸送などを利用した新しい電子・光デバイスの研究が進められている。[22]
意義
半導体ヘテロ接合の本質的な特徴は、材料の境界に生じるバンド不連続を利用して、電子と正孔が感じるポテンシャルを人工的に設計できる点にある。[1][2]
単一材料では、バンドギャップ、有効質量、誘電率などの物性値はその材料によってほぼ固定される。これに対してヘテロ構造では、材料組成、層厚、ドーピング、歪み、積層順序などを設計することによって、キャリアの閉じ込め、空間分離、トンネル、量子化、再結合、光閉じ込めなどを組み合わせて制御できる。[1][2]
この考え方は、半導体を単なる均一な物質として利用するのではなく、異なる材料を原子・ナノメートルスケールで配置することによって所望の電子状態そのものを設計するバンドエンジニアリング(band-gap engineering、band engineering)の基礎となっている。[6][2]