ヴァルデンフェルスの哲学的出発点は、フッサール現象学である。教授資格請求論文である『対話の中間領域-E・フッサールに依拠した社会哲学』(Das Zwischenreich des Dialogs. Sozialphilosophische Untersuchungen in Anschluß an E. Husserl, 1971, 邦訳未出版)は、もっぱらフッサール現象学を手がかりにしている。その後、メルロ=ポンティの『行動の構造』、『見える者と見えないもの』を翻訳し、また『身体的な理性-メルロ=ポンティの思考と諸痕跡』(Leibhaftige Vernunft: Spuren von Merleau-Pontys Denken, 1986, 邦訳未出版)を編集し、ドイツにおけるメルロ=ポンティ哲学の紹介で積極的な役割を担っている。80年代までのフランス現象学の全体像を概観する『フランスの現象学』(Phänomenologie in Frankreich, 1983) で分かるとおり、ヴァルデンフェルスほどドイツ現象学とフランス現象学に通暁する論者は稀である。
『応答の目録』(Antwortregister, 1994) では、もはや対話において自己と他者という対照的な関係は見いだせず、問題は自己と異他なるものとの非対称的な関係に移し変えられる。異他なるものは、問うことにおいて、既存の境界づけを乗り越える術がないにもかかわらず、境界を越えて歩み出ようとする「過重な要請」(Überanspruch) を自己に対して突きつける。応答するとは異他なるものを自己に我私化することなく異他なるものに応じる態度である。このような非対称的な関係において、単なるコミュニケーション的な「合意」に回収されることがないような合理性をいかに見いだすことができるか、ということがヴァルデンフェルスの中心的問題である。