ライフヒストリー (社会学)
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ライフヒストリー(生活史)とは、普通の人の視点からその人の人生経験を記録するための聞き取り方法で、社会的に不利な立場にある集団から情報を集める調査によく使われる。1900年代にアメリカ先住民の調査で人類学者が使ったことがはじまりで、社会学者やその他の学者が利用するようになったが、その後この方法の利用は盛衰を繰り返してきた。こうした聞き取り方法の大きな利点は、知的議論では見落とされたり、見えなかったりする社会環境を映し出し、そこにいる人の声を実際に聞けることである。
日本における展開
この調査方法はアメリカ先住民、特に酋長に対する聞き取り調査で最初に使われた。調査対象者の主観的観点から自画像として自分の人生について語ってもらい、消滅しつつある人々や彼らの生き方、暮らしの実像を把握することを目的としていた。
その後、こうした調査方法はシカゴの犯罪者や売春婦に対しても使われ、調査者は対象者の社会との関わりに関する記録や犯罪歴だけでなく、社会全般についての分析を行うとともに、調査対象者に自分の人生について語ってもらった。この調査結果をまとめた報告の内容は、(i)当時のシカゴ (ii)調査対象者が自分の人生をどう捉えていたか(自画像) (iii)社会が調査対象者をどう見ていたか、禁錮の有無、支援の有無、刑務作業の有無などだった。
ライフヒストリー調査が大きく発達したのは1920年代で、それがもっとも明確に現れているのがW.I.トーマスとフロリアン・ズナニエツキによる『ヨーロッパとアメリカのポーランド人移民』である。[1]二人はポーランド人移民に自分のライフヒストリーを書いてもらい、その解釈と分析を行った。マーティン・バルマーによれば、これは「初めて体系的に収集された社会学的生活史」だった。[2]
このアプローチはその後、アメリカ社会学界で定量法が盛んになり廃れたが、1970年代になると再びよく使われるようになった。これは主に、社会学者ダニエル・ベルトーとポール・トンプソンの研究によるもので、彼らのライフヒストリー調査ではパン屋や漁師といった職業を対象にしていた。この他、ドイツやイタリア、フィンランドでも大規模なライフヒストリー調査が実施された。
ドイツでは、ライフヒストリー調査は伝記的調査とナラティブインタビューの発達と関連性が深い。ナラティブインタビューとは、語りを通して相手の考えなどを自由に引き出す実証的社会研究における聞き取り方法として1975年頃にドイツで発達した。現象学(アルフレッド・シュッツ)やシンボリック相互作用論(ジョージ・ハーバード・ミード)、エスノメソドロジー(ハロルド・ガーフィンケル)、知識社会学(カール・マンハイム)の概念を借りている。この方法の発達と改良は、ビーレフェルト社会学者作業グループに属していたドイツの社会学者フリッツ・シューターに負うところが大きい。同グループはアービング・ゴフマン、ハービー・サックス、ジョン・ガンパーツ、アンセルム・ストラウスはじめとするアメリカの社会言語学者や社会科学者との緊密な学術協力を維持した。[3]ライフヒストリーの分析法は、ドイツの社会学者ガブリエル・ローゼンタールがライフヒストリーとライフストーリーの分析で利用した事例再構築法によってさらに発展した。[4]ローゼンタールは語られたライフストーリーと経験したライフヒストリーの分析レベルを区別している。[5]
ドイツにおける議論と同様に、日本でも語られた物語(ライフストーリー)の解釈をめぐる方法論的議論が展開されている。特に桜井厚が提唱した対話的構築主義は、日本のライフストーリー研究に大きな影響を与えてきた。このアプローチは、語り手と聞き手の「対話」を通じて、個人の経験がどのように「構築」されるかを分析するものである。
しかし、この方法論は岸政彦らから、語りの「事実性」を軽視し、社会構造や歴史的文脈から切り離してしまうのではないかとの批判も受けてきた。これに対し、社会学者の堀内翔平は、こうした批判の一部が「構築主義」という言葉の捉え方から生じる「誤読」や認識論的な「すれ違い」であると指摘する[6]。堀内によれば、対話的構築主義におけるライフストーリー研究の独自の可能性は、既存の社会からは逸脱した「例外的な個人」の語りに着目し、そこから社会変動の「兆し」を読み解く点にある。このアプローチは、ライフストーリーを単なる過去の記録ではなく、未来の社会像を洞察するための方法論として位置づけるものである[6]。
テクニック
この調査方法では、研究者の決める条件に従うのではなく、調査対象者の思うがままに自分の人生を語ってもらう。[7]通常は幼少時についての聞き取りから始め、時系列的に現在までの人生について話してもらう。この他、前述のポーランド人移民についての調査で使われ始めた方法のように、調査参加者に自分のライフストリーを書いてもらうアプローチもある。これはコンクール形式にするものもあれば(ポーランド、フィンランド、イタリア)、参加者全員に同時に書いてもらったものを集める方法をとる場合もある。こうした国々には、ライフストーリーを収集したものがすでに多数あり、研究者はこれを利用することができる。
出典
- ↑ 『The Polish Peasant in Europe and America』1918年。
- ↑ 『The Chicago School of Sociology: Institutionalization, Diversity, and the Rise of Sociological Research』University of Chicago Press、1986年、54頁。ISBN 978-0-226-08005-5。
- ↑ 『Das ist Soziologe sein!』2015年12月、35-53頁。
- ↑ 『Interpretive Social Research: An Introduction』Gottingen University Press、2018年。ISBN 978-3-86395-374-4。
- ↑ 『Reconstruction of Life Stories: Principles of Selection in Generating Stories for Narrative Biographical Interviews』1993年、59-91頁。
- 1 2 堀内翔平「ライフストーリー研究から見える社会像――対話的構築主義の「誤読されやすさ」をめぐって――」『現代社会学理論研究』第19巻、2025年、78–91頁。
- ↑ Boatema Boateng『The Copyright Thing Doesn't Work Here: Adinkra and Kente Cloth and Intellectual Property in Ghana』University of Minnesota Press、2011年。ISBN 978-0-8166-7002-4。
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