ジンポー族
ミャンマー北部を中心に居住する民族
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名称と呼称
「ジンポー(Jinghpaw)」と「シングポー(Singpho)」の綴りの差異は、同一の音節に対するミャンマー側とインド(アッサム)側の方言差(摩擦音と破擦音)に由来する。19世紀の宣教師N・ブラウンが1837年にアッサムで記録したシングポー語の語彙リストは、現在のミャンマー側のジンポー語話者にも理解可能であることが確認されており、両者が本来同一の言語・文化集団であることを示す証拠とされている[2]。
なお「カチン(Kachin)」はイギリス植民地当局が行政的に採用した他称であり、ジンポー族を含む複数の言語集団(ラワン族・リス族・ザイワ族・マル族・ラシ族・アツィ族など)を包括する行政的・民族政治的カテゴリーである(cf.カチン族#民族構成)[3]。
社会構造
ジンポー族は父系の血統を重視し、有力な5大氏族(マリプ・マラン・ラパイ・ンクム・ラッタウ)を中心とする明確な氏族(アミュー〈amyu〉)制度を持つ。各氏族はさらに「ラクン(枝)」「ラキイン(小枝)」という下位血統に細分化されている[4]。
婚姻制度の核心をなすのがマユ・ダマ関係である。妻を与える側の氏族(妻方)を「マユ(Mayu)」、妻を迎える側(夫方)を「ダマ(Dama)」といい、夫方は多額の結納品を妻方に贈る義務を負う。同氏族間の婚姻(同族婚)は厳格なタブーとされ、家督および財産は末子が引き継ぐ末子相続の慣習がある[5]。
伝統的な政治体制は、世襲首長(ドゥワ)が支配する階層的なガムサ(Gumsa)と、首長制に反発した平等主義的なガムラオ(Gumlao)の二類型の間を歴史的に循環してきた[6]。
宗教
伝統的な信仰は祖先・精霊信仰(アニミズム)であり、祭壇によって先祖を奉る風習がある。20世紀以降、欧米のバプテスト派やカトリックの宣教活動によりキリスト教が広まり、現在のミャンマーのカチン族(ジンポー族)ではキリスト教と伝統的な精霊信仰が併存している。カチン語は政府の公教育では使用されないため、子どもは教会でカチン語の習得を行っており、このことがキリスト教の社会的定着を支える重要な要因となっている[2]。
一方、インドのシングポー族は近隣のタイ・カムティ族の影響などから上座部仏教やアニミズムを信仰する者が多く、中国のジンポー族でも歴史的に欧米宣教活動が定着しにくい環境が続いたが、文化大革命後の1980年代以降にキリスト教が急速に復興した[2]。
居住地域と法的地位
同一の言語・親族・文化的紐帯を持つジンポー族は、植民地支配と第二次世界大戦後の国境線の固定化により、現在は四つの国家に分断されて居住している[2]。
- ミャンマー:カチン州・シャン州北部を中心に居住し、「カチン族(ウンポーン)」として国内の8大国民種族(タインインダー)の一つに数えられる。
- 中国(雲南省):徳宏タイ族景頗族自治州を中心に約13万人が居住する(2000年国勢調査)。中国では独立した少数民族として管理されており、ミャンマー側の「カチン(ウンポーン)」という包括的な概念は定着していない。
- インド(北東部):アッサム州・アルナーチャル・プラデーシュ州に「シングポー族」として約1万人が居住し、インドの645指定部族の一つに数えられる。
- タイ(北部):チェンマイ県北部のバン・マイ・サマッキー村を起点とするコミュニティが存在し、タイ政府から「山地民(Hill Tribe)」として公式認定されている。