ル・シッド (マスネ)
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『ル・シッド』(フランス語: Le Cid)は、ジュール・マスネの作曲したオペラ。『シッド』とも表記される。ピエール・コルネイユの同名の戯曲『ル・シッド』を原作とし、台本はルイ・ガレ、エドゥアール・ブロー、アドルフ・デヌリによる。1885年11月30日にパリ・オペラ座で初演された[1]。
1877年初演の『ラオールの王』(Le Roi de Lahore)でオペラ作曲家として認められたマスネは、オペラ=コミック座初演の『マノン』、国民劇場でフランス初演された『エロディアード』(Hérodiade) [注釈 1]と次々に人気作を生み出していた[2]。その中、1883年6月に計画が動き出した本作は『ラオールの王』と同じくルイ・ガレの台本を用い、オペラ座での上演を前提としたグランド・オペラとして書かれた。マスネによるマイアベーア風のグランド・オペラの制作はこれが最後となった[2]。なお、マスネは本作でグランド・オペラの定型を踏まえながらも、常套的手段に霊感を与えている[3]。
この作品のもととなったロドリーゴ・ディアス・デ・ビバール(『エル・シッド』El Cid)の物語はオペラの題材として高い人気があり[注釈 2]、ジェイムズ・ハーディングによれば、マスネはこの題材を扱った史上27人目の作曲家だった[5]。ガレとブローは1873年前後にも同じ題材に基づく『ドン・ロドリーグ』(Don Rodrigue)と題した台本をジョルジュ・ビゼーのために提供していたが、この作品は未完に終わり、彼らはその一部をマスネのための台本に転用している[6]。
1885年11月30日にオペラ座で初演された作品は成功を収め、1919年にはオペラ座での150回目の公演を迎えたが、その後、主に配役の難しさによって取り上げられる機会は減っている[2]。ロドリーグ役の経験があるプラシド・ドミンゴは、「正しく演じられれば非常に大きな劇的可能性を持つ」としながらも、「上演には対価が大きく、また非常に難しい作品」という[7]。
初演を評したヴィクトル・ヴィルデル(Victor Wilder)はグランド・オペラ特有の効果や鋭い対比を操るマスネの技量を評価している[8]が、グランド・オペラの様式に則ったマスネの作品はこれが最後となった。これについて新グローヴオペラ事典は「この台本のスケールをとらえるのに十分な才能が」マスネにあったとし、作品の優れた部分を挙げつつも、英雄的な声の歌手やグランド・オペラ的な大仕掛けよりも「もっと身近な題材を扱うほうが、明らかに彼の性に合っていた」と述べる[2]。
永竹由幸は本作について「豪華絢爛たる中世絵巻であり、『エスクラルモンド』と並んで、どうしてレパートリーから消えてしまったのか理解に苦しむ名曲である。マスネの作品の中では、どちらかというとヴェルディの影響の強い曲で、ドラマティックな盛り上がりが素晴らしい」と評している[9]。
アメリカ初演は1890年2月17日にニューオーリンズのフレンチ・オペラ・ハウスで、行われた。出演はマキシマン・ドーリアック、ベレッタ、マリー、サン=ジャン、バルロワ、ジェフリーロッシらであった[10]。
配役
| 人物名 | 原名 | 声域 | 説明 | 初演時の配役 (指揮者) (エルネスト・アルテス) |
|---|---|---|---|---|
| ロドリーグ (ル・シッド) | Rodrigue (Le Cid) | テノール[注釈 3] | ドン・ディエーグの息子 | ジャン・ド・レシュケ |
| シメーヌ | Chimène | ソプラノ・ドラマティコ | ゴルマ伯爵の娘 | フィデス・デヴリエス |
| 王女 | L'infante | ソプラノ | スペインの王女 | ローザ・ボスマン (Rosa Bosman) |
| ドン・ディエーグ | Don Diègue | バス[注釈 4] | ロドリーグの父 | エドゥアルド・ド・レシュケ |
| 王 | Le Roi | バリトン[注釈 5] | スペイン国王 | レオン・メルシセデック |
| ゴルマ伯爵 | Le Conte de Gormas | バス[注釈 6] | シメーヌの父 | ポル・プランソン |
| 聖ジャック (聖ヤコブ) | St. Jacques | バリトン | - | ランベール (Lambert) |
| ムーア人の使者 | L'envoyé Maure | バスもしくはバリトン | - | バレロワ (Balleroy) |
| ドン・アリアス | Don Arias | テノール | - | ジラール (Girard) |
| ドン・アロンゾ | Don Alonzo | バス | - | サンテン (Sentein) |
| 合唱:紳士淑女たち、司教と神父・僧侶たち、兵士たち、民衆 | ||||
- バレエ団[注釈 7]
楽器編成
上演時間
第1幕:約50分、第2幕:約55分、第3幕:約35分、第4幕:約20分 合計:約2時間40分
あらすじ
時と場所

フランス・オペラには珍しい、型通りのソナタ形式による序曲がおかれている。
第1幕
第1場
- ゴルマ伯爵の館のサロン
伯爵、ドン・アロンツォ、ドン・アリアスと貴族、騎士たちが集まって、ムーア人を退却させた英雄であるロドリーグが騎士の称号を与えられることに噂している。彼は若すぎると主張する者に対し、伯爵は「彼は勇敢な軍人であり、決して早いとは言えない」と反論する。人々は「次は伯爵が近衛隊長に任命されるだろう」と言うと伯爵も「そうなれば、嬉しい」と漏らす。ロドリーグが騎士になることが決まり、式典の準備が進んでいる。シメーヌが登場し、ロドリーグを愛していることを父親のゴルマ伯爵に伝えて祝福される。王女が現れ、彼女もロドリーグを愛しているが身分違いのために身を引き、シメーヌを祝福し、〈二重唱〉「疑いをわたしの心のなかにとどめておいてください」(Mets la main sur mon coeur)を歌う。
第2場
- 王宮へ通じる回廊と大聖堂の入口
王はロドリーグを騎士に任じることを民衆の前で宣言し、ロドリーグは授かった剣を手に喜びを歌う〈アリア〉「高貴なる輝く剣よ」(O noble lame étincelante)[注釈 9]。王はロドリーグに教会へ行くよう命じる。続けて王は、残った貴族たちの目で、ドン・ディエーグを皇太子の近衛隊長に任じることを発表する。ドン・ディエーグ伯爵に自分の息子と貴方の娘の結婚を通じて仲良くやろうと手を差し伸べる。しかし、自分が選ばれるものだと考えていたゴルマ伯爵は憤慨し、「汝の息子にはもっと相応しい相手がいるだろう」と拒否する。さらに、伯爵はドン・ディエーグの名誉は年功によるもので、実際の手柄は自分がたてた」と主張し、ドン・ディエーグを侮辱、嘲笑して立ち去る。ドン・ディエーグは復讐を誓い〈アリア〉「怒り」(O, rage)、ロドリーグにゴルマ伯爵への報復を託す。恋人の父親と戦わなければならないことにロドリーグは苦しむ。教会から出てきたシメーヌは何も知らずに、永遠の愛を誓って立ち去る。ロドリーグは父と共に復讐の宣誓をする。
第2幕
第1場
- 夜、伯爵の家の近く、ブルゴスの路上

思い悩みながらも伯爵家を訪ねたロドリーグはゴルマ伯爵と決闘し、相手を殺してしまう。ドン・ディエーグは復讐が果たされたことを喜ぶが、ロドリーグは何と言う取り返しのつかないことをしてしまったのだろうと後悔する。伯爵家の人々は伯爵の亡骸を館へと運ぶ。そこへ駆けつけてきたシメーヌは、ロドリーグの様子から彼が父を殺したことを察する。奥からレクイエムの合唱が聞こえてくるのだった。
第2場
- ブルゴスの王宮の前の広場
民衆は踊りながら春の訪れを喜び、王女を賛美する[注釈 10]。シメーヌが駆け込んできて、父を殺したロドリーグへの裁きを王へ乞う。ドン・ディエーグは自分が身代わりに罰せられようとし、場は混乱に陥るが、そこに伝令が現れ、ムーア人からの再びの宣戦布告を伝える。ロドリーグは、裁きは戦いの後にし、敵を倒すために出陣させてほしいと願い出る。
第3幕
第1場

- 夜、シメーヌの部屋
父親と恋人を同時に失った悲運を嘆くシメーヌのハミングの合唱付きの〈アリア〉(「わたしの目よ、涙を流しなさい」Pleurez, pleurez, mes yeux)が歌われる。そこへ別れを告げにロドリーグが現れる。二人の長い二重唱となり、シメーヌは怒りで応えるが、変わらぬ愛を伝えるロドリーグに、彼女は恨みの気持ちと愛情の間で混乱していく。死を覚悟しているというロドリーグに最初は死ぬがよいと伝えるが、彼の偽らざる言葉に心を動かされ、生きて帰るように叫び、貴女を許すことは自分の恥辱になると言い、逃げ去って行く。シメーヌの愛を確信したロドリーグ戦場に向かう。
第2場
- ロドリーグの陣営
歌い騒ぐ兵士のもとにロドリーグが現れ、敵は我が軍の数倍の数であるため、不利な戦いを強いられるとなる。命が惜しい者は逃げても構わない、怯える一部の兵士を逃がし、精鋭のみを選抜し、翌朝の戦いに向けて兵士を休ませる。
第3場
- ロドリーグのテントの中
ロドリーグは勝利を祈る〈アリア〉「君主よ、神よ、父よ」(O souverain, ô juge, ô père)を歌う。そこへ光とともに聖ジャックの姿が現れ、願いが聞き届けられ、「汝、勝者たるべし」との合唱が聞こえ、啓示が下される。
第4場
- 朝、再びロドリーグの陣営
兵士たちは「死は覚悟のうえだ」と戦いに向けて奮い立っている。勝利を確信したロドリーグが〈アリア〉「高貴なる輝く剣よ」(O noble lame étincelante)を再び歌って、出陣していく。
第4幕
第1場
- グラナダの王宮の広場

ロドリーグが戦死したとの報を聞き、ドン・ディエーグは罪人として死ぬより英雄として死んだ方が良いと〈アリア〉「息子は死んでしまった」(Ainsi, mon fils est mort!)歌い、シメーヌもそこへやって来て、彼の死を嘆き悲しむ。しかし、王が現れて、ロドリーグが生還したと告げると、二人は喜ぶ。
第2場
- グラナダの王宮の中庭
勝利を収めたロドリーグは歓呼の声に迎えられる。改めて裁きを乞うロドリーグに、王はシメーヌ自らが裁くことを命じる。ためらうシメーヌを見てロドリーグは自裁しようとするが、シメーヌはロドリーグを許し、彼を愛していることを告白する。結ばれた二人は一同に祝福される[注釈 11]。
バレエ音楽
初演時の衣装
主な全曲録音・録画
| 年 | 配役 ロドリーグ シメーヌ ドン・ディエーグ 王女 王 ゴルマ伯爵 |
指揮者 管弦楽団および合唱団 演出家 |
レーベル |
|---|---|---|---|
| 1976 | プラシド・ドミンゴ グレース・バンブリー ポール・プリシュカ エレノア・バーグクイスト ジェイク・ガードナー アルノルド・ヴォケタイティス |
イヴ・クウェラー ニューヨーク・オペラ管弦楽団 バーン・キャンプ・コラール |
CD: EAN:5099707930029 |

