予想 (数学)
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予想(よそう、英: conjecture)とは、数学において、真であると考えられているが、まだ厳密な証明も反証も与えられていない命題をいう。予想は、具体例の観察、計算機実験、既知の結果との類推、理論的統一への見通しなどを背景として提出されることが多く、数学研究の発展を方向づける重要な役割を果たしてきた。[1]
数学史上の重要な予想は、しばしば新しい理論や方法の成立を促してきた。たとえばフェルマーの最終定理は長く未解決の予想として扱われたが、1995年にアンドリュー・ワイルズの業績によって証明された[2]。ヴェイユ予想は代数幾何学の発展に大きな影響を与え、その重要部分はピエール・ドリーニュによって証明された[3]。
予想は、単なる思いつきではなく、一定の数学的根拠を伴って提起されるのが通例である。ある性質が多数の事例で成り立つとき、あるいは複数の定理が一つの一般原理によって統一されると期待されるとき、数学者はその内容を一般的命題として定式化することがある。もっとも、どれほど多くの支持例が見つかっても、それだけでは全称命題の真偽は決定されない。一方で、一つの反例が見つかれば予想は否定される。[4]
予想は研究を組織する機能ももつ。よい予想は、個別の結果を見通しのよい枠組みに位置づけ、どの方向に新理論を構築すべきかを示す指針となる。この意味で予想は、未解決問題であるだけでなく、研究計画や方法論の中核となることがある。[1]
歴史
数学における予想は古くから存在したが、近世以降、それが数学研究を方向づける中心的な装置として前面に現れるようになった。17世紀のピエール・ド・フェルマーによる主張は、のちにフェルマーの最終定理として知られる長期未解決問題となり、[5] 18世紀にはゴールドバッハ予想のような簡潔で強い命題が数論研究の焦点となった。[6]
19世紀には、予想は個別問題にとどまらず、数学全体の構造を見通す指標としていっそう重要になった。1859年のベルンハルト・リーマンによるゼータ関数研究の中で述べられたリーマン予想は、素数の分布に関わる中心問題として以後の解析的整数論を方向づけた。1900年にはダフィット・ヒルベルトが23の問題を提示し、未解決問題や予想を数学の将来を方向づける公的課題として示した。[7][8]
20世紀には、大規模な予想が新しい分野の形成そのものを促す例が目立つようになった。アンドレ・ヴェイユの提起したワイル予想は、有限体上の代数多様体のゼータ関数に関する深い主張であり、その証明過程は代数幾何学の発展と深く結びついた。[3] また、1904年に提出されたポアンカレ予想は20世紀を通じて位相幾何学の中心問題の一つであり続けた。
他方、20世紀の数学基礎論は、予想の地位そのものに新たな観点をもたらした。たとえば連続体仮説のように、標準的な公理系に対して独立であることが示される命題が現れ、すべての未解決命題が単に「まだ証明されていない予想」として理解できるわけではないことが明らかになった。[9]
20世紀後半から21世紀にかけては、計算機の発達によって予想の形成と検証の様式も変化した。四色定理は19世紀以来の問題であったが、1976年に計算機援用による証明が与えられ、その後には定理証明支援系を用いた形式化証明も達成された。[10] また、21世紀に入っても大規模な未解決問題群は数学研究の象徴的焦点であり続けている。[11]
予想の解決
証明
予想が厳密な証明を与えられると、それはもはや予想ではなく定理となる。フェルマーの最終定理、ワイル予想、ポアンカレ予想はその代表例である。フェルマーの最終定理は、楕円曲線と保型形式の理論を結びつける研究の進展の中で証明され、ワイル予想の証明は代数幾何学、とくにエタール・コホモロジーの発展と深く結びついている。[2][3]
反証
予想は、一般に一つの反例によって反証される。反証された予想は、数学史の文脈では誤った予想として位置づけられるが、その過程で得られた反例や失敗の分析は、命題の成立条件を明確にし、より精密な定理や新たな予想を生み出す契機となることがある。[12][4]
独立
ある命題が採用した公理系からも証明できず、また反証もできないことが示される場合、その命題はその公理系から独立であるという。このような命題は、通常の意味で単に未解決であるのではなく、当該公理系の内部では決着しないことが判明したものと理解される。代表例として連続体仮説がある。[9]