別離 (漫画)

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別離』(べつり)は、つげ義春による日本漫画作品[1]1987年昭和62年)、『コミックばく』(日本文芸社)13号および14号に前後編として掲載された[2]。本作を最後に、つげは漫画作品の発表を休止しており、実質的な絶筆(最終作)と見なされている[3]

リアリズム

本作は、つげ50歳の時の作品。つげの「私小説」的作風が極まった作品であり、自身の内縁であった女性との2年間の同棲生活の破綻、葛藤絶望を描いたものである[2]。それまでの『無能の人』シリーズに見られた諧謔ユーモアは影を潜め、冷徹なまでのリアリズム虚無感が全編を支配している点が特徴である[4]。初出時のタイトルは「別離」であったが、後に同名の短編集の表題作として収録された[5]

同じ女性との同棲生活を描いた『チーコ』で描いた主人公や相手の女性とは全く性格を異にして描かれている。女性は『チーコ』では性格はきつくても純情な面をも持ち合わせたように描かれ、が飛んでいき最後には別離を暗示するようには描かれながらも甘さがあったがそれも消えてひたすら暗くリアルに描かれる。つげ自身は、『別離』のほうが真実に近いと述べ、『チーコ』を描いたときには自分はまだ若く、若さと甘さ、ロマンがあった。50歳になり、人生の錯覚幻想を一切剥ぎ取り、徳田秋声のように赤裸々に描きたい気持ちが強まった。しかし、一方でディテールのリアリティのある描写に関しては創作が相当含まれ、事実と誤解されやすいが、それでもかまわないとも述べている[2]

作中には、国子が他の男と1日にセックスを何回したのか主人公が詰問する場面が描かれ、「1回なら許せるが4,5回じゃ、もうダメだと思った」という箇所があるが、権藤晋は「つげさんって助平だな、と思わてもいいわけですね?」と問われ、「そういうとこ、ウソ描けるんです」と答えている[2]

続編

この作品は現在のところ絶筆にはなっているが、当初はすでに1本、ストーリーは作っていた。そこで一度別れた男女は再会し、一緒には棲まないがまだ関係は続くという展開になっていた。権藤に描かない理由を聞かれ、「自分は、金があれば描かないんですよ」と答えている。創作意欲などというものはなく、生活さえできればいい。『義男の青春』は注文なしで描いたため、売り込みやすいようにエンターテイメントの要素を入れたが、今は状況が変わり何を描いても許されるから、遠慮なく暗さをまき散らしてやろうと思っているなどと語っている[2]

あらすじ

漫画家のぼくは、2年間同棲した国子と別居することになった。家賃滞納アパートを追い出されたからだ。しばらくして国子に会うが、すでに恋人がいた。しかも妊娠しているかもしれないという。さらには、相手はその恋人ではなかった。謝る国子を前にぼくは卒倒しそうになる。国子と別れて下宿に戻ると、ブロバリンを大量に飲んだ。下宿の飼い犬に「バイバイ」とこの世の別れの挨拶をする。その後の記憶はなくなった[1]

背景と制作

作者のつげ自身、本作の執筆当時は重度の不安神経症や体調不良に苦しんでおり、担当編集者に対し「もう描けない」と繰り返し漏らしていた[6]

つげは後年のインタビューで、「この作品で描くべきことは描き切った」という趣旨の発言を残している[7]

評価

  • 漫画評論家の夏目房之介は、本作における風景描写がもつ「圧倒的なまでの静寂と拒絶感」を高く評価している[8]
  • 作家の川本三郎は、本作を「一組の男女の終わりの風景をこれ以上なく美しく、そして残酷に描いた傑作」と評した[9]
  • 精神医学の観点からも、病者の心理と介護者の疲弊を冷徹に描き出した記録文学的価値が指摘されている[10]

脚注

参考文献

関連項目

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