収用
公権力が私有財産を強制的に取得すること
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収用(しゅうよう。英: expropriation)または接収(せっしゅう)は、公権力による強制的な動産または不動産の差し押さえ、公的機関が私有財産を強制的に取り上げること[1]である。
例えば、戦時中には食料や動物を所有者から没収することがありえる。土地の場合は土地収用と呼ばれる。国有化(アメリカ英語: Nationalization、イギリス英語: Nationalisation)の一種でもある。また、刑事手続きにおける制裁として行われる場合もある[2]。
マルクス主義・アナキズムなどにおいては、「搾取」している者(ブルジョワジー)への「収奪(しゅうだつ)・略取(りゃくしゅ)(expropriation)」が革命的行為として論じられ、ウラジミール・レーニンらボリシェヴィキや違法主義アナーキストのボノー・ギャングたちはexpropriationと称して銀行強盗・殺人を含む略取を実際に行った[3][4][5][6]。
エミネント・ドメイン、公用収用
英米法において収用(expropriation)は、接収された財産に対して所有者に補償が支払われないという点で、エミネント・ドメイン(eminent domain)(公用収用 ・土地収用)とは異なる。
イギリス法・アイルランド法ではcompulsory purchase (強制購入)という概念もある。
公用収用 (公用徴収)は、公共事業の用に供するために財産権を強制的に取得することであり、公用負担の一種である[7]。日本では私有財産制を憲法が保障している以上、無補償での財産収用は許されないので、公用収用によって財産権者が被った損失に対して公的負担の平等の点から補償(損失補償)がなされる[7]。1951年の土地収用法では、日本国憲法第29条3項の「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」との規定に基づき、土地収用および損失補償などについて定められた。
また、収用には、特定の状況下で財産を接収する権限を政府から付与された民間主体による私有財産の接収が含まれる場合もある。
海外事業の政治的リスク
各国が国際事業・海外事業を行う際には政治的リスクが伴うため、投資家にとっては、事業を展開する各国の収用リスクや関連法規を理解しておくことが重要である[8]。
エストニア
マルクス主義・アナキズムにおけるエクスプロプリエーション (収奪)
マルクスとエンゲルス
エクスプロプリエーションという用語は、マルクス主義では「収奪」と訳される。カール・マルクスの『資本論』(1867年)における「収奪者(支配階級)が収奪される。」が有名である。
なお、フリードリヒ・エンゲルスは社会主義の戦略としての国有化に懐疑的だった。
まさにそこに難点がある。有産階級が主導権を握り続ける限り、国有化は決して搾取を撤廃するものではなく、単にその形態を変えるにすぎないからだ。それは、君主制の中欧や専制的な東欧においても、フランス、アメリカ、スイスといった共和国においても変わらない。—Friedrich Engels、Letter from Engels to Max Oppenheim, 24 March 1891
クロポトキンの略取
ピョートル・クロポトキンは『反乱者の言葉』(1885年)で、略取 (Expropriation)を革命の指針として主張した[13]。
クロポトキンによれば、ブルジョワジーは戦争にともなう革命が近づいていることを理解しており、暴力による抵抗の準備を整えており、彼らは自らの支配を維持するためなら、必要とあらば10万、20万の労働者を、さらには5万の女性や子供を虐殺する覚悟でいる[13]。そのことは、1791年[15]のシャン・ド・マルスの虐殺、1831年のリヨン (カヌの反乱)、1848年のフランス革命と1871年のパリ・コミューン)が証明している[13]。自らの資本と、怠惰や放蕩にふける権利を守るためなら、ブルジョワジーはいかなる手段も正当化するとクロポトキンは述べる[13]。
こうしたブルジョワジーに対して、アナキストも武力闘争を準備しなければならないが、重要なのは、人間による人間の搾取を廃止すること、一部の人々の怠惰な生活と、他方の人々の経済的・知的・道徳的な隷属状態から生じる不正、悪徳、犯罪に終止符を打つことである、と主張する[13]。アナキストは「完全な解決策を導き出す歴史的必然性を担っており、我々はその任務を引き受けなければならない」としたうえで、略取と無政府状態(アナーキー)こそ解決策であるとする[13]。
抑圧された大衆を満足させうるのは、全面的な略取だけだ。(…)私有財産を廃止し、すべてを万人に還元していくために、略取は大規模に行われなければならない。小規模であれば、それは単なる略奪と見なされるが、大規模に行われれば、社会の再編成の始まりとなる。(…)[16]革命の日が訪れたとき、地域、大都市、郊外が政府の支配を脱したとき、我々のなすべきことは明確である。あらゆる工場やその他の施設は共同体に還元される。個人が占有していた財産は、その真の所有者である「我々全員」の手に戻される。(…)あらゆる生産物、すなわち人間が蓄積し利用してきたすべてのものは、万人の共同作業の産物であり、その唯一の所有者は人類である。私有財産とは、万人の富に対する意識的あるいは無意識的な「窃盗」にほかならない。このことを明確に認識し、決算の時が訪れたならば、共同の利益のためにそれを喜んで我がものとすべきなのだ。(…)[17]万人がすべてを共有するようになれば、もはや盗みなど存在しえなくなる。「取れ。これらすべては君たちのものだ。君たちが必要とするものなのだ」。しかし、打ち倒すべきものは即座に破壊せよ――囚人のための要塞や監獄、市民に向けられた監視砦、長い間毒気を含んだ空気を吸わされてきた不衛生な居住区を。宮殿や邸宅に居を構え、かつて自分たちの住処だった煉瓦や虫食いだらけの木材の山は焚き火にくべてしまえ。破壊の本能とは、再生への衝動でもある[18]。それがゆえに極めて自然で正当なものだ。破壊の本能は、多くの破壊すべきもを見出すことだろう。取り替えるべき古びたものが、あまりにも多くあるのだから!家屋、都市全体、農業や工業の施設、つまり、社会のあらゆる物質的側面を、作り直さねばならないのだ。[19] — ピョートル・クロポトキン『反乱者の言葉』(1885年)[13]
ボリシェヴィキのエクスプロ(強制収奪)
アナキスト(無政府主義者)のピョートル・クロポトキンは『反乱者の言葉』(1885年)でエクスプロプリエーション=収奪論を提唱し、「エクスプロプリエーション」と称した強盗などの財産奪取がロシアでも1906年にはロシア全土で頻発した[20]。
1907年、ボリシェヴィキの活動資金が足りなくなったと感じたレーニンはレオニード・クラーシンとヨシフ・スターリンに命じて強盗集団を組織し、「エクスプロ(強制収奪)」と称して、銀行、蒸気船ニコライ一世号の金庫、郵便局、鉄道の駅を襲い、金品を奪っていった[21]。この「エクスプロ」はエクスプロプリエーション (expropriation、収奪)の略称であり、マルクス『資本論』の「収奪者が収奪される」にちなんだものだった[12]。
1907年春のロンドンでの第五回ロシア社会民主労働党党大会では、レーニンらの「エクスプロ (強制収奪)」が争点となり、ユーリー・マルトフはこれはボリシェヴィキのための資金集めであり、(ロシア社会民主労働党にとっては)泥棒行為だと非難した[22]。レーニンはあざけりながら、戦闘集団による革命のための用意だと強盗を正当化した[22]。しかし、大会では収奪は禁止された[6]。
その数週間後の1907年7月、ボリシェヴィキ強盗団はグルジアの首都で現金輸送馬車を襲撃し、国営銀行の現金を強奪した(1907年チフリス銀行強盗事件)[4]。ボリシェヴィキは、25万[5] - 34万1000ルーブリ[23](現在では400万米ドル以上)を持ち去り、15人の通行人が巻き添えで死亡し、50人が重傷をおった[6]。これはヨーロッパの革命政党も動揺した[6]。レーニンは表向きは距離をとっていたが計画の詳細を承知し、承認していた[24]。盗んだ紙幣はヨーロッパ各地で両替されたが、紙幣の番号を追跡され、十数人の党員が逮捕された[24]。
正規の社会民主党の党費による収入は毎月100ルーブル程度にすぎなかったが、こうした「収奪(収用)」によってボリシェヴィキは首都とモスクワの組織に毎月1000 - 5000ルーブルを渡すことができ、勢力を伸ばしていった[25]。
違法主義アナーキストのエクスプロプリエーション (略取)
違法主義アナーキストのボノー・ギャングは、1911年から1912年にかけてフランス・ベルギーで「エクスプロプリエーション(expropriations、収奪、略取)」と称して銀行強盗・殺人を行った[3]。
ロシア革命
ロシア革命期には「略奪者から略奪せよ!」("грабь награбленное")というスローガンが広く流行した[26] このエクスプロプリエーションという用語は、ソ連におけるクラーク撲滅運動や農業集団化などといった、共産主義国家による国有化キャンペーンを指す際にも用いられる[27]
ニコライ・ブハーリンは国有化(nationalisation)の代わりに国家化(statisation)という用語を好んだ。[28]。ブハーリンはまた、「ブルジョア的国有化とプロレタリア的国有化を厳格に分離しなければならない。ブルジョア的国有化は国家資本主義の体系をもたらす。プロレタリア的国有化は、国家形態の社会主義へと導く。プロレタリア独裁がブルジョア独裁の否定であり対極であるのと同様に、プロレタリア的国有化も、ブルジョア的国有化の否定であり全く正反対である。」と論じた[29]。
関連項目
- 国有化 (英語: Nationalization、Nationalisation)
- エミネント・ドメイン eminent domain(公用収用 ・土地収用) - アメリカ法
- en:Compulsory purchase order - compulsory purchase (強制購入) - イギリス法・アイルランド法
- 不動産復帰 - コモン・ローにおける無主不動産の収用。
- 資産没収 - 司法手続きによる没収。
- en:Alienation (property law)譲渡・移転(財産法)財産の放棄とも訳される[30]
- 徴用
- 徴発
- ロシア革命
- 暴力革命
- 民営化
- 集団農場