ポリ塩化ビニル
合成樹脂の一つ
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ポリ塩化ビニル(ポリえんかビニル、polyvinyl chloride、PVC、塩化ビニル樹脂)は、塩化ビニル(クロロエチレン)の重合反応で得られる合成樹脂(プラスチック)である。PVCは、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレンとともに、4大汎用プラスチックと呼ばれ熱可塑性樹脂に分類される。日本でも世界でも最も早くから工業化された歴史を持つ汎用プラスチックである[5]。 PVCには硬質と軟質がある。PVCの通称としては、塩化ビニール、塩ビ、ビニールなどがあるが、軟質PVCは、玩具等に使用される場合にはソフトビニール(Soft Vinyl)、ソフビとも呼ばれる。 硬質PVCは、建設分野で配管、ドア、窓枠などに使用され、また、プラスチックボトル、包装材、会員証の製造にも用いられる。可塑剤を添加して柔軟な性質を持たせた軟質PVCは、配管、電線の絶縁被覆、床材、看板、レコード盤、空気入り製品、ゴム代替品などに使用されている[6] 。また、綿や麻と組み合わせてキャンバス地の製造にも利用される。 なお、PVCをその原料である単量体の塩化ビニルと混同することを避けるため、単量体の塩化ビニルは、塩化ビニルモノマー (vinyl chloride monomer, VCM、塩ビモノマー)と呼ばれ区別されている。
可塑剤を含まない純粋なPVC粉末 | |
| 物質名 | |
|---|---|
別名 Polychloroethene | |
| 識別情報 | |
| 略称 | PVC |
| ChEBI | |
| ChemSpider |
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| ECHA InfoCard | 100.120.191 |
| KEGG | |
| MeSH | Polyvinyl+Chloride |
CompTox Dashboard (EPA) |
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| 性質 | |
| (C2H3Cl)n[2] | |
| 外観 | 白色の脆い固体 |
| 匂い | 無臭 |
| 密度 | 1.4 g/cm3 |
| 溶けない | |
| エタノールへの溶解度 | 溶けない |
| テトラヒドロフランへの溶解度 | やや溶ける |
| 磁化率 | −10.71×10−6 (SI, 22 °C)[3] |
| 危険性 | |
| NFPA 704(ファイア・ダイアモンド) | |
| 作業環境許容濃度 (TLV) | 10 mg/m3 (吸入), 3 mg/m3 (呼吸) (TWA) |
| NIOSH(米国の健康曝露限度):[4] | |
PEL |
15 mg/m3 (吸入), 5 mg/m3 (呼吸) (TWA) |

歴史
PVCは、ドイツの化学者オイゲン・バウマン(Eugen Baumann)による長期間にわたる研究と実験の末、日光の当たらない棚に4週間放置されていたフラスコ内で、白い固体として、1872年に合成された[7]。 20世紀初頭、ロシアの化学者イヴァン・オストロミスレンスキー(Ivan Ostromislensky)と、ドイツの化学企業グリースハイム・エレクトロン社(Griesheim-Elektron)のフリッツ・クラッテ(Fritz Klatte)が、それぞれPVCを商業製品に利用しようと試みた。しかし、PVCは硬く脆い性質を持っていたため、加工の難しさが障壁となり、その試みは成功しなかった。その後、1926年にウォルド・セモン(Waldo Semon)とB.F.グッドリッチ社(B.F. Goodrich Company)が、様々な添加剤を配合することでPVCを可塑化する手法を開発した[8]。さらに1933年にはフタル酸ジブチルを使用する手法も開発された[9]。
製法
PVCは、塩化ビニルモノマー(CH2=CHCl)の付加重合により合成される。塩化ビニルモノマーの製法はクロロエチレンを参照。
生産量の約80%は懸濁重合による。乳化重合は約12%、塊状重合は8%を占める。懸濁重合では平均粒径100~180 μmの粒子が生成されるのに対し、乳化重合では平均粒径約0.2 μmというはるかに小さな粒子が生成される。 懸濁重合の反応器には、VCM(塩ビモノマー)と水に加え、重合開始剤やその他の添加剤が投入される。反応容器内の混合物は加圧下で絶えず撹拌され、懸濁状態を維持するとともに、PVC樹脂の粒径を均一に保つ。反応は発熱反応であるため、冷却が必要である。反応中に体積が減少する(PVCはVCMよりも密度が高い)ため、懸濁状態を維持する目的で混合物に水が継続的に追加される[10]。 PVCは塩素化によって有用な改質が可能であり、この処理により塩素含有量を67%以上に高めることができる。このようにして得られる塩素化ポリ塩化ビニル(CPVC)は、懸濁重合PVC粒子の水性懸濁液を塩素化し、続いて紫外線を照射してラジカル塩素化反応を開始させることで製造される[10]。CPVCは、PVCより高温構造強度があり、温水配管用などに使われる耐熱性硬質ポリ塩化ビニル管として、JIS K 6776で規格化されている。またCPVCはPVCよりも難燃性に優れる。
構造
PVCは直鎖状で高い強度を示す。モノマーはhead-to-tail(頭-尾)結合で配列し、塩素原子は交互に炭素原子上に配置されている。PVCの主な立体構造は、立体規則性に乏しいアタクチック構造であり、塩素原子が結合した炭素の立体配置もランダムであるが、鎖の一部にシンジオタクチックな立体規則性が生じることで数パーセントの結晶性が生じ、これが材料の特性に影響を与えている。 PVCの質量の約57%は塩素が占める。塩素基の存在により、PVCは、構造的に関連のあるポリエチレンとは大きく異なる特性を示す[11]。密度についても、PVCは1.4 g/cm³であり、ポリエチレン(0.88~0.96 g/cm³)やポリメタクリル酸メチル(1.18 g/cm³)といった構造的に類似したプラスチックよりも高くなっている[12]。
添加剤
塩化ビニルモノマーを重合させただけのPVCは硬くて脆く、結晶質であり、紫外線によりポリマー分子を構成する塩素原子が脱離し劣化(黄変)しやすい。このためPVCを最終製品に加工する前には、添加剤を配合してコンパウンド(配合物)にする必要がある。例えば、PVC にはフタル酸エステルなどの可塑剤 [13]の添加が可能であり、硬い固体から柔らかいゲルまで連続的に変化する物理的特性が得られる[14][15][16]。 適切な添加剤を配合することにより、PVCは、機械的な安定性、耐久性[17]、耐疲労性、クリープ特性、柔軟性、耐薬品性、透明性、接着性、難燃性、電気絶縁性などの特性を備えた汎用樹脂製品となる[18][19]。それぞれの製品に使用する添加剤の選定は、最終用途の仕様におけるコストと性能の要件に基づいて決定される(例えば、地下埋設用パイプ、窓枠、点滴用チューブ、床材は、それぞれ求められる性能が異なるため、配合される成分も大きく異なる)[20]。このような優れた物性を持ちながら、ソーダ工業における食塩水電気分解で副産する低価格の塩素ガスが重量の半分以上を占める主原料のため非常に値段が安い[21]。
用途


PVCの用途は多岐にわたり、建築材料、水道パイプ、電線被覆(絶縁材)、椅子やソファの張地(ビニールレザー)、壁紙、インテリア(クッション材、断熱材、防音材、保護材として)、農業用資材(農ビ)、縄跳び用などのロープ、衣類、バッグ、医療分野、食品包装、 レコード盤、消しゴム [22]などがある。かつては玩具にもよく用いられた。最近では軽量化を図る目的で一部の自動車用のアンダーコート材としても用いられている[23]。
パイプ
PVCはポリエチレンとともに配管素材として広く利用され[24]、世界で生産されるPVCの約半分は、上下水道や産業用途向けのパイプ製造に使用されている[25]。米国の住宅市場においては、家庭用配管全体の66%、家庭用汚水排水管に限れば75%のシェアを占めている[26][27]。また、米国ではPVC製の下水配管には、硬質(可塑剤を添加していない)PVCが使用されている[28] 。上水道および汚水排水用に地中に埋設されるPVC管のうち、口径が100mm(4インチ)以上のものは、一般的にガスケットシール付きの継手で接続される。北米で最も広く使用されているガスケットのタイプは、金属で補強されたエラストマー製のものであり、一般に「リーバー(Rieber)シールシステム」と呼ばれている[29]。
電線被覆
PVCは、電線やケーブルの絶縁被覆材として頻繁に使用される。PVCが選ばれる理由は、優れた電気絶縁性、押出成形(成形加工)の容易さ、そして耐燃焼性である[30][31]。 火災時、PVCは塩化水素ガスを発生させることがあるが、このガスに含まれる塩素がフリーラジカルを捕捉する働きをするため、PVC被覆電線には難燃性が付与される。塩化水素ガス自体は健康に有害となり得るものの、空気中の水分に溶け込み、表面に付着・分解される性質があるため、人が呼吸できる程度の温度ではガスが吸入されることは少ない[32]。
建築材料
PVCは建築業界でも広く、かつ大量に使用されている[10]。PVCは、化学物質や日光、水による酸化に対して高い耐性を持つことで知られており[33]、上下水道に加えて、雨どい、縦どいなどにも使用されている。また、アイルランド、英国、米国、カナダでは、メンテナンスの手間がかからない外壁材として、木目調の仕上げを含む多彩な色や質感が用意され、塗装仕上げの木材の代替品として広く採用されている。
看板・グラフィックス
PVCは、さまざまな厚みや色の平板状のシートとして製造される。発泡させたタイプも多く見られ、重量やコストを最小限に抑えつつ、厚みを持たせることが可能になる。また、 軟質PVCは、薄手で着色または透明な粘着剤付きフィルムの製造にも用いられ、コンピュータ制御のプロッターでカットしたり、大判プリンターで印刷して加工することが可能である[34]。 これらのシートやフィルムは、多種多様な商業用看板、車両の装飾や広告を目的としたビニールラッピングやレーシングストライプ、さらには汎用ステッカーなどの製造に使用されている[35]。
衣類
PVCの生地は耐水性があり、その耐候性を活かしてコート、スキー用品、靴、ジャケット、エプロンなどに使用されている[36]。
医療分野
医療用として認可されたPVCの主な用途は、柔軟性のある容器とチューブ類である。容器には、血液・血液成分用、採尿用、あるいはストーマケア製品用などがあり、チューブ類には、採血・輸血セット、カテーテル、人工心肺回路、血液透析回路などに使用されるものがある。欧州における医療機器由来のPVC消費量は、年間約8万5,000トンに上る。プラスチック製医療機器の約3分の1がPVCで作られている[37]。
食品用器具・容器包装
PVCは、透明性・光沢性や容器にくっついて密閉する自己粘着性に優れてる[38]素材として食品用ラップフィルムに使用されるほか、食品用器具や容器包装の分野でも、ボトル、ブリスターパック、金属製蓋のシール材など、様々な製品に使用されている[39]。
ワイヤーロープ
一般的な用途に使用されるワイヤーロープや航空機用ケーブルは、加圧押出成形によってPVCで被覆することができる。PVC被覆ワイヤーロープは取り扱いが容易で、耐食性や耐摩耗性に優れており、視認性を高めるために色分けすることも可能であり、屋内・屋外を問わず、さまざまな産業や環境で使用されている[40]。
レコード
初期の円盤式レコードは、カーボンや酸化アルミニウムなどの粉末をシェラック(カイガラムシの分泌する天然樹脂)で固めたシェラック盤であったが、もろい材質であったため摩耗しやすく割れやすかった。その後、化学技術の進歩により、PVCを用いることによって細密な記録が可能となり、従来の鉄針からダイヤモンドやサファイアの宝石製の(いわゆる)永久針を使用すると共に、カートリッジの軽量化などの進歩により長時間再生・音質向上が実現された。
接着剤
可塑剤を含む軟質PVCは、溶剤を主成分とする特殊な接着剤(一般に「溶剤系接着剤」や「ソルベントセメント」と呼ばれる)を用いて接着することができる[41] 。粘度の調整、隙間充填性の向上、硬化の促進、さらには収縮や内部応力の低減を目的として、PVCやポリウレタン樹脂が添加される場合がある[42]。充填剤(フィラー)としてフュームドシリカを添加することで、粘度をさらに高めることも可能である。溶剤によって分子が可動状態となり、移動したPVCポリマー鎖が接合部で相互に絡み合って結合するため、このプロセスは「溶接」や「冷間溶接」と呼ばれることもある。
健康と安全性
食品用器具等への使用規制
食品用器具、容器包装、玩具などに使用されるプラスチックについては、人体や環境に有害な成分の使用が規制されており、PVCもその対象となっている。日本では、従来は使用を制限する物質をリスト化するネガティブリスト制度を採用していたが、2020年から5年をかけて、欧米と同様に、安全性が評価された物質のみを使用可能とするポジティブリスト制度が導入された[43][44]。
塩化ビニルモノマーの発がん性
1970年代初頭、塩化ビニルモノマー(塩ビモノマー、VCM)の発がん性が、PVC産業に従事する労働者の癌との関連で指摘されるようになった。例えば、ケンタッキー州ルイビル近郊にあるB.F.グッドリッチ社の工場で重合工程に携わっていた労働者が、肝血管肉腫(ヘマンジオサルコーマ)という稀な疾患と診断された[45] 。それ以降、オーストラリア、イタリア、ドイツ、英国におけるPVC関連労働者を対象とした研究においても、特定の種類の職業性癌と塩化ビニルへの曝露との関連が示され、VCMが発がん性物質であるという認識が確立された[10]。
燃焼とダイオキシン問題
PVCは燃焼すると、塩化水素(HCl)、水、および二酸化炭素が発生する。また、1990年代から2000年代にかけては、PVCをはじめとする塩素系プラスチックの燃焼がダイオキシン類の発生原因と考えられた時期もあった。 その後、廃棄物からPVCを除去しても、排出されるダイオキシンの量は大幅には減少しないことを示す研究がいくつか発表され[46]、また、塩素系プラスチックが存在しなくても食塩が存在すれば焼却炉からダイオキシン類が発生するとの研究[47]も報告されている。さらに欧州委員会の委託を受けて実施された「PVCおよび主要な競合素材のライフサイクルアセスメント」に関する研究では、「近年の研究によれば、プラスチック廃棄物の焼却に伴うダイオキシン排出量に対し、PVCの存在は有意な影響を及ぼさないことが示されている」と述べられている[48] 。 このように現在では、ダイオキシン問題については、ごみを焼却する際に適切な対策や管理を行っている場合にはPVCなどの塩素を含むごみの影響は相対的に少なく、燃焼状態や排ガス処理の状況の方が大きな影響を及ぼすと考えられている[49]。このため、日本では、野外焼却は原則禁止、家庭ごみの処理については、法の基準に適合した市町村のごみ焼却施設によって焼却することが望ましいとされている[50]。
エネルギー問題との関連
PVCは、重量比にして塩素が約半分を占めており石油消費量が小さいため、他の石油系プラスチックに比べて重量あたりの二酸化炭素排出量が小さく、環境への影響が小さいプラスチックであるという見方ができる[51][52]。樹脂化学業界団体は「塩化ビニルは製造プロセスにおけるエネルギー投入量が他の炭化水素系樹脂と比較して少なくて済む」「石油消費量が他の炭化水素系樹脂と比較して少なくて済む」「高断熱性で省エネに貢献する」などを主張している[53]。 その一方でPVCは、一般的な炭化水素系樹脂と比較して化学的性質がかなり異なるため、樹脂を再生利用する際に配慮が必要となる。例えば、塩素系プラスチックの焼却に伴い発生する塩化水素がPETボトルなどリサイクル可能な廃棄プラスチックにごく微量(PETの場合100ppm[54])でも混入するとそのリサイクル材の化学分解を引き起こし品質を低下させることが報告されている[55]。このためリサイクル施設では、PVCと他の樹脂とはX線の透過特性が異なる事を利用して分別している事例もある。



