専門家
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概説
専門性研究(Expertise research)の分野で世界的に著名なK. アンダース・エリクソン(K. Anders Ericsson)博士や、アメリカやヨーロッパなどの世界各地の大学や研究機関に所属する心理学や認知科学の専門家らが寄稿・編集している国際的な学術ハンドブック The Cambridge Handbook of Expertise and Expert Performance がケンブリッジ大学出版局から出版されており [2]、それによると専門家は次のように定義され、次のような説明がされている。
- 専門家の定義 ─ 専門家とは、特定の領域において、その領域の平均的な人や初心者と比較して、一貫して卓越した成果(Superior performance)を達成し、そのパフォーマンスを維持できる人物[2]。
- 客観的指標の重要性 ─ 専門家であることの根拠は、個人的な主張(「私は専門家だ」という主張)や"肩書き"ではなく、特定のタスクや課題に対して「客観的に測定可能な高い成果」を再現性をもって示せるかどうか、という点にある[2]。
- 専門性の形成 ─ 専門性は生まれつきの才能や単なる経験年数によって決まるものではなく、「熟達のための練習」(Deliberate Practice)と呼ばれる、高度に構造化された持続的な学習プロセスによって獲得される[2]。
- 知識の構造化 ─ 専門家は単に知識を暗記している人ではない。専門家(の頭脳)では、特定のドメイン(専門領域)内において、事実や概念が高度に体系化・組織化されており、複雑な問題・課題・状況に対しても迅速かつ的確なパターン認識と解決策の適用を行うことが可能である[2]。
コリンズらが著したRethinking Expertise[3]は社会学および科学技術論の観点から「専門家」の性質を説明しているが、それによると
- 専門的能力や知識には階層性があり、「貢献的専門性」(Contributory Expertise)と「相互作用的専門性」(Interactional Expertise)に分類される。前者は当該領域で実際に研究・業務を行う能力であり、後者はその領域の専門家と深く対話できるレベルの知識を指す[3]。
- 社会的な承認のプロセスの存在 ─ 専門家としての地位は、単に知識量だけで決まるものではなく、その知識が属するコミュニティ(専門家集団)内での検証と承認を経て確立される[3]。
- 民主主義社会における専門家の役割と正当性の担保 ─ 民主主義において専門家は公共の利益や政策決定において重要な役割を果たすが、その正当性は、客観的な証拠に基づく透明な(客観的で情報公開された)評価と、科学的規範や倫理的規範に従った手続き(ピアレビューや資格制度など)によって担保される必要がある、と指摘されている[3]。
歴史
自然科学に比重を置くコリンズらの書籍は次のように説明している。
- ヨーロッパ中世から近世
中世ヨーロッパから近世にかけて、エキスパートとは「熟練した職人」(master craftsman)を指した。この段階では、専門家とは「身体的な経験と、継承された技術(tacit knowledge:暗黙知)」を体得している者を指した。[4] 専門家の"権威"(正当性)は、組織による免許制度ではなく、現場での作業結果と、徒弟制度内での評価に基づいていた[4]。 なお、こうした形態は、アジアの伝統的な技芸や中東の技術的職能にも共通して見られる普遍的な形態であった[4]。
- 近代の欧米
(自然科学に比重を置く)Rethinking Expertiseによると、17世紀以降の科学革命と啓蒙思想の時代に、専門家の定義・要件が「職人的な経験」から「理論的・論理的な証明」へとシフトした[4]。この時期から、専門家という言葉は、神秘的な技量や個人的な技量ではなく、客観的で検証可能な知識体系を背景に持つ者を指すようになった[4]、としている。
- 20世紀以降
20世紀後半以降、社会が複雑化する中で、単一の専門分野に閉じこもった専門家だけでは解決できない課題が増加した[5]。 Rethinking Expertiseでは3つの時代(波)があったとしている。第1の波は科学的知識が絶対的で、科学者が唯一の専門家として崇拝された時代[5]。第2の波は、専門家に対する懐疑論が広がり、専門知識の権威が相対化された時代[5]。第3の波は、コリンズらが提唱するモデルで、科学的専門知の正当性を認めつつもその境界と限界を認識しようとする現代的な態度や視点。[5]
日本国内
- 特定の学問の専門家
学問に関しては、国内・国外の大学院で、当該分野の修士号・博士号を取得し、大学で学術的研究を行っており、その学問分野に特に精通しており、当該学問分野のコミュニティ(学会など)で、高い評価を得ており、その分野の課題については安定的に高品質の結果を出せる人が専門家とされている。
学問は分野が細分化されており(少なくとも数百種以上[注 1])、ほとんどの学問分野に専門家がいるが、専門家名(肩書)は膨大な数になるので、ここでは網羅的に挙げようとすることはしない。
なお、(公立や民間の)研究所やシンクタンクなどでの特定分野の研究歴が長く、その分野に精通しており、論文や著作も多数著すなどして、当該分野のコミュニティで高い評価をされている人も、上述の大学の専門家同様に、専門家と見なされる。
- 学問以外の専門家
学問以外の分野も、各分野は細分化されており、いちいち専門家を挙げてもキリが無く、数千を超える雑多な列挙になるので、本項目では挙げない。