想刻のペンデュラム
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北を山に囲まれ、南を海で閉ざされた。さして都会でもない街の夜。そこに人間離れした動きでビルの上を飛び移る亜麻色の髪をした老人と、それを追う太刀を携えた巫女装束の少女の姿があった。少女は老人を包んでいた蒼い光を消し去ると安堵の息を吐く。その光景を見届ける死鎌を担ぐ黒いセーラー服の少女は、紅い翼で羽ばたきその場を去る。
海辺に位置する地方都市、八月の泰来市にあるカラオケボックスで働く学生、降旗 洸は店長が営業の話で持ち場を離れていたため、友人の真咲 健太と共に留守の間客の相手をしていた。そこに妹のかれんが彼女の彼氏と紹介された結城 誓人と親友の菜摘 絢を連れて他愛もない話をしながら日常をかみ締めていた。その勤務場所の客だった男が、亜麻色に染まる髪と獣のような声を上げて騒ぎを起こすまでは…。異常な疾さで傷が直る誓人の身体の異変、大量の血と着ていた服、土くれのような塊を残して消えた男、何事も無かったかのようにその場で眠り続ける絢。この出来事が間もなく街を支配する惨劇の前兆と、自らの出生に秘められた秘密の鍵だとは、この時の洸には知る由がなかった。
用語
- 三支族
- 四千年前、中近東に存在した『喪われし使徒たちの国』と呼ばれる王国に住んでいた十の支族のうち、ガド、レビ、アシェルの三つの支族のこと。『喪われし使徒たちの国』は唯一神と戦って勝ったヤコブの子孫が住む国であり、そこに住むヤコブの末裔には神から「自然干渉術(カバラ)」が与えられ、これによって優れた文化と精神が培われていた。
- レビ
- 神事を司る支族。『喪われし使徒たちの国』にその繁栄を嫉んだ隣国の民が攻め入ってきた時、応戦を説くガドをアシェルとともに抑えた。これにより支族は戦わずして祖国を失うことになる。その後渡来した日本で起こったアシェルとガドの争いを調停しようとしたが、数も少なく性質も温和なレビ族にその力は無かった。
- “ルルドの泉”と呼ばれる唇を重ねる事で自身の体力を相手に分ける力を持つ。また、ガドの戒も使用していることから血筋に限ったことではない様子。
- アシェル
- 平和を尊ぶ支族。だが、日本列島渡来後に先住民族たる土着民(オリジン)の扱いをめぐってガドと意見が衝突し、やがて両者間で争いが起こる。劣勢に立たされ、土着民の協力を得ても戦況を覆すことができなかったアシェルは聖骨という禁忌の力に手を出してしまう。
- ガド
- 好戦的な戦士の支族。渡来後に土着民たちを力で支配することを唱え、それに反対するアシェルと対立した。その結果、勃発した戦いでアシェルに敗北し、滅亡寸前に追い込まれた。聖骨の力を戦いに用いてしまった罪悪感からアシェルはわずかな生き残りを放置したが憎しみが消えることはなく、復讐を誓ったガドたちは土着民に溶け込みながら力と怨念を血に潜ませていった。祖先の目的を果たすのに十分なほど血族の数がそろった時、徐々に子孫たちは血に目覚め始める。そして血に目覚めたガドの子孫は正気を失い、祖先の血がもたらす人間離れした力でガド以外の人間を殺そうとする。
- ガドの申し子
- 目覚めたガドたちを統べる王となり得る者。血に目覚めたガドの子孫は正気を失うのだが、ガドの申し子だけは正気を失うことが無い。
- 自然干渉術(カバラ)
- 神が『喪われし使徒たちの国』に住む十支族を祝福し、与えた『神に近い力』。精霊を使役することで文字通り自然界に干渉できる。現代でも支族の血を濃く受け継いだ子孫の中には自然干渉術を行える者が存在する。
- 聖骨
- ヤコブの遺骨。自然干渉術を増幅し強大な力を発揮する。日本に渡来した後に起こったガドとアシェルの争いにおいて、劣勢に陥ったアシェルが戦況を覆すためにこれを使い天変地異を降らせて勝利を収めた。この戦いの後、聖骨はアシェルの七つの血族に霊的存在として封印された。以降、聖骨は代々第一子に受け継がれている。
- 封骨者(シールド)
- ヤコブの遺骨である聖骨を受け継いだ者。その中でも聖骨を守る為に近親婚を重ねた結果、それぞれ七つの支族の中で血を最も濃く引くに到った者を呼ぶ。
- 天使
- 七つの聖骨の中に封じられていて、封骨者に魂断(タマダチ)を使うことによって目覚める。天使が目覚めると、封骨者の意識は乗っ取られてしまう。
- 恢国騎士団
- ガドの救済を目的に活動するガドの申し子だけの集団。ガドの手により『喪われし使徒たちの国』を回復しようとする。