新しい中世

From Wikipedia, the free encyclopedia

新しい中世(あたらしいちゅうせい、New medievalism)とは、グローバル化の進展によって国家主権の相対化が進む現代世界を、主権国家体制が成立する以前の、複数の権威が領域横断的に並存するヨーロッパ中世とのアナロジーで把握する国際政治の見方である。

最初に「新しい中世」という表現を用いたのはアーノルド・ウォルファーズが1956年に発表した論考においてである[1]。その後、1977年にヘドリー・ブルが主権国家からなる社会(国際社会)に代わる秩序モデルの一つとして「新しい中世」を提起し[2]、とくに冷戦後になると多くの論者が言及するようになっている[3]。日本では、1996年刊行の著書で展開した田中明彦の議論が広く知られている[4]

1977年の著書で、ブルは、世界政治における秩序を考察対象に据えて、近代ヨーロッパに成立した主権国家を構成要素とする「国際社会」の拡大のプロセスとその現代的特質を検討した。そして世界大に広がった「国際社会」を超越する代替物として、世界政府などいくつかのモデルを提示した。そのひとつが「権威が重なり合い、かつ多元的な忠誠のシステム」[5]、すなわち「新しい中世」である。

ブルは、それまで主権国家に集中していた権威/権力が分散し、重層的な関係を切り結ぶ社会空間が誕生したと判断する指標として以下の5つを挙げている[6]

  1. 諸国家の統合:ヨーロッパ共同体の形成に端的に見られる地域統合が主権国家の存立基盤を覆す可能性。
  2. 諸国家の分離:一国内における自治分離運動が主権国家の枠組みを変える可能性。
  3. 私的な国際暴力の復活:暴力の独占的管理という主権国家の存在論的基盤に対する挑戦。
  4. 脱国家的組織の生成:国境を越えたさまざまな社会運動や世界銀行などの国際機関の行動による主権国家システムの浸食。
  5. 技術発展による世界の一体化:「宇宙船地球号」や「地球村」といった主権国家の上位に措定される帰属意識の醸成。

しかし、以上の5つの指標を検討した結果、ブルが導き出した結論は、1977年の時点で、「新しい中世」が「主権国家システムに比べ、それほど秩序だっていないことの確証ではなく、むしろ、いっそう秩序だっていることの確証をまったく持てない」[7]というように、否定的なものであった。

田中明彦の「新しい中世」論

田中は、米ソの二極対立とイデオロギー対立によって特徴づけられる冷戦の終焉、アメリカの覇権の衰退、経済的相互依存の深化という趨勢によって、主権国家システムが大きく変化しているという認識に立ち、現代世界を「新しい中世」と名づける。田中の「新しい中世」論は、次の2つの仮説からなる[8]

  1. グローバリゼーションの進展によって、現代の世界システムが『近代』的なものから、『中世』的なものに変質する」
  2. 「『新しい中世』に向かう傾向には差異が存在し、その基準で考えると、現在の世界はおおむね3つの圏域にわけることができる」

現代世界とヨーロッパ中世とを比較したとき、主体の多様性、イデオロギーの普遍性という2点において類似している一方で、経済的相互依存の進展という現象に「新しさ」がある[9]。すなわち主権国家以外に、多国籍企業、国際組織、NGOなどの非国家主体が登場し、その重要性が増していることと、イデオロギー対立であった冷戦の終焉によって、自由民主主義市場経済というイデオロギーが世界的かつ普遍的に受容されている状況が、ヨーロッパ中世における主体の多様性と普遍的イデオロギーとしてのキリスト教の存在の点で、共通性を持っている。他方で、技術水準や経済度システムなど経済的な結びつきの点で、現代世界はヨーロッパ中世とは異なる。

さらに田中の「新しい中世」論の特徴は、世界システムの変容の度合いに応じた違いの存在を把握する方法として圏域モデルの提示と、それをアジア太平洋の秩序の動静分析に適用した点にある。「新しい中世」的特徴が全世界的に均一に生じているわけではないと指摘し、田中は、自由主義的民主制と市場経済の成熟・安定度を基準に、冷戦後の世界を「新中世圏」、「近代圏」、「混沌圏」の3つに分け、「新中世圏」から見た対「近代圏」および「混沌圏」との関係を検討する。そして仮説検証の事例として、田中は、このモデルにもとづいて、アジア太平洋の国際関係を分析し、また「新中世圏」の日本の採るべき戦略を提言する[10]

3つの圏域
主体 争点 特徴 手段 戦争 脅威 近代化
新中世圏 多様 経済・象徴 調整 経済・説得 皆無 心理・社会 終了
近代圏 主権国家 軍事・経済 対立 軍事・経済 政策手段 経済・外敵 途上
混沌圏 域内集団 軍事 生存 軍事 戦争状態 無数 失敗

そのほかの「新しい中世」についての議論

関連項目

Related Articles

Wikiwand AI